あなたは「一斉講義」を聞くと「懐かしさ」と「ホッと一息」を感じますか?

「一斉講義って、何だかホッとしますね(笑)あっ、久しぶりに一斉講義だわと思うと、懐かしくて、懐かしくて」

 ▼

 僕が大学院生の指導をしている大学院では、授業の多くが、いわゆる伝統的な一斉講義を行わない形式で実施されているそうです。
 僕自身は、授業は自ら「実施」しますが、他の先生方の授業を「受講」したことはないので、あまり詳細は知りません。
 が、ちょっと前になりますが、上記のようなセリフを大学院学生のひとりが、口にしていたことを覚えています。同様のことは、他の大学院生もおっしゃっていたので、たぶん、それなりの合意はあるのでしょう。

 学生の弁によると、ほとんどの授業が、いわゆるディスカッションやグループワークなどを前提にして組みたてられているそうなので、あまり気が抜けない。

 また、グループワークなどでは、大学院生同士でスケジュールを合わせたりするのが大変で、モティベーションに差がある。時折、ディスカッションなどがヒートアップして、大学院生同士で、激しいコンフリクトを生み出すのだとか、そうでないとか。
 
 こうした授業は、伝統的な一斉講義と比べると、やはり大変で、気が抜けません。
 一斉講義が「マジョリティ」で、こうした双方向型の授業が「マイノリティ」の間は、双方向型授業が「素晴らしいもの」に見えるのそうです。
 が、しかし、ある一定数を超えて、一斉講義の数を双方型授業が凌駕するようになると、上述のセリフのように「一斉講義が懐かしくなる」「一斉講義がホッとする」という状態が生まれるのだとか。

 学生の中には、

 「一斉講義の良さがわかる」

 ともおっしゃっている方もいらっしゃいました。
 とても興味深いですね。 

 ▼

 一斉講義が「懐かしく感じられる」のか、それを聞いて「ホッとする」のか。
 一斉講義って「いいなぁ」と感じるのか、そうでないのか。

 本質論では、「学習の目的にてらして手法の選択がなされるべき」であり、僕個人としては、一斉講義であろうが、双方向であろうが、それ自体の選択にあまり興味がありません。
 しかし、こうした一連の問いを通して、自分の所属する機関の教育のあり方がわかるのかもしれません。

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月31日 06:09


調査とは「他人の貴重な時間を奪うこと」である!? : 「表象の暴力」といかに向き合うのか?

 今日の夕方には、法政大学・キャリアデザイン学部の皆さんに講演をさせていただく予定があります。1年近く前からご依頼いただいていた事項で、「この10年、自分が取り組んできた研究」について、1時間半程度でお話させていただく予定です。ご担当いただいた梅崎修先生には心より感謝をいたします。貴重なお時間をありがとうございました。
 昨日は、その資料づくりのために、午後の時間を過ごしていました。

「ちっぽけな10年!」と言われればおっしゃるとおり、まさにそれまでですが、我が10年を振り返り、つくづく思ったことがあります。
 それは、自分の研究は、その折りごとに、「現場で仕事をしている多くの方々」に「回答」を求めてきた、という「重い事実」です。

 おそらく、これまで自分が為してきたすべての研究の回答者、調査関係者を足し合わせれば、1万人を超える方々が、僕の研究に時間を下さったのではないかと思います。1万人が、たとえば、等しく15分ずつ時間をくださったと仮定してみてください。足し合わせれば、15000分。すなわち2500時間。研究という営為に、どれだけの人々の貴重な時間が費やされているか、そのことの重みを感じないわけにはいきません。
「心より感謝いたします」・・・そんな言葉では言い足りないほどの謝意を感じます。本当にありがとうございました。
 
  ▼

 これは自戒をこめて申し上げますが、ワンワードでいえば、現場をもつ学問にとって

「調べること」とは「他人の貴重な時間を奪うこと」

 です。
 僕は、そのことを、目をそらさず、受け止めようと思います。このことを、どんなに、正当化しようとも、よしんば「アクションリサーチ」だの「コラボレーション」だの、最近の美辞麗句を重ねようとも、この事実だけは覆い隠すことはできません。

「調べること」とは「現場の時間を奪うこと」

 という側面を、どうしても否定できないのです。

 もちろん、その研究知見が、幸運なことに、よしんば現場に人々に返ったとしたならば、結果として「報われる日」も来るかもしれません。
 アクションリサーチという形式をとれば、現場にとって改善の機会も提供されるでしょうから、「収奪の程度」は少なくなることが予想されます。
 しかし、おそらく、それを「ゼロ」にすることはできません。外部から、ある環境を調べるということは、特に、それが人間の営為の場合には、「収奪」になりうるということです。

 ▼

 この手の問いに対して、比較的自覚的であったのは、こと僕の研究領域に関して述べるのであれば、社会科学の領域の、いわゆる質的研究と言われる分野の研究群であったように思います。
 
 いわゆるクリフォード・マーカスの一連の論考を持ち出すまでもなく、それら一連の論考は、調査者の知見が、被調査者に返報されないことを問題視し、調査を行うということが、いかなる営為なのか、を論じました。

 調べることは、被調査者の預かり知らないところで、研究者のみによって流通する「表象」を創り出します。
 そして、その「表象」は、研究者の議論や栄達には寄与するものの、被調査者には返ることはあまりありません。自覚のない、批判力のない学問分野−科学たらんとすることに奢る分野ーであれば、この程度は甚だしいものです。これらの現象は、一般に「表象の暴力」と形容されます。

 ▼

 僕の考える人材開発研究は、何とかして、この「表象の暴力」をゼロにはできぬものの、減じていきたいと願います。
「自分たちは現場の時間を奪っている」という事実をまずは受け止め、「原罪」として引き受けたうえで、それらによって生み出される知見を、何とか流通させたいと願います。そのためならば、何でもする、という「恥知らずさ」が、僕の動機かもしれません。

 今日の講演では、このようなことをモティーフにしながら、自分の研究を振り返ってみたいと思います。ちょっとマニアックかもしれませんが、お楽しみいただけたとしたら幸いです。

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月27日 08:15


「英語が話せない」のは「英語の言語スキル」の問題か!?

 先だって、ある本の編集会議で、渡辺清乃さん、かんき出版の山下さんと話していた際、興味深い話になった。「日本人は、英語を話すことができない」という俗説にも、少し考えてみると、その理由には、いろいろ可能性があるよね、という話である。

 換言すれば、外国人の方々を相手に、たとえば、「日本人が英語を話せない」というとき、その現象は、もう少しブレークダウンして要素分解して考える必要があるということだ。

 たとえば、一口に「英語が話せない」というけれど、本当に「英語という外国語を用いるスキルがない」のか、そもそも「言語という手段を用いて、他者に伝えたい内容が自分にない」のかは、本来、峻別して考えなければならない。
 しかし、ともすれば、「英語を話せない」とき、本当は「自分の意見をもっていないために、そもそも他者に伝えたい内容がないこと」は忘れ去られ、「話せないこと」の理由が「英語」の言語スキルに帰属されることがある。

 でも、少し考えてみればわかるとおり、そもそも英語はもとより、日本語であってすらも、ある話題に対して自分の意見をもっていない人は、それを他者に対して表明できるわけがない。

 たとえば、よく外国に留学すると、学生同士が、政治の話、歴史の話に外国人から意見を求められることがあるけれど、そもそもそうした知識をもっていない人、そうしたことに自分の意見を持っていない人は、英語云々の問題ではなく、「話すべき内容がない」のである。

 このことは、少し考えてみれば、あたりまえのように感じられるけど、ともすれば忘れ去られがちなことだ。
 言語を用いて他者とコミュニケーションするということは、「言語」という「コミュニケーションの道具」のみならず、コミュニケーションの対象範囲に関する広範な知識が必要である、ということである。
 そうした広範な知識を、「教養」というワンワードで呼べるかどうかは、意見の分かれるところだろうけど。

  ▼

 文化的背景や社会的背景を異にする人々とコミュニケーションするというのは、かくのごとく、それなりに大変なことである。個人的には、言語のスキルも大切だろうけど、「自分の意見をもつ」ということが、最も大切であり、意外に忘れ去られがちであると思われる。
「道具」だけあっても、「中身」がなければ、仕方ないと言うことですね、嗚呼。

 そして人生は続く
 

 

投稿者 jun : 2015年3月26日 10:14


「創造すること」をとおしたキャリア教育!?:メディア創造ワークショップ2015(東大・駒場キャンパス)の作品ビデオが公開されました!

 学部生自らが、「仕事に関連する3分間の番組」を企画・取材・撮影・編集・発信する授業である「メディア創造ワークショップ」という授業があります。

 東京大学駒場キャンパスで年に一回行っている学部生向け授業で、映像作家の大房潤一さん、大総センター助教の中澤さん、石原さん、中原、そして駒場・教養教育高度化機構・アクティブラーニング部門の福山さん、脇本さんらのご支援をうけて実施をしている授業です。

 開発された3分間ミニビデオは、東大公式のメディアである東大テレビ、東大iTunesU、Youtube、Facebookなどで一般に広く公開します。

 3分間ミニビデオを創る際には、毎年テーマをだしているのですが、今年度のテーマは「Global × Work × Discovery」でした。「グローバル化していく世界の中で働くこととは何か?」を、同時代を生きる同年代の学生に問いかけるような映像をつくることを求めました。
 
 その際、大切にしたいのは「Discovery(発見)」というマインドです。やれ、グローバル人材やら、何やら、そういう手垢のついた言説空間で流通するような「紋切り型の表現」ではなく、フレッシュな視点で、「グローバル×働くこと」を捉えなおし、番組を企画・撮影・編集を行うことを求めました。

  ▼

 昨日、メディア創造ワークショップ2014の成果である4本のビデオが、東京大学テレビで公開されました。

 今年、学生が取材させていただいたのは、紙すき職人 田村正さん、株式会社クラウドワークスCEO 吉田浩一郎さん、寿司職人 安田直道さん、神職・フローリアン・ウィルチコさんです。
 年末年始の大変お忙しい時期に学生に貴重なお時間をいただいたことを、この場を借りて御礼申し上げます。下記がリストになります。

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紙すき職人 田村正さんのビデオを見る(東大テレビ)
http://todai.tv/contents-list/events/mediaws/mcw2014_1

 和紙が出来上がる瞬間の感動を国内外で伝え続ける紙すき職人 田村正さん。

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株式会社クラウドワークス創業者の吉田浩一郎さんのビデオを見る(東大テレビ)
http://todai.tv/contents-list/events/mediaws/mcw2014_2

 時間も場所も問わず、個人のスキルを活かしながら働くスタイルを提案する気鋭の株式会社クラウドワークス創業者の吉田浩一郎さん。

sushishokunin_yasuda.png

寿司職人の安田直道さんのビデオを見る(東大テレビ)
http://todai.tv/contents-list/events/mediaws/mcw2014_3

 日本を飛び出し、アメリカで寿司の腕を磨くことを選んだ寿司職人の安田直道さん。
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神職・フローリアン・ウィルチコさんのビデオを見る(東大テレビ)
http://todai.tv/contents-list/events/mediaws/mcw2014_4

 神道に魅せられ、オーストリアから日本に渡り神職に従事しているウィルチコさん。

   ▼

 この授業では、「学校の準備した著名人・OBによるキャリアの語り」を「受け身」に「聞く」のではなく、学生自らが「働くことの未来」を考え、企画・取材・撮影・編集を繰り返し、世の中に通して「発信」することをめざします。
 企画・撮影・編集の作業を通して、何度も問い直されるのは、「この時代に"働く"とはいったいどういうことか?」という根源的な問いです。

 この授業は、ことさら、「キャリア教育」をめざしたものではないですが、僕は、このように「能動的にキャリアを考え、実践すること」を通してしか、「自分の働き方は見えてこない」と思っています。
 この授業は、見方によれば「キャリア教育とは言わない、キャリア教育」と形容できるのかもしれません。しかし、僕はいわゆる典型的な「キャリア教育」を実践したいとは思いません。

 いわゆる、先輩やOBの話を「聞いて、聞いて、聞いて、帰る」式の典型的な「キャリア教育」ではなく、企画して、編集して、発信することによる「創造することを通したキャリア教育」こそが、この授業でめざしたことです。

 1年生、2年生の作品なので、まだまだ稚拙なところはあるかもしれませんが、どうかご笑覧ください。

 最後になりますが、ここまで頑張った駒場の1年生、2年生諸氏、そして、特に貴重なアドバイスを多々いただいた映像作家の大房潤一さん、中澤明子先生に心より感謝をいたします。ありがとうございました!

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月25日 08:21


人材開発の基礎を学びなおす:大学院授業「経営学習論」2015の準備中!

 年度末の追い込み仕事やら、博士論文の審査やら、「忙しい!」という一語では決して形容できない生活を過ごしています。いやー、慌ただしい!そんななか、ようやく暇をみつけ、夏学期の準備にまで手が回るようになりました。

 来年度夏学期の、僕の大学院授業では、改めて「人材開発の基礎」を学ぼうと思います。Swanson & Holtonらの「人材開発(Human Resource Development)の定番教科書を、英語文献購読しようと思っています。この本は、やや基礎的すぎるかもしれませんが、人材開発の理論的フレームワーク、視座、歴史などを体系的に学ぶにはちょうどよい本です。本書においては、人材開発とは、キャリアディヴェロップメント、組織開発を含みうるものとして定義され、紹介されています。

 これとは別に、中原研OBの関根さんが、人材開発の別の論文集の英語文献購読・自主勉強会を準備してくれています。ありがとうございます。

 2015年は、初心に戻り、再度、ベーシックに立ち返り、もう一度僕自身も学び直そうと思います。

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東京大学大学院 学際情報学府 2015年度
「経営学習論(Management Learning)」夏学期 授業概要
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中原 淳
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
 
■講義の概要
 経営学習論とは「経営・組織における学習」に対する学際的
研究領域です。一般的な用語を用いれば、組織における「人材開発」
「人材育成」の基礎理論に関する研究領域です。人が組織にエントリーし
どのような発達をとげ、どのように熟達していくかを、探究します。

 本講義では、Swanson and Holton(2009) Foundations of
Human Resource Developmentという人材開発の教科書を購読し、
本領域に関する理解を深めます。研修開発・組織開発の基礎を学習する
ことができます。想定される受講者像としては、下記を想定しています。

・組織における知識共有、学習に関心のある方
・組織のおける人材育成、人間の成長に関心のある方
・組織変革や文化の構築等に関心のある方 
 
 本講義は、受講者全員が、グループないしは個人での英語文献発表や
ディスカッションを行います。ディスカッションは日本語です。
このことの趣旨を十分理解し実践できる方の受講を期待します。
 なお、本講義は学部生の聴講を認める場合がありますが、学部生には
単位はでません。外部聴講は認める場合がありますが、文献担当を行わない
参加を認めません。
 すべての学生が文献購読・ディスカッションに参加することが求められ
ますので、どうかご留意ください。
 
 
■評価
 下記の3点から成績をつけます。
1.コメントカードによる出席点30%
2.プレゼンテーション(全員からの相互評価30%)
3.最終プレゼンテーション(全員からの相互評価40%)

 なお、相互評価のポイントは下記の5点。
  1.スライド・配付資料のわかりやすさ( / 5)
  2.プレゼンテーション手法(声・身振り)( / 5)
  3.質疑応答の適切さ( / 5)
  4.理論の解説がわかりやすいか( / 5)
  5.考察がなされているか( / 5)
 
 
■場所・時間
 水曜日 4限より(14:50)
 福武ホールスタジオ1(本郷キャンパス)
 
 
■連絡先
 中原 淳(なかはらじゅん)
 〒113-0033 東京都文京区本郷7−3−1
 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
 東京大学大学院 学際情報学府 准教授(兼任)
 Blog : http://www.nakahara-lab.net/


■授業アーキテクチャ
 ・イントロダクション(中原:10分)
 ・文献発表(文献担当グループによる:30分)
 ・ディスカッション(グループで:15分)
 ・オープンディスカッション(クラス全体で:30分)
 ・ラップアップ(中原:5分)


■英語文献発表のやり方
・個人ないしはグループで、課題として設定された文献を購読し、
内容を要約します。

・発表はレジュメを用いて行います。パワポの配付資料での発表
はお控えください。
 レジュメ事例は、上記の文献パッケージに入っているので、みておくこと

・レジュメの構成時には下記を検討する
 ・各文献の要約をまとめた内容
 ・今回の文献で興味深かったところ/面白かったところ
 ・今回の内容を見て思いついた関連する事例など
 ・(グループの場合)今回のプレゼンテーションの各人がどのような
  役割を担ったか?

・配付資料は人数分用意し、各自で印刷すること。

・配付資料は「レジュメ配付資料」を用意する。
印刷は各グループで行うこと。

・発表の時間は30分。その後質疑応答があるので、質問にも答えられる
ようにしておくこと。
 
 
■参考文献
・Swanson and Holton(2009) Foundations of Human resource development. Barlett-Koehler.

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投稿者 jun : 2015年3月24日 08:22


4月、新たな生活を始める人々は、今どんな気持ちでいるのか!? : トランジションに感じる不安・葛藤・リアリティショック

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 首都圏は、春ですね。
 この数週間で、薄手のコートを着るようになりました。もう「冬」には飽きたので(笑)、陽光が日々差し込む日を心待ちにして、日々を過ごしています。マイ盆栽も、新芽がではじめて、毎朝起きる度に、僕はハッピーです。

  ▼

 ところで、春というと、僕にとっては、

 「嗚呼、今年もまたトランジションの季節がはじまったな」

 と感じます。

 あまり一般的な認識ではないのかもしれませんが、「春といえば、誰が何と言おうとトランジション」です(笑)。トランジション(Transition)とは、ここでは「社会的な役割の移行」と捉えておきましょう。

 要するに、高校生から大学生へ、大学生から社会人へ、実務担当者からマネジャーへ、会社員から市民へというかたちで、社会的に期待されている役割が転換し、移行することを言います。

 トランジションにまつわる研究は、それこそ「吐いて捨てるほどあります」ので、あまり詳細をここで述べるわけにはいきません。ブログの執筆時間は20分しかないのです(笑)。

 しかし、ごくごくかいつまんでお話しすると、こんなことがいえます。

 トランジションとは「宙ぶらりん」で「不安定」な時期で、これから来る新しい生活に「期待」をもつ一方、ともすれば、不安や葛藤といったネガティブな感情を抱えやすい時期です。

 そして、トランジションが起こったとき、新たな生活や役割に接したときには、ごくごく初期において、ハネムーン期というべき「バラ色の日々」を夢見がちでありますが、それは多くの場合、ごくごく短期間で打ち砕かれます。新しい生活の現実を知り、「リアリティショック」や「カルチャーショック」を受けるのです。

 興味深いことに、これまで数多くの調査を行ってきましたが、トランジションのプロセスには、いつも「n.s.(no significance : 統計的有意な差はない)」がつきまといます。

 回答者をいろいろな属性(カテゴリー変数)にわけて分類して、「トランジション時の感情」を分析してみても、トランジション時の不安や葛藤、そして、その後のリアリティショックに関しては、カテゴリー間に統計的有意な差はない、ということが非常に多いということです。

 つまり、多かれ少なかれ

 新しい生活に移行するときには、みんな、どこかで不安や葛藤を感じる
 新しい生活に移行した当初は、みんな、リアリティショックを受ける

 ということになりますね。

 あなたが、ハイパーアクティブ前のめりピーポーだったとしても、
 トランジションの最中、初期には、やはりぐずぐずするのです。
 また、ショックを受けるのです。

 一方、

 あなたが、寡黙で粛々と仕事をこなすピーポーだったとしても、
 やはり移行の最中には、感情のブレは感じるものです。

 逆にいうと、「それであたりまえなんだよ」ということになります。
 不安や葛藤、そしてリアリティショックを受けたからといっても、過剰に心配になる必要はありません。そこそこ、みんなそうなんですから。

 逆に、「今、おれって、トランジションの最中にいるのかも」「今、わたしって、リアリティショック受けてるかも」と自分を客観視してみても、よいかもしれません。

 ▼

 今日はトランジションについて書きました。
 春は一日一日と近づいています。
 次第に人が増えてくるキャンパスを歩いていると、新たな生活を迎える人々を応援したい気持ちになります。
 
 そして人生は続く

 

投稿者 jun : 2015年3月23日 08:27


最近の大学生の特徴は何ですか?:「覚醒していること」と「バレていること」!?

 ちょっと前のことになりますが、人事系のビジネスパーソンが集まる、ある場所で、下記のような質問を受けました。

「最近の大学生は、どのように変化しているのでしょうか? 最近の特徴はありますか?」

 この類の質問は、よくいただくことがあるのですが、真摯に考えようとしますと、なかなか答えることが難しい問いのひとつです。

 そもそも「最近」といっても、何を比較対象として「最近」を照射するのか。また「大学生」といっても、どういう大学にいる、どういう大学生をさして、答えればよいのか、必ずしも自明ではないからです。

 しかし、さすがに時間が差し迫っていることもあり、これらの焦点を絞る一連の問いかけを行うわけにもいかず、一方、「わかりません」とシャットダウンとすることもできず、一寸、考えたうえで、僕は、下記のような趣旨のことを述べました。

「これからお話しすることがどの程度一般性のあることかはわかりません。あくまで、わたしの周囲の学生だと思って聞いてください。

わたしの認識に関する限り、間違いのないことは、ここ数年の大学生は、すでに"覚醒していること"と、大人の事情、組織の事情は、おおむね"バレている"ということではないかと思います。それらを前提にして、今後の人事施策は考えていく必要があるのではないでしょうか?」

 つまり、どういうことかと申しますと、下記の通りです。

 第一に"覚醒していること"とは、現在の大学生は、中高大の物心ついたときから、キャリア教育等等の施策によって「自分の仕事人生は自分で切り開くんだよ」と言われている世代であり、程度の差こそはあれ、そのような意識をもっている=覚醒しているということです。
 マスで統計をとれば、そのことに面倒を感じる学生も多々おりますので、「自分の仕事人生を組織に丸抱えして欲しい」という回答も増えるでしょうが、「覚醒の程度」は、少しずつ増しているような気がします。
 そのような彼らに、「いつか報われるかもしれないし、報われないかもしれないけど、組織に忠誠を誓え的な人材施策」は、マッチングは難しく思います。

 第二に「バレている」とは、どんなに組織が、自社の社員の働き方の暗部や、組織として隠したいことを隠そうとしても、インターネットの発達によって、少し智慧をしぼれば、それらはすでに「白日のもと」に晒されており、バレているということです。
 情報化社会とは「隠したいと思う情報ほど、バレていく社会」であり「アピールしたいと願う情報ほど、流通しない社会」です。組織が隠したい情報は、多かれ少なかれ、すでにばれています。

 先だっても、非常にかつては誰もが憧れる就職先で、最近、採用応募者が激減しているある業界の方が、研究室を訪れ、「なぜ減っているんでしょうかね」と申しますから、

「そりゃ、みなさんの働き方と、その働き方の先に広がる未来が、今の学生に、バレているからですよ。」

 と申し上げました。

 さらにソーシャルメディアの発達は、同期間ネットワークや、大学卒業生のネットワークの維持も容易にしました。すると、組織には行って、自分の身におこっている不条理な出来事が、「一般性のあること」なのか、それとも「特殊なこと」なのかも、ある程度は、検知することができるようになりました。

 ワンワードで述べますと、

 組織が「上」と個人が「下」という「非対称の関係」は、少しずつ綻びかけている

 のだと思います。

 ある意味で、組織が「上」と個人が「下」という「非対称な関係」を「前提」とするような人事施策、社会化戦略というのは、非常に「楽」で「わかりやすい」ものです。

 しかし、わたしたちは、「組織と個人が非対称の関係をなす時代」をしだいに抜け出てきています。ならば、人事施策、社会化戦略も、少しずつ変化させることが必要になると思われます。

 ▼

 今日は、最後はやや抽象的な話になりましたが、「最近の大学生の特徴?」という話から、これからの人事施策を考えていくうえで、必要な要点を述べました。
 
 わたしたちは、これから10年ー20年、さらに組織が「上」と個人が「下」という「非対称な関係」を「前提」にしない人事、人材開発のあり方を、少しずつ模索していく方向に進むと思われます。

 そこで必要になるのは、「組織のことを強制的に好きにさせる」とか「組織の知られたくないことを意図的に隠して、労働力調達する」とかいう方向「ではない」ものだと思われます。

 むしろ必要になってくるノは「組織への共感」「ポジもネガも明らかにした採用力の向上」等でしょうか。
 
 僕はそんな未来を「妄想」しています。
 みなさんはいかが思われるでしょうか。
 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月20日 08:07


講演・イベント登壇「後」にもれなく「廃人」になってしまう最近のわたし

 小生、今年で40歳です。
 40歳というと、かつて20代だった頃の自分は、もっと大人に見えましたが、自分が、その年齢に近づいてみると、びっくりですね。
 内面はほとんど変わっていないのに(泣)、「あんた、今年40歳だよ」と言われている気がします。「えっ、うそー、マジ?」という感じです。
 きっと、50代も、60代も、そんなものなのかなと思ってしまいますが、どうなんでしょうか。少なくとも僕の場合、あまり「成長」は見当たりません。困ったものです。

  ▼

 ところで、マインドは「成人式を終えたばかりのヤング?」なのですが(死語ヤングを敢えて使ってみた)、身体的には、最近、衰えをすこしずつ感じています。しかも、自分の職業に即したかたちで、その「衰え」を感じるのです。最近、以前のようにはうまくいかないことが増えています。以下2つだけ、それを書きましょう。

 第一に、ワークショップやイベントなどを行った「後」、もれなく「廃人」になってしまうことです(笑)。廃人とは「気力も体力も使い果たし、シオシオのパーになっている状態」ですね。

 ファシリテーションとか、司会とか、講演は、想像以上に気力・体力を消耗します。おまけに、僕は、人前にたつのが好きなわけでも、得意なわけではありません。
 外側からみるとリラックスしているように見えるかもしれませんが、背中はいつも汗だらけ。ピンと神経の張り詰めた時間が長く続きます。

 ワークショップやイベントを終えた自分は、喩えていうならば、こんな感じです。

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 30代前半の僕ならば、毎週、こうしたイベントに登壇しても、全くピンピンしていました。むしろ、「さー、飲みにいくどー!オラオラ」という感じでした。しかし、最近は、快復が遅くなっている気がします。

 第二に、統計分析などをしているときの「集中力」がかなり減った気がします。
 むかしならば、数時間没頭し、あっという間に日が暮れる・・・のような経験がたくさんあったのですが、最近は、「全く」日が暮れません(笑)。
 むしろ、なかなか集中力がたもてず、統計をポチポチしつつ、Facebookを見たり、ポチポチしつつ、Twitterを見たりしています。困ったものです。

 そんなこんなで、最近、衰えを感じます。

 しかし、ややこしいのは、やりたいことが、それに従い「減っている」かというと、むしろ、そうではないということです。やりたいことが増えている。やれることが増えている。やらなければならぬことが増えている。年を重ね、ようやく、いろいろなことが自分の思い通りにできる環境ができているのです。
 一方、「やりたいこと」や「やれること」や「やらねばならぬこと」が増えているのに、それなのに、体力や気力は衰えている。
 人生とは、まことに「皮肉」そのもの。うまくできているものです。

 なかなか思い通りにならなくなりつつある体力・気力をうまく使って、パフォーマンスを出さなければならない状況に、今、僕はあります。それが、40代の入り口にたった、僕の直面するリアリティです。

  ▼

 3月もそろそろ終わりになり、4月新年度に近づいています。
 多くの人がそうであるように、4月新年度には心機一転、もう一度、体力や健康を見直す努力をしてみようかなと思っています。
 
 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月19日 05:45


はだかん、はらおち、おとしどころ!? : 組織の「隠語」に出会う旅!?

 はだかん
 つめられた
 おとしどころ
 はらおち
 あてでつくる

 さぁ、みなさんは、これらの言葉の意味、何個わかるでしょうか。読者の中には、この問いに「は?何で常識的なことを聞くの?」と思われる方もいらっしゃるでしょうし、「は?なんだろうか」と訝しがっている方もおられるでしょう。

 どんな社会にも、その社会集団内でしか通用しない言葉というものが発達します。
 僕が会社・組織の研究をはじめて、もう10年以上が立ちますが、この研究をはじめた頃というのは、ビジネスパーソンが使う言葉、ひとつひとつが全くわからず。しかし、せっかくいただいた貴重なヒアリングの最中に、「言葉がわからない」とはとても言える雰囲気ではなく(泣)。目新しいわからない言葉がでてくるたびに、ノートのはしにメモをして、あとでぐぐって調べていました。
 先ほどの5つの言葉は、10年以上前には、僕はひとつも意味がわからない言葉でした。さて、みなさんは、いかがでしたでしょうか。

 これに加えて、人材開発研究では、ひとつの会社に入っていくことも行われます。そうすると、これらの一般的?なワードに加えて、その会社でしか通用しない言葉にたくさんあうことになります。

 脳ちぎれ
 あの人は、X場所目

 とか言われても、ピンとこないでしょう?
 このように組織には、その組織の中でしか通用しない言葉があるのです。内部にいる人にとっては、常識なのですが、それは外部の異邦人からすると「?」なわけですね。

 考えてみれば、この10年強というのは、こうしたことをひとつひとつ学びながら、研究を進めてきたような気がします。

 ひとつ言葉を覚え、少しだけそこにいる人々の感覚がわかるようになり、ひとつ言葉の意味がクリアになっては、新たなコミュニティに入り。10年間は、その繰り返しでした。

 そして、きっと、これからもそうなんだろうなと思います。
 また新たな言葉に出会えることを愉しみに、今日もフィールドワークの旅を続けます。

 そして人生は続く

 ーーー
追伸.
 昨日は新刊「人事よ、ススメ!」の出版記念パーティを、LIN論アラムナイのみなさんに開いて頂きました。ご参加いただいた70名のみなさま、斎藤さん、木村さん、保谷さん、調さんはじめ、実行委員会のみなさまに心より感謝をいたします。ありはとうございました。

 出版記念パーティでは、アキレスさん、妹尾先生、久保田さん、吉田さん、など著者の方々、歴代の講師の方々、そして、7期7年目に入るラーニングイノベーション論の歴代の受講生の皆様にお会いすることができました。
 懐かしいという思いもありますが、今も元気なみなさんの様子を見ていると、僕自身も、まだまだ走り続けなければならないなという気持ちになりました。

 つくづく思いますが、僕は「幸せ者」です。
 みなさん、ありがとうございました!

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 今回はお逢いできなかった方も、次回はぜひ!

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 人に感謝される仕事をしていれば、面白いことをしていれば、そして何かに挑戦していれば、おのずから、また人は出会えるのだと思います。

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 See you soon, All

投稿者 jun : 2015年3月18日 08:38


友とは「一本の覚悟をもった道づれ」である!? : 高村光太郎の「友よ」を読んだ!!

 まことに遅ればせながら、詩人・高村光太郎の「友よ」という詩に出会いました。
 先日、TAKUZOの子ども向けの!?詩集をパラパラめくっていて見つけたものです。

 まづ第一に言つておかう
 僕から世間並の友誼などを決して望むな
 僕は君の栄達などを決して望まぬ
 君のちひさな幸福などを決して祈らぬ
 君は見るだらう
 僕が逆境の友を多く持ち順境の友をどしどし失ふのを
 なぜだらう
 逆風の時に持つてゐた魂を順風と共に棄てる人間が多いからだ
 僕に特恵国は無い
 僕の固定の友は無い
 友とは同じ一本の覚悟を持つた道づれの事だ
 世間さまを押し渡る相棒だと僕を思ふな
 百の友があつても一人は一人だ
 調子に乗らずに地でゆかう
 お互にお互の実質だけで沢山だ
 その上で危険な路をも愉快に歩かう
 それでいいのだと君は思つてくれるだらうか

(高村光太郎「友よ」)

 高村光太郎さんは「危険な路をも愉快に歩く」ような「一本の覚悟をもった道づれ」を「友」とします。

 僕にも、そんな「友」がいます。
 面白いのは、僕の「友」は、僕が勝手にそう思っているということです。きっと相手は「友」だとも思っておらず、おそらく「戦友」「同志」くらいにしか思っていないことでしょう。しかし、「友達だよね」と確認し合うことが、「友の証明」ではないでしょう。だから、僕も、この友に、「友達だよね」ということは、一生ないと思います。きっと、さようならの瞬間まで。

 この詩、たぶん、TAKUZOには、まだ早いかなとも思いますが(笑)、生涯、友にぜひ出会って欲しいなと思います。

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月17日 09:47


「組織文化」を知るためのシンプルな方法!?

 先だって、都内某所で、ある企業の次世代幹部研修の一部を担当させていただきました。

 全社から集まってきた精鋭の方々が参加者ということで、こちらも緊張しましたが、無事、大役を務めることができ、今はホッとしています。これまで数回にわたるやりとりを行い、とてもお世話になりましたIさんには、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

   ▼

 興味深かったのは、こちらの研修での、参加者のみなさんの動きです。受講生の方々の動きのひとつひとつから、ご本人たちは自覚なさっているかどうかまではわかりませんが、同社の「組織文化」を、僕は、ひしひしと感じていました。

 例えば、

1.ワークの進み方が異様に早い
 グループワークで誰からはじめるかを議論するという時間がまったくなく、誰かがリーダーシップをとって指名するか、自分から名乗り出てワークを始めてしまう

2.指示をはじめる前からすでに動いている
 こちらの指示が間に合わないほど、指示をのみこむのが早く、指示が終わるか終わらないかのときには、既に動き始めている

3.コンテンツを提供しているときから、行動を考えている
「今後とるべき行動」を書く欄に、コンテンツを提供している際に、すでにメモをしている方がいる

 誤解を避けるために申し上げますが、こうしたことが「悪い」といっているわけでは断じてありません。むしろ「望ましいこと」だと僕は思います。
 むしろ、こうした参加者の様子を感じながら、柔軟にプログラムを組み替え、次の一手を売っていくのは、こちらの腕の見せ所です。
 結局、この会は、いくつかのパートを当日短縮したり、丁寧に説明したりしながら、無事時間通りに終えることができました。

 このように、研修では参加者の様子から、その「組織の文化」などがにじみ出ることがあります。ファシリテーションや講義を行いつつ、参加者の様子を観察しながら、

「あっ、きっと、この会社には、こんなノーム(規範)があるんだろうな」

「この会社では、こうした振る舞いを、新人の頃から身につけさせているんだろうな」

 と感じることがあります。そうした情報の中から、その場に最善の流れをつくりだしていきます。

  ▼

 今日は、研修から垣間見られる組織文化の話をしました。

 組織文化といいますと、最も有名なところでは、エドガー・シャインなどがその泰斗として知られています。彼は、さまざまな企業に対するプロセスコンサルテーションを提供する際、

「組織文化を知りたければ、その組織で行われている会議に出さえ
すればいい」

 とおっしゃったそうですから、今日の話は、それに類するものとも言えそうです。組織の会議に出れば、そこで発言権をもっているのが誰か=誰がキーマンか、何がノーム(規範)として共有されているのかが、ただちにわかります。

 そこには、外部からみると、とても興味深い現象が埋まっていることもあります。

 あなたの会社の「研修場面」には、どんな特徴がありますか?
 あなたの会社の「会議」に出ると、どんな文化を感じますか?

 そして人生は続く

 ーーー

追伸.

 拙編著の新刊「人事よ、ススメ! 」が碩学舎さんより、3月11日刊行されました。本書は、「人事・人材開発の最前線を走る研究者・実践者」らが、最前線の面白さ・奥深さについて、キレキレの講義を行い、その様子を実況中継した本です。すでにAMAZONの「マネジメント・管理」「人事労務管理」「キャリアデザイン」の3カテゴリー1位を獲得しています。

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 中原は編著をつとめ、松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生など、人材業界の第一人者の方々を著者に迎え、440ページの書籍に編みあがりました。

 ぜひ、多くの方々に手に取って頂けると嬉しく思います。どうぞよろしく御願いいたします。

投稿者 jun : 2015年3月16日 06:48


【プレスリリース・拡散お願いします!】東京大学、「高校におけるアクティブラーニング型授業」を推進するための高大連携プロジェクトを開始

 以前、このブログでもお知らせしていましたとおり、東京大学・中原研究室では、日本教育研究イノベーションセンターさまのご支援を賜り(心より感謝いたします)、2015年4月より「高校ー大学ー就業をつなぐ新規プロジェクト」を開始します。

 テーマは「アクティブラーニング!」

 東京大学、「高校におけるアクティブラーニング型授業」を
 推進するための高大連携プロジェクトを開始

 日本全国の高校を対象にした基礎調査を実施!
 全国のアクティブラーニング先進授業事例を収集し
 ポータルサイトで無償公開!

 詳細は、下記のプレスリリースをご覧下さい。

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【プレスリリースPDF】東京大学、「高校におけるアクティブラーニング型授業」を推進するための高大連携プロジェクトを開始
http://www.nakahara-lab.net/temp/active_learning_koukousei.pdf

【東京大学・公式記者発表】東京大学、「高校におけるアクティブラーニング型授業」を推進するための高大連携プロジェクトを開始
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_270313_j.html

 春以降組織されるプロジェクトのアドバイザリーボードには、東京大学の三宅なほみ先生、京都大学の溝上慎一先生、立教大学の日向野幹也先生に就任いただけたらと思っております(正式依頼は4月のプロジェクト立ち上げ以降です)。心より感謝をいたします。

 このプロジェクトをはじめるにあたり、僕には3つの「信念」があります。皆様の前に、子のプレスリリースをようやく発表できるようになった今日は、まずは、その「信念」だけを述べさせて頂きます。

 まず第一に、このプロジェクトでは、アクティブラーニングを「これから新しく始める物事」と「見なさないこと」です。

 むしろ、これまで多くの高校には、「アクティブラーニング」とラベルづけはされていないものの」、「インタラクティブで、かつ、優れた問題解決をなす授業があったはず」であるという当然の前提に立ちます。僕たちのプロジェクトでは、事例調査、実態調査を通じて、そうしたものを「Rediscovery(再発見すること)」をめざしたいと考えています。
 
 二つめの信念は、「学校の取り組み」というよりも、「先生、個々人」に焦点をあてるということです。
 とかく、この種のプロジェクトでは,「学校全体の取り組み」が注目されますが、最終的に、子どもと常にふれあい、日々奮闘しているのは、個々の先生方です。結局、現場のフロントラインにたつ方が、勇気をもって何かをなすことを誘発しなければ、どんな物事さえも、絵に描いた餅です。
 このプロジェクトを為すにあたり、わたしたちは、機関調査によって全国の実態を明らかにすることと同時に、「志ある先生」方の現場での奮闘やストーリーをすくい上げ、紹介していく「コミュニティメディア」になることをめざします。

 3つめの信念は、プレスリリースにも書かせていただきましたが、僕は、この取り組みを「高校のプロジェクト」だとは捉えていません。むしろ「高校ー大学ー社会(就業)」をトータルにとらえたプロジェクト運営を行いますし、それらのトランジションを、より円滑にすることをめざします。

 僕自身10年以上にわたり、企業研究、人材マネジメント研究をなし、実証研究をなす一方で、企業研修の現場にも立ち、様々なビジネスパーソンと接していく中で、ここ数年ふつふつとこみ上げてきた思いがあります。

 それは、多くの企業研修で学ばれている内容で、特に、下記に類するような経験は、いくら「前倒し」してても「早すぎる」ということはないということです。

 特に、

 コンフリクトの中から、人々と合意する経験
 多種多様な社会的背景をもつ人々と協働する経験
 リーダーシップを発揮して、人を巻き込む経験
 論理的に物事をとらえ、アウトプットを行う経験

 などは、変化の早い時代にあっては、教科や教科外で教育機関でも学ばれるべきであると感じます。誤解を避けるために申し上げますが、単に、企業で必要になる能力開発を、教育機関に押しつけたいわけではないのです。そうではなく、上記のような経験は、学齢の早いうちから学び、さらに、企業に入ってからも、学び続けられることが重要だと思うのです。

 ワンワードでいうと、

 企業に入ってから、それらを「はじめて」学ぶというのは「遅すぎる」。

 できれば、もっともっと前から、大学、そして、高校段階から、こうした経験学習を積んでいくことが求められるのではないでしょうか。

 このプロジェクトをはじめるからといって、僕の研究が、企業研究・人材開発研究からシフトすることはありえません。むしろ、これまで培ってきた組織研究のスコープをさらに広げ、「高校ー大学ー企業」というトランジションにまつわる、人々の学びを描いていきたいと考えています。

 今は紹介することはできませんが、4月新たに加わる3人のスタッフとともに、この研究を成功させたいと思っています。どうぞお知恵、御協力を賜れれば幸いです。
 そして人生は続く!

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【プレスリリース】東京大学、「高校におけるアクティブラーニング型授業」を推進するための高大連携プロジェクトを開始
http://www.nakahara-lab.net/temp/active_learning_koukousei.pdf

投稿者 jun : 2015年3月13日 15:23


自己紹介とは「自分の情報を提示すること」ではない!? : 「自己紹介とは何か?」という「そもそも論」から「効果的な自己紹介」を考える!?

 もうすっかり春ですね。
 今日は首都圏は、かなりポカポカした陽気です。
 3月を終え、やがて、4月になり、新学期が生まれれば、世の中の至る所で、人々がはじめて出会う場面がでてきそうです。
 新学期、新入生、新入社員。新たな人生の門出には、必ず、人と人との出会いがあります。

  ▼

 人と人とかが、はじめて出会うときには「自己紹介」ということがなされます。

 はじめて対面するグループのメンバー、クラスのメンバーに、自分をわかってもらうために、「名前などの自己に関する情報」をお知らせする機会です。

 先だって、あるところで講義をしていた際、僕は、

「そもそも自己紹介とは何か?」

 ということをお話しました。
 文脈を説明すると長くなるので、はしょりますが、「自己紹介を効果的に為すためには、自己紹介とは何かを、そもそも考えなくてはならない」というお話でした。

 以下は、学問とはまったく関係ない私見ですが、一般に、

 自己紹介とは「自己に関する情報提示」である

 と思われています。要するに、自分に関係する情報を並べれば,自己紹介だと思われている。

 しかし、それは、私見では「間違い」ですと思います。正しくいうと、確かにそうなんだけど、決定的に何かが抜けているように、僕には感じられるのです。

 私見では、

 自己紹介とは、「他者からあなたへの最初の声かけ」を増やすための「情報の種まき」である

 ということになります。

 要するに、自己紹介とは、自己紹介が終わったあとに、あなたをはじめて知る人々に、「気兼ねなく」、あなたへの「最初の声かけ」を増やしてもらうために、存在します。そのためには、多くの人々のフックにひっかかるように、多種多様な情報を散逸させておくことが求められます。

「ねーねー、さっき、合気道をやってるっていってたけど、オレもやってんだよね。どこに流派?」
(マニアックですね)

 とか、

「ねーねーねー、さっきの自己紹介で、北海道出身だっていってたけど,北海道のどこなの? 北海道の人って、みんな、ルールルルルとかいって、キツネ飼ってんの?」

 とかね(笑)。

 だから、自己紹介では、「名前」と「所属」だけ言っても仕方がありません。だって、名前と所属だけじゃ、話しかけようがないでしょう。

 むしろ、なるべく多くの人々が、あなたに最初の声かけを行ってくれるように、様々な、多様性あふれる情報をちりばめておくことがポイントです。

 ▼

 今日は、そもそも自己紹介とは何か、ということから私見を述べさせてもらいました。「自己紹介とは、最初の声かけを誘発する種まきである」ということになります。

 「自己紹介とは何か?」は学校ではなかなか教えられない知識です。しかし、あなたが新たな組織に入るとき、そうした時間は、必ず、ともなってきます。

 よき情報の種まきを!
 最初の一声をぜひ誘発してください。

 そして人生は続く

 ーーー

追伸.

 拙編著の新刊「人事よ、ススメ! 」が碩学舎さんより、3月11日刊行されました。本書は、「人事・人材開発の最前線を走る研究者・実践者」らが、最前線の面白さ・奥深さについて、キレキレの講義を行い、その様子を実況中継した本です。すでにAMAZONの「マネジメント・管理」「人事労務管理」「キャリアデザイン」の3カテゴリー1位を獲得しています。

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 中原は編著をつとめ、松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生など、人材業界の第一人者の方々を著者に迎え、440ページの書籍に編みあがりました。

 ぜひ、多くの方々に手に取って頂けると嬉しく思います。どうぞよろしく御願いいたします。

投稿者 jun : 2015年3月13日 08:23


Academic Chemistry Camp(化学反応的・学際キャンプ!?=大学院合宿)でポスター発表中!

 本日は、大学院合宿です。
 Academic Chemistry Campといいます。めざすは、読んで字のごとく、異領域の人々が集まり、あたかも「化学反応(Chemistry)」をするかのごとく、新たな研究を着想するために実施しているキャンプです。
 実際、全国から異領域の研究者、実践者が集まり、全員がポスターセッションをしつつ、議論をしています。経営学、教育学、デザイン、医学、ライティングなど、多種多様なアカデミックバックグラウンドをお持ちの方々との議論は、意外な発見も多々あり、面白いですね。
 立教大学の日向野先生、高橋先生、横浜国立大学の服部先生には、ミニ講演もいただきました。心から感謝いたします。

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 小生も、個人研究をポスターセッションです。聞いて頂いた皆様から、いくつものアドバイスをいただきました。うれしいことですね。なるほどね、そういう手もあったわね。
 このような場を準備してくださった研究室OBの舘野さん、保田さんほか、大学院・中原ゼミの諸氏、またご参加頂いた40名の皆様に、心より感謝をいたします。ありがとうございました。

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月12日 09:27


【拡散お願いします】「人材開発の基礎と未来」を1冊で学べる本!?:拙編著・新刊「人事よ、ススメ!」が本日発売です!

 いよいよ本日3月11日、拙編著の新刊「人事よ、ススメ! 」が碩学舎さんより刊行されます。

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新刊「人事よ、ススメ!」のご注文はこちら(AMAZON)

 本書は、「人事・人材開発の最前線を走る研究者・実践者」らが、最前線の面白さ・奥深さについて、キレキレの講義を行い、その様子を実況中継した本です。慶應丸の内シティキャンパスでの講義が紙上にて再現されていますが、あたかもワークショップを受けたような読後感でお読み頂けることをめざしています。人事・人材開発の実務、それらをまとめる理論や事例についてふんだんに盛り込んでいる本となります。
  
 本書において、中原は編著をつとめ、松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生など、人材業界の第一人者の方々を著者に迎え、440ページの書籍に編みあがりました。

 ぜひ、多くの方々に手に取って頂けると嬉しく思います。

  ▼

 さて、下記は本書の詳細なご説明です。

 まず、この本は、既述いたしましたとおり、中原が主任講師をつとめる「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶことを目的にした、慶應丸の内キャンパスで行われている社会人向け講座「ラーニングイノベーション論」の2年前の授業を、紙上実況中継した本です。

ラーニングイノベーション論 2015
http://www.keiomcc.com/program/lin/

「ラーニングイノベーション論」は、企業の人事・人材開発担当者が、半年のセッションを通して「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かして、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行う、アクションラーニング型の授業を特徴としたコースで、2年前の講義では、今回の著者を含む各領域で活躍する研究者、実務家がリレー講義をしてくださっています。講義のあとは、中原がファシリテーションをつとめるディスカッションやワークショップが用意されています。
 このコース自体が、インタラクティブであることに徹底的にこだわったつくりになっています。

 本は紙上講義、実況中継ですので、講義で用いたワークシートや、

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 ワークショップのネタが盛り込まれています。

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 また、企業での人材開発事例などをふんだんに収録しています。下記は、ラーニングピクニックと称して、スターバックスさんの職場をご訪問させていただいたときの事例紹介ですね。大変お世話になりました。心より感謝いたします。

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 また、これまでラーニングイノベーション論を支えてくださった受講生の方々のエンドロールも、下記のように「後書き」に掲載されております。後書きに書きましたが、ラーニングイノベーション論は、教授者である僕にとってももっとも愉しむことにできる、しかもラーニングフルな時間でした。僕は受講生であるみなさんに「育てられました」。第一期のラーニングイノベーション論を締め括るにあたり、感謝をこめて、みなさんのお名前をエンドロールに記載させて頂きました。

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 「人事よ、ススメ!」の目次は下記のようになっております。

<目次>
(1)経験学習とOJT研究の現在 ~育て上手のマネジャーの指導法
 北海道大学大学院経済学研究科 松尾睦

(2)「非日常のアドベンチャー」を通し、「できる自分」に出会う
 玉川大学学術研究所・心の教育実践センター准教授 難波克己

(3)日本型戦略人的資源論とはなにか
 一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博

(4)やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場
 スターバックス コーヒー ジャパン (株)人事本部人材開発部部長 久保田美紀

(5)ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方
 SAPジャパン(株) 常務執行役員人事本部長 ほか アキレス美知子

(6)提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える
 神戸大学大学院経営学研究科教授 金井壽宏

(7)「職場の学び」を科学する
 中原淳

(8)知識創造理論の現在 ~知識創造をめざす「場」のデザインとは
 東京工業大学大学院准教授 妹尾 大

(9)創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開
 東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野 准教授 高尾隆

(10)研修のデザイン~教えることを科学する
 中原淳

(11)成長するしかけ"を創る
 (株)サイバーエージェント 執行役員 人事本部長 曽山哲人

(12)特別対談 ラーニングの現在 ~企業に「実験室」はあるのか
法政大学経営学部教授 長岡健 × 中原淳

 僕はこの本を、東京都内・関東近郊の方はもちろんのこと、それ以外の、それぞれの地方で志をもって人材開発に携わる方に対して、記したいという思いで編著を行いました。

 お一人でお読み頂くこともまことに嬉しい事ですが、どうか、それぞれの地域で、志のある方々と勉強会などがさらに発展したとしたら、さらにうれしいことです。
 結局、地域を元気にする試みは、それぞれの地域の、それぞれの現場にいらっしゃる、志ある人々が立ち上がるかどうかにかかっています。本書が、その一助となることを願っています。

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 最後になりますが、執筆者の松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生には、講座出講に加えて編集等に貴重な時間をたまわり、心より御礼申し上げます。

 また、この書籍の出版に御協力いただきました碩学舎の松井剛先生(一橋大学)、水越康介先生(首都大学東京)、構成・編集プロセスをすすめてくださった森旭彦さん、中央経済社の浜田匡さん、慶應丸の内シティキャンパスの城取一成さん、保谷範子さん、井草真喜子さん、調恵介さん、石井雄輝さん、そして、装丁・カバー・内部の図版を作成してくださった松浦李恵さん、大石サヨリさんに心より感謝いたします。本当にありがとうございました!

 そして人生は続く!

追伸.
 なお、ラーニングイノベーション論は常に変わり続ける、人材開発の最高峰のカリキュラムをめざしています。今年のカリキュラムも、昨年、2年前とはかなり変わっていますが、先日、募集を開始しました。この13回で、人材開発の基礎基本を「最先端の話題」で学ぶことができます。

ラーニングイノベーション論 2015(慶應丸の内シティキャンパス)
http://www.keiomcc.com/program/lin/

 もしご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうか受講をご検討いただけますようよろしくお願いいたします。
 募集はまだはじまったばかりなので、まだ「残席」がございますが、どうかお早めにご検討をお願いいたします。まずは話から聞いてみよう、ということでももちろん大丈夫です。どうぞよろしく御願いいたします。

ラーニングイノベーション論 2015
(ご登壇いただく講師の先生方:心より感謝いたします)
松尾 睦先生(北海道大学大学院)
難波克己先生(玉川大学)
木村滋樹先生(ヤマト運輸株式会社)
守島基博先生(一橋大学)
服部泰宏先生(横浜国立大学)
金井壽宏先生(神戸大学)
島村公俊先生(ソフトバンクモバイル株式会社)
髙木晴夫先生(法政大学)
高尾隆先生(東京学芸大学)
中村和彦先生(南山大学)
吉田毅先生(ヤフー株式会社)
曽山哲人先生(株式会社サイバーエージェント)
中原 淳(東京大学)

投稿者 jun : 2015年3月11日 05:00


【参加者募集・残席わずか】「課題解決スキル」と「チームビルディング」を1粒で2度おいしく学んでしまう「リーダーシップ開発研修」とは?

 みなさま、おはようございます!

 3月24日開催予定の下記イベント、残席が少なくなってきました。年度末の忙しい時期でまことに恐縮ですが、「リーダーシップ開発」にご興味がおありの方は、ぜひ、ご参加頂ければと思います。

 リーダーシップの開発の理論や、その手法の最前線もご紹介しつつ、そこで起こった出来事をレビューしていこうと思っています。

 ゼロから課題を解決すること
 多様なチームをリードし、フォローすること
 新たな物事を生み出すこと

 それはどのように、次世代リーダーに経験されるのでしょうか? また、そうしたプログラムをどのように組み立てていけばいいのでしょうか。
 どうぞお楽しみに!

お申し込みチケット購入サイト : http://peatix.com/event/75028

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「課題解決スキル」と「チームビルディング」を
1粒で2度美味しく学んでしまう「リーダーシップ開発研修」とは?

 ▼

【異業種越境型「リーダーシップ研修」をいかにデザインするか?
「丘の街」美瑛で展開する次世代型リーダー養成スクールの衝撃】

 NAKAHARA-LAB.NET(中原淳研究室メルマガ)
 KEYWORD : 異業種 コラボレーション 地域課題解決
 リーダーシップ開発 人材育成 越境型
 
 3月24日(火曜日)午後6時00分-午後9時00分まで
 株式会社内田洋行 東京ユビキタス協創広場 CANVAS 2F
 お申し込みチケット購入サイト : http://peatix.com/event/75028
==================================================

 このたび、3月24日(火曜日)に、経営学習研究所のシアター
モールイベントを内田洋行さまとともに、開催させていただくこと
になりました。

 今回のイベントのテーマは

【異業種越境型「リーダーシップ研修」をいかにデザインするか
「丘の街」美瑛で展開する次世代型リーダー養成スクールの衝撃】

 です。
 この研修は、地方の課題解決を行いながら、リーダー層の
「課題解決スキル」と「チームビルディング」を学ぶことができる
研修です。

 日本の人事部 HRアワードを受賞した異業種5社の
 次世代リーダーが集まる「リーダーシップ研修」のデザインと
 効果を、皆さんにご報告差し上げ、また、このことについて
 議論させていただく機会を持ちたいと思います。

HRアワード2014受賞
異業種社員チームによる「地域課題解決プロジェクト」

http://hr-award.jp/prize.html

 今回のセッションには、この研修の代表者のひとりであられる
 ヤフー株式会社の本間浩輔さん、池田潤さん、また、この研修を
裏方で支えたアサヒビール株式会社、株式会社インテリジェンス、
日本郵便株式会社の人事部のみなさま、美瑛町の職員の方々をお招き
いたします。

 現在、中堅層・リーダー層の底上げに興味をお持ちの人事部の
みなさま、地域課題解決に興味をおもちの行政担当者、NPO職員等の
みなさま、ぜひお誘いあわせの上、ご参加いただければ幸いです。

 お申し込みは下記のサイトからお願いいたします

お申し込みチケットサイト : http://peatix.com/event/75028
(ご購入後返金はできませんので、くれぐれもご注意ください!)

   ・
   ・
   ・

 なお同プロジェクトでは、2015年、この研修に参加したい企業を
募集しております。参加対象・参加条件は下記のとおりです。研修は
5月から始まります。これが最後のチャンスです。ご希望の方は、
下記をご覧のうえ、どうぞヤフー株式会社の池田さんまで御連絡を
お願いいたします。

■参加対象
・国内企業・官公庁にお勤めの方、各種団体に所属されている方
・リーダーまたはリーダー候補としてとして組織・社会を変える力を
 身につけたい方
・気力・体力が充実し、学習意欲を持って主体的に参加していただける方

■参加条件(参加企業の人事部門の方へ)
・人事部門より事務局担当者を1名アサインしていただきます。
・全6セッションのうち1回、主担当として企画運営していただきます。
  -人事部門長(または同クラス)の方による研修ファシリテート
 -自社トップ・または外部トップ人材による講義の企画
・活動に関わる共通経費をご負担いただきます。
・自社・自組織参加者および事務局担当者の交通費、宿泊費等
をご負担いただきます。

■連絡先(事務局)
ヤフー株式会社
ピープル・デベロップメント統括本部 人財開発本部
池田 潤(いけだ じゅん)
お問合せ先:jikeda(あっとまーく)yahoo-corp.jp

 どうぞみなさま、お誘いあわせのうえ、お越しいただけ
ますことを願っております。

 中原 淳

 ーーー

■共催
 一般社団法人 経営学習研究所
 内田洋行教育総合研究所

■協賛
 アサヒビール株式会社

■日時
 2015年3月24日(火)午後6時00分 - 午後9時00分まで
 開場は午後5時30分から

■ 会場
 株式会社内田洋行 東京ユビキタス協創広場 CANVAS 2F
 http://www.uchida.co.jp/company/showroom/canvas.html

 JR・東京メトロ八丁堀駅または東京メトロ茅場町駅下車 徒歩5分
 近隣に内田洋行様の別ビルもありますのでお間違いのないよう
 にお願いいたします。

■参加費
 お一人様4000円を申し受けます
(ご購入後返金はできませんので、くれぐれもご注意ください!)

■内容

・ウェルカムドリンク pm6:00-6:20

・オーバービュー   pm6:20-6:40
「美瑛を舞台にした地域課題解決プロジェクトの概要」(中原淳)

・セッション1  ヤフーの人材育成方針
         異業種連携プロジェクトが目指したもの
pm6:40-7:00(ヤフー株式会社 本間浩輔さま)
【概要】
「ヤフーの人材育成方針」
人事の仕組みを作っていくのは、人事部ではなく「職場」であり、
その主役は社員であるべき、という信念のもと、2012年からヤフー
の人事改革を推し進めています。「社員の才能と情熱を解き放つ」
をスローガンにて取り組むヤフーの人事に対する考え方を紹介します。

「異業種連携プロジェクトが目指したもの」
複数の企業と連携して「地域の活性化」と「リーダーシップ育成」
を実現するというユニークなCSVプロジェクトを実現した想いや
企業人材育成に対する課題意識についてお話します。

・セッション2  「異業種研修1年目の出来事」
pm7:00-7:30(ヤフー株式会社 池田潤さま)

【概要】
異業種研修の立ち上げから1期が終わるまで。2013年の秋、一枚の
企画書から始まったプロジェクトですが、その企画・開発プロセスや
運営する中で起こったこと、課題と来年度の企画について、ざっくばらん
に紹介します。

(BREAK : pm7:30-7:50)

・トークセッション  pm7:50-8:10
【ゲスト】 
 アサヒビール株式会社 三浦一郎さま、門永淳さま 
 株式会社インテリジェンス 美濃啓貴様さま、武井伸悟さま
 日本郵便株式会社 鶴田信夫さま、畑俊彰さま
 美瑛町 後藤秀俊さま 
【ファシリテータ】
 中原 淳

・ダイアローグ (pm8:10-8:40)
・ラップアップ (pm8:40-9:00)

※タイムラインは変更になる可能性があります

■参加条件
下記の諸条件をよくお読みの上、参加申し込みください。
申し込みと同時に、諸条件についてはご承諾いただいて
いるとみなします。

1.本ワークショップの様子は、予告・許諾なく、写真・
ビデオ撮影・ストリーミング配信する可能性があります。
写真・動画は、経営学習研究所、ないしは、経営学習研究所
の企画担当理事が関与するWebサイト等の広報手段、講演資料
、書籍等に許諾なく用いられる場合があります。マスメディアによ
る取材に対しても、許諾なく提供することがあります。
参加に際しては、上記をご了承いただける方に限ります。

2.会場にクロークはございませんので、どうか軽い装備?
でおこしください。

以上、ご了承いただいた方は、下記のフォームよりお申し込みサイト
よりチケットをご購入ください。
繰り返しになりますが、このたび、いったんご購入後は返金は
できませんので、くれぐれもご注意ください!

■お申し込みWEBサイト
http://peatix.com/event/75028

皆様とお会いできますこと愉しみにしております!

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投稿者 jun : 2015年3月 9日 11:12


プレゼンは「コンテンツが7割、デリバー3割」!?:「薄っ、これ水じゃねーの的ワイン」を「白紙コップ」で飲む経験!?

 週明け早々、まことに恐縮ですが、

 プレゼンは「コンテンツが7割、デリバー3割」

 だと僕は思います。

 ここで「コンテンツ」とは「伝えたい中身(contents)がどの程度、練られているか」ということ。
 そして「デリバー」とは、「中身をどのように伝え、聴衆にお届け(deliver)するのか」ということです。
 
 具体的には、前者「コンテンツ」とは

 ・伝えたい概念を、どの程度、焦点化しているか?
 ・伝えたい概念間の関係が、どの程度、明瞭か?
 ・伝えたい内容が、ストーリーになっているか?
 
 ということでしょう。

 留意したいことは、ワンセンテンスでいうと、

 コンテンツが、いかに明瞭に絞られているか、
 いかにつながっているか?
 
 です。

 一方、後者「デリバー」とは、具体的には、

 ・提示資料自体がよくデザインされているか?
 ・ジェスチャーなどを効果的に用いられているか?
 ・声やアイコンタクトなどを行っているか?

 といったことがありうるでしょう。
 こちらもワンセンテンスで述べるならば、

 デリバーとは、いかに魅せるか?
 
 ということになるのでしょう。

  ▼

 「コンテンツ」と「デリバー」。
 誤解を避けるために申し上げますが、それらは「両者どちらも大切」です。どっちが必要で、どっちが要らないというわけではありません。割合の差はあれど、それらはどちらも必要なのです。

 コンテンツとデリバーの関係は、よく「食べ物」と「器」の関係に喩えられますね。先だって読んだ田口力さんの著書「世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本 」には「ワインの喩え」がございましたので、ここで引用・紹介させていただきます。

 たとえば、今、ここに、とても「濃厚で美味しいワイン」があるとします。
 何でもいいですが、僕は、よくワインは詳しくないので、オーパスワン(カリフォルニアの美味しいワインですね)とかを思い浮かべましょうか? 数年前、米国・カリフォルニアに留学していたS先生がお土産に購入してきてくれたものです。
 
 いうてみれば「コンテンツ」とは「ワイン」そのものです。オーパスワンのように、1本で数万円の価値があるワインがある一方で、一本300円くらいの、「薄っ!、これ水じゃねーの的なワイン」も、スーパーマーケットには売っています。

 一方、デリバーとは「ワインを飲むグラス」です。
 グラスには、リーデル社のつくるような精巧なガラス細工のワイングラスがあります。これが「よいデリバー」です。一方、とんでもないデリバとしては、「白い紙コップ」があるとします。

 今、この関係を図にしてみますと、「ワインを飲む=プレゼンを聞く」という関係は、下記のような図になります。この4つの場合、皆さんだったら、どんなコンテンツ(ワイン)を、どのようなデリバー(器)で試してみたいですか?

2015-03-09_0643wine.png

 僕なら、1>3>2>4ですね。コンテンツが7割、デリバー3割に表されるとおり、やっぱり中身が大切に思います。たとえ紙コップでも、オーパスワンは飲んでみたい(笑)逆に、「薄っ!、これ水じゃねーの的なワイン」を「白紙コップ」で飲むのは、どうにも簡便してほしいですね。

 さて、皆さんの順番はいかがですか?

  ▼
 
 しかし、ともすれば、世間では、プレゼンと申しますと、「コンテンツ」は「所与」にして、後者の「デリバー」ばかりに注目が集まります。

 たとえば、先だって、ソーシャルメディア上で話題になった下記の映像は、それを暗に揶揄するものでしょう。この映像は、伝えたい中身は何にもなくても、話者がTED風のしゃべり方をすることによって、それらしく魅力的なものがつくられる、ということです。

 しかし、あたりまえなのですが、大切なのは、中身をいかに精選し、いかに構造化することです。特に特に、最も注意したいことは、「捨てること=焦点をしぼること」です。
 私たちは、ともすれば、「相手に伝えるためには、多くを語らなければならない」という「幻想」に支配されがちです。しかし、事実は、逆であることの方が多いものです。

 むしろ、

 「相手に伝えるためには、最も大切なことを残して、多くを捨てなければならない」

 のです。そのためには、自分の伝えるコンテンツに対して、100%、120%以上の理解をしておかなくてはなりません。十分に十分にコンテンツを理解したうえで、涙をのんで、枝葉を「捨てること」が求められます。

「プレゼン作りとは、盛り込むことではありません」
 むしろ
「プレゼンづくりとは、減らすこと」です。
 
 プレゼン経験の出来不出来を左右するコンテンツの7割を支配する、もっとも重要な要素は「減らすこと」です。

  ▼

 さて今日は、プレゼンについて、「コンテンツ」と「デリバー」という2軸から書いてみました。
 実は、これは、先だって、東大MOOC講座「インタラクティブティーチング」の反転授業が3日間東大で開催され、そちらに僕も登壇していたのですが、その際、お話ししたことでもあります。講義では「デリバー」の必要性を十分承知していつつも、敢えて「コンテンツ」について、僕の観点からフィードバックをさせていただきました。

 最後になりますが、おかげさまで、反転授業には、素晴らしい学習者の皆様20名が集まり、メイン講師をつとめられた栗田さんのもと、小原さん、山辺さん、吉野さん、石原さん、大谷さん、松尾さんらスタッフの働きもあり、無事、盛会にて終えることができました。ランチタイムには、音楽座ミュージカルの藤田さん、渡辺さんをはじめとして、吉見先生、本田先生、渋谷先生、入江先生などもゲストに登壇いただきました。ありがとうございました。

 この場を借りて、お集まりいただいた受講生の皆様、ここまで伴走いただいた日本教育研究イノベーションセンター様、そして同組織の谷口さま、高井さん、成田さん、堀上さん、竹内さん、坂上さんらには、心より感謝を致します。

 ありがとうございました。

投稿者 jun : 2015年3月 9日 06:43


3回やれば事業が「安定」する、安定した頃には「マンネリ化」がはじまる!?:組織学習をめぐる闘い!?

「組織学習」という概念があります。「組織が学ぶ」という風に「組織」が「主語」になっている概念は、何とも「奇妙」に聞こえるかもしれません。
 が、それをワンセンテンスでいいかえますと、「組織がスマートに振る舞えるようになること」と言い換えることもできるのかもしれませせん。

 組織学習とは

「組織に所属するさまざまな人々が、そこで業務経験をつみ、学び、それらの智慧が共有されることで、組織全体としては、少しずつ効率性がたかまり、さまざまなオペレーションが確立していくこと」

 です。

 経験を積んで、だんだんと「組織がスマートに振る舞えるようになること」。このことを、今、ここでは「組織学習」と呼ぶのだとします。学術的に様々な詳細な説明は、ここでは(20分で書いてるブログなんで)期待なさらないでください。取り急ぎ、ここでは、これですすみます。組織論の中で組織学習の概念レビューを丁寧になさったのは、南山大学の安藤先生かと認識しておりますが、下記の書籍に、詳細な歴史的系譜が論じられております。ご興味をお持ちの方は、ぜひご一読いただければ幸いです。

 ▼

 組織学習・・・こう呼んでしまうと、何だか難しい概念であるような気もしますが、職場をマネジメントし、新たな事業を進め、苦闘している方々にとっては、いつも闘っていること、「あーあれのことか」ではないかな、とも思います。

 新しい事業やサービスをはじめる。
 最初は、メンバーの誰一人として、経験はない。
 だからこそ、混乱する。
 だからこそ、非効率。
 
 でも、業務を積み重ね、経験を積むことで
 だんだんと効率的、かつ、スマートな運営ができるようになる。
 マニュアルが整備され、会議体がもうけられる。
 3回やると安定してくる。

 ここまでのプロセスが、「組織学習」です。
 混乱期からオペレーションを確立していくのはなかなか大変で、内部にいる人々は、このプロセスの中で「闘っている」のですが、しかし、組織学習の「本当の闘い」は、ここからはじまります。

 というか、マネジャーとしては、ここからが「激闘」。

 なぜなら、
 安定するころには「マンネリ化」もはじまってきます。
 仕事がオペレーションになるころには、ルーチン化も
 はじまってきます。

 そうすると、だんだんと、メンバーは
 仕事をこなしてくるようになってきます。
 新しいことを次に工夫しようとか、そういうマインドが低下
 することもあるかもしれません。
 顧客に少しずつ見放されてしまう可能性もゼロではありません。
 そのなかで、少しずつ外部環境自体も変わってきます。
 
 事業が「飽きられ」、環境に「適応」できなくなってくる。
 本来ならば、この1歩手前で物事を変えなくてはなりません。

 安定した頃がマンネリ化、不適応のはじまりです。
 本来ならば、安定期の一歩手前に、対処をうたなければならないのです。

 つまり、いったん学習した内容を棄却(Unlearning)し
 新たな物事を、次に生み出さなくてはならないのです。
 これは苦渋の決断です。
 なぜなら、ふりだしへ戻るだから。

 本当にゼロではないけれど・・・
 多くの場合は、「ふりだしに戻る」は痛みをともないます。

 このように組織学習のややこしさは、「3回すれば安定する。でも、安定した頃にはマンネリ化する」の繰り返しにあるような気がします。

 皆さん、思い当たる節はありませんか?

  ▼

 今、私たちの研究部門では、さまざまな新たな試みを行っています。そして、メンバー全員、実は、この「組織学習」のまっただ中にいます。

 さらに人の入れ替わりもありますので、方程式はなかなかに複雑です。どのような知識や経験が、今、組織がもっており、どのような経験が、人の入れ替わりによって失われてようとしているのかを、常に頭の中に入れておかなくてはなりません。

 組織学習という言葉を仮に知らなかったとしても、マネジャーの中には、常にこれと苦闘している方もおおいはずです。

 組織学習とは、経営学のマニアックな用語ではありません。
 組織学習とは、「みんなの課題」です。

 そして人生は続く

投稿者 jun : 2015年3月 6日 06:20


「要するに、ワンワードでいうと何よ?」と部下を「詰める」前に考えたいこと!?:「ワンワード爆弾」「なんでなんで爆弾」「要するに爆弾」はいつ投げるのが適切か?

「要するに、ワンワードでいうと何?」
「ワンセンテンスでいうと、言いたいことって何?」

 僕の周囲にいる方々は、これらの言葉が「僕の口癖」であることをご存じだと思います。まー、いつも言っているね。たぶん、1日3回は(笑)。

 僕は、物事を考える際、究極まで「縮約すること」で見えてくるものがあると信じています。

 もちろん、「ワンワード」や「ワンセンテンス」で、複雑な研究の全貌を語り尽くすことはできないのですが、しかし、そのプロセスにおいて、敢えて、今考えていることや感じていることを「ワンワード」や「ワンセンテンス」で表象してみることで、自分の「言いたいこと」や「やりたいこと」が明確になってくるということです。

 僕の考える「よい研究」とは、どんなに長く、複雑な研究であっても、扱いたい問題が「ワンワード」で表象でき、やりたいことが「ワンセンテンス」で述べられるものだと思っています。

 逆に、それが語れないうちは、問題がフォーカスされていないか、まだ自分の中で整理がついていない。だから、ワンワードやワンセンテンスを自分の言葉で述べられるまで、僕は、問いかけていきます。

 この手のことは、割と世の中で言われており、かつ実践されていることなのかな、とも思います。

 たとえば、某TV局の企画書は、どんなに長編のドキュメンタリーであろうと、A4×1枚。某自動車会社の企画書も、どんなに壮大なプランでも、A3×1枚ですね。
 企画会議のたびに「長大な書類の束」を大勢から提出されても困るのかもしれませんが、敢えて「スペース」という制約を課すことで、「やりたいことを明確にする」という側面もあるのかな、とも思うのです。だから、敢えて「A4×1枚」「A3×1枚」なのかな、と。

  ▼

 ところで、これに関連して、昨日は、雑誌プレジデントの企画で、新人・2年目あたりのフレッシュな社員の方々の覆面座談会がありました。
 この企画は、今の新人のみなさんが、働くことをどのように考えているのか。上司や組織のことをどのように見詰めているのかを、新人の皆さんの視点から考えるというものです。おそらく、数週間後?の「職場の心理学」というコーナーで掲載されると思われます。

 雑誌の取材では、よく「最近の新人は・・・」というかたちで、新人が語られがちですが、これを逆にして「いま、新人達は何を考えているのか?」をさぐるのが企画の趣旨ですね。

 プレジデント社の九法さん、佐藤さん、そしてHRDライター井上さんとのお仕事です。御協力頂いたフレッシュな皆さん、またお名前をあげることはいたしませんが、彼らをご紹介いただいた皆様には心より感謝いたしますとともに、企画側のお三方にも感謝いたします。

 さて、話をもとに戻して、先ほどの覆面座談会では「今の上司がどんな人か?」ということも話題にあがりました。そこで出てきた話題のひとつが、

「ワンセンテンスでいうと何?」
「ワンワードでいうと何?」

 です。

 新人の皆さんによりますと、上司に投げかける、この言葉が、精神的にも肉体的?にも、かなりシンドイとのことでした。
 とくに組織に入ったばかりで「右も左もわからない状況」、もっというと、「自分が何がわからないのかすら、わからない状況」から、この言葉で、上司から問われるのは「無理がないですか?」といういうことでした。小生も反省至極です。

 小生の場合、入ったばかりの大学院生(M0さん)に、この言葉を浴びせることはあまりないような気がしますが?、きっと研究室の大学院生は、「うそつけ、コルァ!」と思っていることでしょう。座談会の皆さん「よくぞ言ってくれた!」と思っているのではないかなとも思います。
 とくにM2さんや博士課程の学生には「要するに、何よ?」と連呼しているような気もするし、「なんで?、なんで?、なんで?、で要するに、ワンワードでいうと、何よ?」を繰り返しているような気もする。「ワンワード爆弾」「なんでなんで爆弾」「要するに爆弾」をガンガン投げているような気が、うっすら、する・・・・ごめんね。

 敢えて「言い訳」がましくいうのであれば、こちらは、「言葉を縮約させること」で、たとえ経験が浅くても、自分の頭をフル回転させてほしいと願っているのですが、やはり、それも「時期」が大切なのかもしれません。しょっぱなで、右も左もわかんない時期から、ワンワードを選べと言われてもね、「どのワンワードを選べばいいのよ?」って感じだよね。

 かくのごとく、上司の思惑と、部下の感じていることは、ズレていくものなんだろうなと実感します。

 嗚呼。

  ▼

 さて、今日は「ワンワードでいうと何?」「ワンセンテンスでいうと何?」という上司が用いる言葉から、部下育成の難しさを語ってみました。
 何だか、話があっちにいったり、こっちに行ったりして、それこそ

「今日の記事ってさぁ、、、ワンワードでいうと何?」

 と聞かれそうですね。

 そうね、、、うーん、ワンセンテンスでいうと、

 ごめん(笑)

 かな。

 あなたは、ワンセンテンス、ワンワードで、時期を考えずに「詰め」すぎていませんか?
 (小生、自己反省ちう)

 そして人生は続く

 

投稿者 jun : 2015年3月 5日 07:24


アクティブラーニングやワークショップは「自由闊達な学びの場」ではない!?

 最近、僕が密かに細々と興味をもっていることのひとつに

「アクティブラーニング」と「権力」

 という問題があります。「アクティブラーニング」の部分を「ワークショップ」という言葉に代えても、そのことはあてはまると思います。この話題は、あまりにもマニアック過ぎるし誰にとっても1銭の得にもならないので、口にださないことのひとつでもあります(笑)。

 いうまでもなく、昨今の人材開発 / 学習業界では、アクティブラーニングやワークショップといったような「人々の相互作用の中から知識や知恵を生み出そうとする場や働きかけ」に対して、人々の興味関心が増しています。

 そうした言説空間では、こうした「新しい学習」の重要性を説得するため、ともすれば「伝統的な授業」と「対照」づけるかたちで、その魅力が語られる傾向があります。
 要するに「新しい学習の場や機会」を「理想視」し、「伝統的な授業」と対照づけられるかたちで、その優位が語られるということです。

 気になるのはそうした議論の前提であり、問題視したいものとは「学びの場に発動する権力」の問題です。
 一般に、「アクティブラーニング」や「ワークショップ」をめぐる言説の多くは、講師やインストラクターが、知識を「学習者」に「伝達」する形式の「伝達モデル」の「伝統的な授業」を「一方向的で、しかも、権力的な学びの場」だとして忌避し、それとは対照的に、「アクティブラーニング的なもの」「ワークショップ的なもの」をあたかも「権力が発動しない理想的な学習空間」であるように見なす傾向があると思うのは僕だけでしょうか。ここで筆者は「権力」を「他者に対して第三者が、何かを押しつける力」と考えます。

 世にある言説に曰く、

 アクティブラーニングでは、講師は、学生に何も強制しません。学生は自発的に勝手に学び初めて、すばらしい成果を生み出しました

 とか

 ワークショップではティーチングなどの押しつけは全くしてはいけません。学習者は、自分たちで相互に教えあい、自ら学んでいきました

 とかいう記述が散見されます。

 すなわち、ワンワードで申し上げますと、世にある言説では、アクティブラーニングという教え方や、ワークショップという学びの場を、「ゼロ権力の場」とみなすのです。
 そこは、教授者・講師・インストラクターによって押しつけられるものが全くない「理想の空間」とされる傾向があります。

 しかし、少し考えてみれば、この議論はいささか「短絡的」です。
 アクティブラーニングが自発性を前提にし、ワークショップが押しつけを忌避したい気持ちはわかりますが、だからといって、そこが「ゼロ権力」だというのは、論理矛盾です。
 むしろ、アクティブラーニング的な学びの機会や、ワークショップという学びの場が、どんなに学習者同士の相互作用を重視していようと、第三者の「権力」が発動しないことは断じてありません。

 たとえば、「何を学ぶか」に学習者がついて、講師・教授者・インストラークターはテーマ設定を行います。また「何を学ぶか」についてすら自由である場合においても、「何を学ぶかについて自由である」という「テーマの設定」を、すでに学習の提供側はおこなっています。すなわち、この遡及「無限遡及」です。

 また、教授者・インストラクター・講師がどんなに気配をゼロにしようと、そこに「存在している」という存在をゼロにすることはできません。彼がどんなに黙って、学習者同志のコミュニケーションを見ていようが、彼のまなざしがそこにあるかぎり、学習者に与える強制的影響力はゼロにはなりえません。
 また参加者同士にだって「権力勾配」が存在します。おおよそ、人が集まるところ、相互作用するところには、常に「権力」が行き交うものです。

 要するに、いわゆる研修であれ、アクティブラーニングであれ、ワークショップであれ、そこが「ゼロ権力の場」であると考えることには無理があるのです。どんなに頑張っても、もがいても、権力はゼロにはなりません。
 しかし、同時に、わたしたちは、そのことを過剰に「嘆く」必要は全くありません。なぜなら、おおよそ「学び」が引き起こされる場所には「ゼロ権力の場」は存在しないからです。
「ゼロ権力の場」が夢想したり、それを「理想視」したりすることが、いかに「ナイーブすぎるものの見方」であるかを、わたしたちはよく知っています。だから、そのことを「嘆く」必要はありません。正々堂々、権力を行使せざるをえないのです。

 しかるに、ここで求められる知性的な態度とは、

 アクティブラーニングやワークショップを「ゼロ権力の理想の場」とみなして、そこに発動する結果の責任を回避することではありません

 むしろ、

 アクティブラーニングやワークショップという、一見、「ゼロ権力」に見える場だからこそ、しっかりと自らが保持している影響力を直視して、自らの「権力」を内省し、適切に行使することです。
 むしろ、それが「一見、ゼロ権力に見えること」から、注意が必要です。そこには、権力に対して自覚的ではないインストラクターが、権力を過剰行使したりする余地があります。また、権力に対して自覚的な悪意ある第三者が、あたかも学習者が自発的勝つ自由闊達にものごとを選択したかのように、問題設定を行うこともできます。

 権力に対する内省を欠いたとき、

 「学習者の自発性にまかせた議論」という名の「丸投げ」

 とか

 「学習者の自由闊達な議論」という名の「大放談」や「つるし上げ」

 が起こります。

 インストラクターとは、他人前の眼前にたち、権力を行使することを許された存在です。だからこそ、彼 / 彼女の仕事は、内省の環の中にある責務があります。

  ▼

 今日は、アクティブラーニングやワークショップなどの「学習者同士の相互作用を重視した学び」と「権力」の問題を考えました。マニアックすぎる話題だったと思います。実は、もうひとつ、ひそかに思っていることのひとつに「倫理」の話題があるのですが、またそれは別の機会にでも!

 そして人生は続く

 ーーー

追伸.
 このマニアックなネタに、こんなに多くの方々のコメントが集まるとは、正直、ほんとうにマジで思っていませんでした。ありがとうございました。以下は、皆さんのコメント等を読ませて頂いて思ったことを加筆します(2015年3月4日加筆)。

 要するに、僕が言いたかったことは、

1.「誰がセットした学びの場」には、必ず「場をセットする側」の「恣意的」な「意志」と「権力」が駆動するということです。それを「ゼロにすること」はできないし、また、そもそもゼロにする必要もないということです。それを「アクティブラーニング」と呼ぼうと、「ワークショップ」と呼ぼうと、「授業」と呼ぼうと、「研修」と呼ぼうと、そんなことは関係がありません。
(個人的に、それらのカテゴリーには、あまり興味がありません。学習は学習だろ、という思いがします)

2.「場をセットする側」は、どんなにゼロにしようとも、他者に対して「権力」を行使せざるをえません。そうした人材を「教員」と呼ぼうと、「インストラクター」と呼ぼうと、「研修講師」と呼ぼうと、「ファシリテータ」と呼ぼうと、なんと呼ぼうと、そんなことは問題ではありません。だからこそ、それらの人々には、自ら行使する影響力や権力に関して「自覚的」であって欲しいと願いますし、かつ、その仕事は「内省の環」の中にいてほしいということです。それが「人の前にたつ」ということです。

3.「人の世」というものは、「最も権力的だと見えないもの」が「権力的であること」はよく起こることです。アクティブラーニングやワークショップは「耳ざわりがよいロマンチックワード」です。ですので、それは、何となく「権力」という言葉からもっともとおいところに存在するように「見えがち」です。が、むしろ、そういう場であるからこそ、1と2が大切だということになります。そこに作動する権力に対する「内省」を欠いたとき、典型的な問題がおこりがちです。「学習者の自発性にまかせた議論」という名の「丸投げ」とか、「学習者の自由闊達な議論」という名の「大放談」や「つるし上げ」は、権力の暴走により生まれます。

4.「最も権力的だと見えないもの」は、「ロマンチック」に見えてしまうため、悪意をもって利用されてしまう可能性が高いということも、また事実です。最初から仕掛け手の意図をもって構成された場なのにもかかわらず、「おまえたちが話し合って決めたんだろ」とか「やりたいっていったのは自分だろ」という風に、学習者の「自発性とよばれるもの」や「主体性とよばれるもの」のせいにすることができるのです。「最も権力的だと見えないもの」は「もっとも権力が作動する場」に転換することは、ままあるものです。

5.しかし、矛盾するように思えるかもしれませんが、人の前に立ち教えようとするわたしたちは「権力」に自覚的、かつ、内省のループにいるかぎり、「権力」を恐れる必要はありません。正々堂々と、学び手と向き合うべきです。自信をもって行使できると思える権力ならば、行使するほかはありません。また、行使したくなくとも、行使せざるをえない場合もあります。くどいようですが、その場合には、自ら行使する権力に「自覚的」であり、かつ、そこに「内省のループ」が駆動することを願います。

 以上です。
 また、近い将来、ひまを見つけて、この話題について書いてみたいと思います。

投稿者 jun : 2015年3月 4日 07:10


「水」のことがわからず、「水の中」を毎日泳ぐ「お魚たち」の話:「外部の視点」の大切さ

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「お魚」にね
「水って、どんなものでしょうか?」って聞いたって、
「答えられない」んですよ。

「うーん、わかんない」って
「水の中を毎日泳ぐ」だけ。

「お魚」は、生まれてからというもの、
「水の中」にしかいないんだから、
「水が何か」は答えられないんです。

「水が何か?」をわかるためには、
「水の外」に出なければアカンのです。
 
  ▼

 先日、ディード先生がおっしゃっていた言葉です。「自分の周囲を知る」ためには、「外部からの視点(External perception)」が必要だとおっしゃっていました。

 あなたには、「外部の視点」がありますか?

 ーーー

追伸.
 3月24日に開催される「新たなラーニングバー的イベント」の残席が減って参りました。最新のリーダーシップ開発の考え方について学べる機会となります。ふるってご参加いただけますよう、よろしく御願いいたします。

【参加者募集・拡散大歓迎】異業種越境型「リーダーシップ研修」をいかにデザインするのか?:「丘の街」美瑛で展開する次世代型リーダー養成スクールの衝撃!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/02/post_2367.html

投稿者 jun : 2015年3月 3日 07:00


【拡散希望】新刊「人事よ、ススメ!」が予約販売はじまりました!:人材開発のすべて、その最前線へ!?

 2年の歳月をかけて創り上げられた拙編著の新刊「人事よ、ススメ!」が、AMAZONにて予約を開始しました。

 中原は編著をつとめ、松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生など、人材業界の第一人者の方々を著者に迎えた、440ページの大著です。

 正式名称は「人事よ、ススメ! ―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講」で、3月11日より碩学舎さんから発売になります。

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 著者でもあり、かつ、人事領域を先導なさる守島先生、金井先生から御両名からも、下記のような推薦文章を「帯」にいただきました。この場を借りて心より感謝いたします。

【人材開発の未来像がここにある】
  一橋大学大学院 商学研究科教授 守島基博

【これからの人事はどこへ「ススム」のか】
【学びのイノベーションへ、ようこそ!】
― 神戸大学大学院 経営学研究科 教授 金井壽宏

 この本は、中原が主任講師をつとめる「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶことを目的にした、慶應丸の内キャンパスで行われている社会人向け講座「ラーニングイノベーション論」の2年前の授業を、紙上実況中継した本です。

 「ラーニングイノベーション論」は、企業の人事・人材開発担当者が、半年のセッションを通して「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かして、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行う、アクションラーニング型の授業を特徴としたコースで、2年前の講義では、今回の著者を含む各領域で活躍する研究者、実務家がリレー講義をしてくださっています。

 講義のあとは、中原がファシリテーションをつとめるディスカッションやワークショップ。このコース自体が、インタラクティブであることに徹底的にこだわったつくりになっています。

「人事よ、ススメ! 」は下記のような目次・章立てとなっております。人材開発の基本を1冊でまるごと学べる内容となっています。

<目次>
(1)経験学習とOJT研究の現在 ~育て上手のマネジャーの指導法
 北海道大学大学院経済学研究科 松尾睦

(2)「非日常のアドベンチャー」を通し、「できる自分」に出会う
 玉川大学学術研究所・心の教育実践センター准教授 難波克己

(3)日本型戦略人的資源論とはなにか
 一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博

(4)やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場
 スターバックス コーヒー ジャパン (株)人事本部人材開発部部長 久保田美紀

(5)ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方
 SAPジャパン(株) 常務執行役員人事本部長 ほか アキレス美知子

(6)提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える
 神戸大学大学院経営学研究科教授 金井壽宏

(7)「職場の学び」を科学する
 中原淳

(8)知識創造理論の現在 ~知識創造をめざす「場」のデザインとは
 東京工業大学大学院准教授 妹尾 大

(9)創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開
 東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野 准教授 高尾隆

(10)研修のデザイン~教えることを科学する
 中原淳

(11)成長するしかけ"を創る
 (株)サイバーエージェント 執行役員 人事本部長 曽山哲人

(12)特別対談 ラーニングの現在 ~企業に「実験室」はあるのか
法政大学経営学部教授 長岡健 × 中原淳

 3月11日には発売になりますが、すでに先行予約がはじまっており、先だっては予約カテゴリー1位をすでにいただきました。ぜひ、ご高覧いただければ幸いに思います。

 特に、後述するように、僕はこの本を、東京都内・関東近郊の方はもちろんのこと、それ以外の、それぞれの地方で志をもって人材開発に携わる方に対して、記したいという思いで編著を行いました。

 お一人でお読み頂くこともまことに嬉しい事ですが、どうか、それぞれの地域で、志のある方々と勉強会などがさらに発展したとしたら、さらにうれしいことです。結局、地域を元気にする試みは、それぞれの地域の、それぞれの現場にいらっしゃる、志ある人々が立ち上がるかどうかにかかっています。本書が、その一助となることを願っています。

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 なお、ラーニングイノベーション論は常に変わり続ける、人材開発の最高峰のカリキュラムをめざしています。今年のカリキュラムも、昨年、2年前とはかなり変わっていますが、先日、募集を開始しました。この13回で、人材開発の基礎基本を「最先端の話題」で学ぶことができます。

ラーニングイノベーション論 2015(慶應丸の内シティキャンパス)
http://www.keiomcc.com/program/lin/

 もしご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうか受講をご検討いただけますようよろしくお願いいたします。
 募集はまだはじまったばかりなので、まだ「残席」がございますが、どうかお早めにご検討をお願いいたします。まずは話から聞いてみよう、ということでももちろん大丈夫です。どうぞよろしく御願いいたします。

ラーニングイノベーション論 2015
(ご登壇いただく講師の先生方:心より感謝いたします)
松尾 睦先生(北海道大学大学院)
難波克己先生(玉川大学)
木村滋樹先生(ヤマト運輸株式会社)
守島基博先生(一橋大学)
服部泰宏先生(横浜国立大学)
金井壽宏先生(神戸大学)
島村公俊先生(ソフトバンクモバイル株式会社)
髙木晴夫先生(法政大学)
高尾隆先生(東京学芸大学)
中村和彦先生(南山大学)
吉田毅先生(ヤフー株式会社)
曽山哲人先生(株式会社サイバーエージェント)
中原 淳(東京大学)

 最後に、「人事よ、ススメ! ―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講」の冒頭に僕が書いた「はじめに」と「終わりに」を掲載させて頂きます。どうぞご高覧いただければ幸いです。

 最後になりますが、執筆者の松尾睦先生、難波克己先生、守島基博先生、久保田美紀先生、アキレス美知子先生、金井壽宏先生、妹尾大先生、高尾隆先生、曽山哲人先生、長岡健先生には、講座出講に加えて編集等に貴重な時間をたまわり、心より御礼申し上げます。

 また、この書籍の出版に御協力いただきました碩学舎の松井剛先生(一橋大学)、水越康介先生(首都大学東京)、構成・編集プロセスをすすめてくださった森旭彦さん、中央経済社の浜田匡さん、慶應丸の内シティキャンパスの城取一成さん、保谷範子さん、井草真喜子さん、調恵介さん、石井雄輝さん、そして、装丁・カバー・内部の図版を作成してくださった松浦李恵さん、大石サヨリさんに心より感謝いたします。本当にありがとうございました!

 そして人生は続く!

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【はじめに】
 本書は、慶應丸の内シティキャンパスで実施している半年間の授業「ラーニングイノベーション論」の講義の様子を収録した本です。
 ラーニングイノベーション論は、僕が主任講師をつとめる「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶ講座です。企業の人事・人材開発担当者の方々が、半年13回のセッションを通して「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かしつつ、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行う、いわゆるアクションラーニング型の授業になっています。
 毎回のセッションは、それぞれの領域のトップランナーの研究者の方々、実務家の方々を招き、最先端の講義や実習をしていただくことになっています(僕自身が講義を行うセッションもあります)。すべての講師の方々が、第一線の研究者・実務家です。お忙しい中、このセッションに貴重な時間をいただいていることを、心より感謝いたします。
 僕の役割は、多くの場合、ご提供いただいた講義を、実務や人材開発の観点から解説したり、クラスディスカッションをファシリテーションしたり、ラップアップと称したミニレクチャーをしたりすることです。毎回約3時間の講義は、あっという間に終わります。

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「ラーニングイノベーション論」がこの世に生まれたのは2009年、そして、この講座の立ち上げを企画していたのは、2008年のことだったと思います。

 2008年の冬、慶應丸の内シティキャンパスの城取一成さん、保谷範子さん、そして現在は慶應義塾大学におつとめの井草真喜子さんらが、東京大学の僕の研究室を訪れたことから、その歴史ははじまりました。ラーニングイノベーション論のコンセプト、そして、その講義名すらも、彼らとのディスカッションの果てに生まれたものです。

 ラーニングイノベーション論を企画するにあたり、僕たちは、以下のような思いを、この講座に込めました。

 まず、私たちはラーニング(学ぶこと)を「自分自身が行動やものの見方を変え、さらには、他を変えること」と定義しました。一般に俗世間では「学ぶこと」といえば、「有能な人からありがたい知識やスキルを伝達してもらい、脳の中に記憶すること」と考えられがちです。こうした考え方にたつと、ラーニングイノベーション論の講座のカリキュラムも、著名人の講義を「一方向的」に拝聴する、ことという風になってしまいます。

 確かに、人生のある局面では、先達のつくった知識やスキルを継承し、記憶していくことが求められます。しかし、企業の人材育成・人材開発が、働きかけの対象にするような「成人の学び」の場合はどうでしょうか。成人は、すでに義務教育、中等教育、高等教育機関をへて、すでに様々な知識を身につけ、様々な業務経験をもっています。そうした人々の背中を押すときに求められるのは、知識・スキルを獲得することに加えて、具体的な行動や視座の変革をなすこと。そして、そのことを通して、周囲にある物事・事業・職場・組織を変えていくことです。

 ラーニングイノベーション論は、そうした「成人の学び」を生み出すために、人事・人材開発担当者にどのような知識・スキルが必要かを考え、編み出されました。ラーニングイノベーション論の受講生自らが「自分自身が行動やものの見方を変え、さらには、他を変えること」に挑めるようにカリキュラムをつくりました。

 次に配慮したのは、人材開発にまつわる「理論的知識と実務的知識のバランス」「経営にまつわる知と学習にまつわる知のバランス」をとることです。

「人材開発」という営みを仕事として達成していくときに必要な理論・知識・事例・スキルは、本当に多岐にわたります。その仕事を効果的に為すためには、まずは、理論的知識と実務的知識をバランス良く所持し、それらを関連づけることが求められます。

 リフレクション研究で名高いフレット・コルトハーヘンは、理論的知識を「大文字の理論(Theory)」、実務的知識を「小文字の理論(theory)」と名づけ、学びを生み出す側には、この二つの「Theory」と「theory」の融合を果たすことが重要であることを主張しています。

 また「経営にまつわる知と学習にまつわる知のバランス」も、大切なことです。人材開発とは、単に「大人の学びを促せばよい」というわけではありません。また、「経営のためだけに存在している」というだけでもありません。人材開発を効果的になすためには、「経営にまつわる知と学習にまつわる知のバランス」を適度にとって、その知を習熟していくことが求められます。

 ラーニングイノベーション論のカリキュラムをつくる際には、こうした点に配慮がなされました。登壇する講師の方々を選定する際には、実務家、理論家、組織に強い人、学習に強い人、それぞれの領域からバランス良く選ぶことにしました。
 
 最後に配慮したのは「ラーニングイノベーション論」の授業進行やファシリテーション、カリキュラムの構築の仕方、事務局のあり方が、学習者の方々に「見て、そのまま真似して、学んで頂けるようにすること(観察学習といいます)」でした。

「人材開発のあり方」や「成人の学習」に関して講義を行うものは、その学習者からも常に「問いかけられる覚悟」をもつべきです。

 あなたは、学びを変革しろという
 あなたは、インタラクティブに授業をしろという
 あなたは、グループワークを工夫しろという
 
 そういうあなたはどうなんだ?
 
 あなたは、自分の授業を「変革」しているのか?
 あなたは、インタラクティブに授業をしているのか?
 あなたは、グループワークを放置していないのか?

 哀しいかな、我が国の人材開発や成人の学習を語る言説の「主体」の多くは、この問いに対して「沈黙を守る」か、ないしは、この問い自体を「なかったこと」にしてきました。

「ラーニングイノベーション論」を生み出す私たちは、そうしたアプローチをとりません。こちら側で「ラーニングイノベーション論」を生み出そうとする人々全員が、実践者として「見られる存在」であることに腹をくくることにしました。

 もちろん、どんなに頑張っても、わたしたちには「不足」はあるし、「至らぬ点」もあります。「改善点」も多々あるでしょう。しかし、そうしたものを最大限なくす努力をしたうえで、さらに生じた「不足」「至らぬ点」「改善点」には、真正面から向き合う。常に「ラーニングイノベーション論」自体のあり方をリフレクションし、改善を行っていく。受講生に向き合い、場から逃げない。ラーニングイノベーション論が6年たち、ラーニングファシリテータが保谷範子さんから調恵介さん・石井雄輝さんに変わっても、このことだけには6年間こだわってきたつもりです。
 
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 このたび、碩学舎様より「ラーニングイノベーション論」を書籍にする機会をいただいたことには心より感謝しています。この書籍のご担当をいただいた松井剛先生(一橋大学)、水越康介先生(首都大学東京)、そしてすべての講座に立ち会い原稿をつくってくださった森旭彦さんには、心より感謝いたします。

 個人的には、この書籍科企画を前に進めたかったのは、東京以外の地域にすむ人々にも「ラーニングイノベーション論」の知をお届けし、それぞれの地域で、それぞれの風土にねざした人材開発施策を生み出して頂きたかったからです。

 ラーニングイノベーション論をはじめるようになって以降、僕のもとには、地方にお住まいの方から、時折、メールなどをいただきました。曰く、

 「ラーニングイノベーション論に出たいけれど、東京までは行けない。地方に、これに似たコースはないだろうか。もしあったら教えて欲しい」

 しかし、こうしたメールに対する僕の答えは、まことに心苦しいものでした。まず、人材開発の世界、業界はかなり都市に偏在していている現状があります。また、哀しいかな、我が国の高等教育機関には「企業・組織における人材育成」や「人材開発のあり方に関する研究」を行っていく研究者は非常に少ないのが現状です。そして、そのことは、そうした高等教育機関では、人材育成や人材開発に関する最新の知識や理論を学ぶことが難しいことを意味しています。今後、僕自身は、こうした問題に、生涯をかけて取り組んでいこうと思っていますが、このことにずっと心を傷めていました。

 俗には、よく「地方分権」とか「地方の時代」と言われます。しかし、地方が主体的にかつ自主性をもって動いていくことのできる時代というのは、「動く地方」と「動かぬ地方」のあいだの格差が拡大してしまう可能性のある時代であることも意味します。地方と都市をめぐる知識格差の問題は、何とか解消しなければならぬ問題でしょう。こと「人材開発」に関する問題は、都市であろうと、地方であろうと「みんなの課題」なのですから。

 慶應丸の内シティキャンパスで開催されている「ラーニングイノベーション論」は、「東京・丸の内」のど真ん中という、非常に特殊な空間で展開されているものです。ここで展開されている「知のエッセンス」を、本書を通じて、より多くの人々にお届けできることができたとしたら幸いです。

 もちろん、本書だけで人材開発の知識・スキルを獲得することは難しいでしょう。しかし、本書は、「人材開発の奥深い世界の入口に立とうとする人々」に、その面白さと広がりを伝える役割は果たしうるのではないかと思っています。

 2009年にはじまった「ラーニングイノベーション論」は、過去6年間、約180名の卒業生(アラムナイ)を世に送り出してきました。
 卒業生の中には、人事・人材開発の領域で活躍なさっている方、経営層になられた方、人にまつわることに興味関心はもちつつも今は事業部で活躍なさっている方など、様々な方々がいます。
 アラムナイのメーリングリストは、ときに活発に動き出し、卒業生の誰かがラーニングイベントや読書会、勉強会を開催しています。ラーニングイノベータは、今日も変わり、そして、動いています。

 この本を、

 自ら変わり
 他を変えていく
 志ある人々へ

 自らが動き
 周囲を動かす
 熱意ある人々へ

 お贈りします。
 本書はあなたに問いかけます。
 さぁ、ラーニングイノベータの仲間になろうよ、と。

 Come on and join us!

 2014年11月7日 秋、昼下がりの本郷キャンパス
 中原 淳

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【終わりに】

 本書を終えるにあたり、「ラーニングイノベーション論とは何か?」を改めて自らの心に問うたとき、真っ先に思い浮ぶことのひとつは「これは自分だけのものではない」という思いです。

 思うに「ラーニングイノベーション論」とは「共創の時間」でした。それを喩えるならば、講師ー事務局ー参加者が「主客一体・相客一体」となってつくりだした「長編映画」のようなものであったな、と感じます。そして、同時に、その映画のディレクターでもありパフォーマーでもあった僕自身が、この「長編映画」の中で、様々な方々に支えられ「実務家の皆様に育まれてきたな」という、感謝に似た思いがこみあげてきます。
 今から考えますと、ラーニングイノベーション論を立ち上げたとき、僕は今よりもずっと若く、そして自らのキャリアを一心不乱に模索していたときでした。当時の僕は、前をみても曙光すら感じられず、後ろを向いても帰る場所すら見えないような道を歩んでいました。
 実務家の皆さんは、そんな僕を温かく迎えてくださり、また時に叱咤激励してくださり、また僕をここまで導いていただきました。そのことに心より感謝いたします。

 確かに「ラーニングイノベーション論」の主任講師は僕であり、すべてのカリキュラムに責任を負っているのは確かです。至らぬ点の一切の責任は、僕にあります。
 しかし、僕だけの力で、この「長編映画」が成し遂げられたわけでは全くありません。第一線を走っておられる講師の先生方、そして慶應丸の内シティキャンパスのラーニングファシリテータの皆さん、そして参加者の皆さんに支えられ、助けられ、ラーニングイノベーション論は、変わり続け、ここまで続けることができました。

 そうした思いのもとに、今何を為すべきかを考えたときに、すぐに浮かんだことは、「ラーニングイノベーション論のエンドロール」を創ることです。
 ラーニングイノベーション論という長編映画のそれぞれのシーンに登場してくださった講師の先生、事務局の皆さん、そして、参加者の皆さんが、同じ時代に、同じ場所で、同じ経験を「共創」し、共有できたことを喜びつつ、今、それをここに記そうと思います。

 ーーーエンドロールーーー

 今、エンドロールが流れ、「ラーニングイノベーション論」の第一幕が終わりました。次は何を為すべきか。どんなシーンを誰とともに創り出そうか。今日も、そんなことを考えて、僕は丸の内を急ぎ足で歩いています。

 2014年11月17日 紅葉進む丸の内にて
 中原 淳

投稿者 jun : 2015年3月 2日 07:00