政治的実践としての「組織開発」!?:緊張・葛藤・不一致をいかにやりくりするか?

 昨日は大学院・中原ゼミの今学期、最終日でした。ゼミのあとには、今年のM2の学生さん、浜屋さん、田中さんの修士論文提出を祝して、ゼミで新年会をひらきました。浜屋さん、田中さん、まことにお疲れ様でした。
 また、新年会を企画して下さった吉村ゼミ長はじめ、皆様にも、心より感謝いたします。ありがとうございました。

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 昨日の大学院ゼミの英語文献は、対話型組織開発に関する論文を読みました(浜屋さんのご発表でした)。

 組織開発、対話型組織開発に関しては、何度もブログで書いておりますので「耳タコ」でしょうけれど、ふたたび専門家に「便所スリッパ」で後頭部をひっぱたかれることを覚悟して申し上げますと、

 組織開発とは

1.人を集めてもテンデバラバラで、成果がだせない場合に、
2.あの手この手をつかって、
3.組織やチームを何とか「Work」させようとする働きかけ

 のことをいいます。

 で、数ある組織開発のなかでも、

 対話型組織開発とは

「テンデバラバラの組織の当事者たちに、まず同じテーブルに集まって、組織のことをテーマにした対話を繰り返し行っていくことで、今までの組織のあり方をリフレクションしつつ、未来を議論し、決めてもらうこと」

 をいいます。

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 今日の論文の主旨は、

 組織開発は、コンサルタントとクライアントの「協働」(Collaboration)で常に達成される

 ということでした。

 このことは、組織開発や、それに類推する活動をおやりになった方なら、そうだよな、と思うところはあるのではないでしょうか。

 組織開発のような活動は、コンサルタントが、「専門家風をビュービュー吹かせて」、上から目線で指導しても、「空回り」に終わってしまったり、活動が根付くことはありません。

 結局は、その「地の人」であるクライアントと、「専門家」であるコンサルタントが、一定の信頼関係のもと「協働」してこそ、目指すゴールが達成されるのです。

 しかし、ポイントは、「協働」という2文字のロマンチックワードにひそむ、本当の意味です。
 人事・人材開発の言説は、この種のロマンチックワードに「お化粧」されることが多いので、わたしたちは、その背後に蠢く闇を同時にのぞく勇気をもたなければなりません。

 一般に「協働」「コラボレーション」と申し上げますと、一般の方々の脳裏には、「素晴らしき饗宴的な素敵な舞台」が思い浮かぶのかもしれませんが、「協働」によって達成される組織開発には、常に「緊張」が強いられる、というのが論文の後半部の趣旨でした。

 ワンセンテンスで申し上げますと、

 組織開発において、組織開発コンサルタントは、常に「緊張」とつきあわなくてはならない

 ということです。

 これを別の言葉で申し上げますと、

 組織開発とは「経営的実践」である一方「政治的実践」なのです。

 人々の関係を調整し、時と場合によっては痛みを伴いながら修正し、改善していく・・・組織開発は決して「価値フリーで、ニュートラルで、ロマンチック」な活動ではありません。

 むしろ、本当に意味のある組織開発とは、「バイアスだらけで、ドロドロで、誰もが目を離したくなるようなリアリティと向き合う政治的実践」なのです。

 例えば、組織開発の局面では、

・組織メンバーの発言の何をふくめて、何をふくめないか?
・激しい意見の不一致が生じたが、これをいかに対処するか?
・組織開発コンサルタント自身が、権力を用いて「意味のおしつけ」をなすべきか、なさぬべきか?
・組織開発の局面で顕在化してきた「ネガティブな意見」といかに向き合うか?

 ということが容易に生じます。

 こうした激しい葛藤や衝突を、いかにして乗り切ることができるのか。あるいは、乗り切ることは無理にせよ、やりくりしていくのか、といった視点が、組織開発コンサルタントには求められます。

 組織開発には「緊張」や「葛藤」がつきものです。
 それでも、あなたは組織開発をやりたいですか?

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 今学期の大学院ゼミでは、対話型組織開発に関する理論本を読みました。研究室の大学院生のみなさま、本当にお疲れ様でした。

 今学期のゼミはこれで終了となりますが、残念なことに!(笑)、ウィンターゼミというのが2月、3月には月1程度で開催されます(吉村ゼミ長、アレンジをありがとうございす)。

 大学に休みはあっても、研究に休みはありません。
 毎日数時間コツコツと修行!

 皆さんの研究の進捗を楽しみにしております。

 そして人生はつづく

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