「組織を変える」ときに引き起こされる「ちゃぶ台バーン的学び」!? : リフレクションをうながす「問い」を集める!?

 先だっての大学院・中原ゼミで、田中聡さん(M2)が英語文献購読で「対話型組織開発と変容的学習」に関する文献を読んでくださいました(お疲れ様です!)。

 最初におさらい。

 組織開発については、このブログでも何度か書いておりますが、専門家に「便所スリッパ」で後頭部をひっぱたかれることを覚悟してスリーセンテンス?で申し上げますと、

1.人を集めてもテンデバラバラで、成果がだせない場合に、
2.あの手この手をつかって、
3.組織やチームを何とか「Work」させようとする働きかけ

 のことをいいます。

 で、数ある組織開発のなかでも、

 対話型組織開発とは

「テンデバラバラの組織の当事者たちに、まず同じテーブルに集まって、組織のことをテーマにした対話を繰り返し行っていくことで、今までの組織のあり方をリフレクションしつつ、未来を議論し、決めてもらうこと」

 をいいます。
 
 ここまで大丈夫でしょうか?

 一方、変容的学習とは「自明となっている価値観や前提が揺らいでしまうような学習」です。

 で、こうしたその契機になるのは、やはり「痛み」です。「方向感覚すら失わせるようなディレンマ」(Mezirow 2010)、ないしは「混乱的ディレンマ」(Mezirow 1994)とよばれるものが、その契機になったりします。

 より一般的にいうと、「思い出すことすら躊躇われるあの出来事」「今思い出しても、胸が締め付けられる、あの瞬間」という感じになるのでしょうか。

 人は、そうした出来事にぶつかると、それまで物事を解釈していた枠組み(意味パースペクティブ)がゆらぎます。なぜなら、今、遭遇している「圧倒的なディレンマ」が自分の従来の枠組みでは処理することができないからです。

 今、まさにぶち当たっている出来事は、これまでのように、今まで自分がしてきたように、省察(reflection)を通じて「経験を解釈し、経験を意味づけること(Mezirow 1991)」することはできない。
 ならば、それまで自明視していた前提や価値観を問い直し、再構築せざるを得ない。「自明の前提・価値観」、ちゃぶ台バーン!(泣)
 これが変容的学習です。

 専門家に便所スリッパでカンチョーされることを覚悟して、変容的学習を定義いたしますと、

 変容的学習とは「痛みをともない、そもそもから問い直す学習」

 あるいは

 変容的学習とは「ちゃぶ台バーンの学習」

 とも言えるかもしれません。

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 先だって田中さんが読んでくれた文献では、

1.対話型開発のプロセスでは「変容的学習」がおこる
2.変容的学習には「リフレクション(そもそもを問い直し、振り返ること)」がともなう

 ということが書かれていました。

 一般に対話型組織開発と申しますと、

「当事者同士が同じテーブルにあつまって、まずは夢や理想を描こうよ!」
「当事者同士が同じテーブルに集まって、組織の未来を描こうぜ!」

 といったような「牧歌的」なイメージがつきまといますが、それはそうではない、ということですね。

 本当に「組織が変わる」ような対話型組織開発をするとは、「痛み」と「葛藤」を経験すること、と同義です。そして、その「痛み」と「葛藤」には、そもそもの「問い直し」がともないます。

 全く共感できます。

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 ところで文献には、当事者たちが変容的学習をとげるときに、「そもそもを問い直すようなリフレクション」を、いかにファシリテータやOD担当者が「問い」によって促すか、ということが書かれていました。

 対話型組織開発をなす人々にとっては、「問い」をとおして、いかに当事者達に、そもそも、考え抜いてもらうかが決定的に重要である、ということです。

 文献には「当事者に振り返りを迫る問い」として、

1.Spiraling question(螺旋的質問)
より大きなビジョンや目的をそももそも思い出させる

 ex . そもそも何をめざしているのでしたっけ?
 ex . わたしたちが・・・後に見たい光景は、どんな光景ですか?

2.Feeling question(感情的質問)
今、どのように感じているか? それについてどんな感情をもっているか?

 ex . 今、心のなかはどんな思いですか?
 ex . 今、あなたは、何を感じていますか?

3.Personalizing inquily(自分事化する問い)
このことがあなたにとってどんな意味があるのか?

 ex . これをやったら、あなたにとってはどんなメリットがあるの?
 ex . あなた自身は、これにどんな貢献をしていきたいの?

 が紹介されていました。

 リフレクション論の世界では、リフレクションを促す問いというのは、たまーに紹介されていることがあります。

 よく出てくるのは、下記のようなものもありますね。

1.線形的質問(Lineal question)
 Who When Where What Whyを聞くようなダイレクトな質問です。誰と、何をしているとき、いつ、どこで、何が起こったのか・・・出来事の「描写」に関わる質問ですね。内省サイクル論では「描写」は、内省の最も基礎的なエレメントになります。

 基本的な質問に思えますが、実は、経験上、働く大人が意外に苦手なのは、この質問だったりします。「皆さん、クソ忙しいので、いちいち、憶えてない」んですね。なかなか出てこないです。

2.循環的質問(Circular question)
 物事の関連性・かかわり・つながりを問う質問です。1で得られた情報をもとに、関連・つながりをつけ、比較・吟味していく質問です。

「Aさんは、あなたをどのように見ていますか?」
「BさんとCさんは、どのような関係ですか?」
「Aという出来事とBという出来事は、どのようなつながりがありますか?」

3.戦略的質問(Strategic question)
 対話が完全に「デッドロック=行き詰まったとき」にする質問ですが、うまくいく場合もありますけど、無用な対立をつくりだすこともあります。
 敢えて「〜すべき」を多用し、対立的、かつ挑戦的なスタンドポイントにたって語りをひきだします。ちょっとハッタリかましてますね。

「そのとき、あなたは〜すべきだったんではないでしょうか?」
「Bさんは〜すべきだと、あなたは思いませんか」
「Cさんは〜すべきじゃなかったんだと、みんなは思っているんじゃないでしょうか」

4.省察的質問(Reflexive question)

 自分が通常見ている風景・慣れ親しんだ物事を、敢えて「別のコンテキスト」に導いて、相手に「考えること」を迫り、ひいては物事を変化させること、自己を変化させることにつなげようとします。仮定法の形式を取る場合が多い。

「もし万が一・・・に戻れるのだとしたら、あなたは何をしますか?」
「もし万が一、あなたが・・・の立場だったとしたら、あなたは何をしたいですか?」

 まー、人を考えさせる問い、というのは他にもいろいろあるのでしょうけど、「問い集」なんてつくれたら面白いかもしれませんね。

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 今日は「対話型組織開発」と「変容的学習」について書いたあとで、「変容的学習」をうながすような「問い」についてつらつら紹介してみました。問い集、面白いと思うけどな。

 あなたのオハコの問いを教えてください。

 そして人生はつづく