よい組織開発とは何か?:実践に対して、理論はいかに「役立つ」のか?

 大学院中原ゼミも、後期3週目にはいってきて、だんだんと盛り上がってきました(ハードになってきました、泣)。
 中原研究室は「泣く子も黙る爆速」です。研究発表やら、文献発表やら、かなりのハイピッチで進みますので、参加なさっている大学院生のみなさまは、毎週課題に追われることになるのかなと思います。まことにお疲れさまです。
 どうか、よいペースを維持して、最後まで、よい発表をしていたあきたいと思います。

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 ところで、昨日の院ゼミでは、「よい組織開発とは何か?」という議論が盛り上がりました。

 今年の院ゼミでは、社会的構成主義にもとづく組織開発の書籍(対話型組織開発)の英語専門書を輪読しているのですが、ここから、さまざまな議論が発展したのです。

 さて、議論はせんだっての問い

「よい組織開発とは何か?」

 という問いからはじまります。問題は、この問いに対する2つの視点からの回答は異なるのではないか、ということです。その2つ回答とは、「実践家の回答」と「研究者の回答」です。

 もし、この問いに対して、実践家の立場から回答をするのだとしたら、さまざまな答えは想定しうるものの

「そりゃ、もともと組織が抱えていた課題が解決する組織開発じゃないの」

 とお答えになる方が多いのではないかと思うのです。
 実務にとって、そもそも組織開発は、何らかの課題を解決するために実施するのであり、それが実行できたかどうかが重要でしょう。
 アタリマエダのクラッカーですが、実務的視点でみる場合、「よい組織開発とは何か?」という問いに対する答えは、目的志向的です。

 しかし、この本がというわけではないのですが、組織開発の専門書を読んでおりますと、ときに感じるのが、この問いに対して、研究者の一部は、全く異なる答えをだすような気がするのです。
 いいえ、正しくは、実務家として「コレクトな答え」を是認しつつも、心の奥底では、

「よい組織開発とは何か?」

 という問いに対して、

「そりゃ、理論的にピュアな組織開発でしょ」

「ほにゃらら理論に"もとづく"組織開発というのであれば、その理論どおりに実施され、結果も、期待できたものが得られる組織開発でしょ」

 と答える方が少なくない数がいらっしゃるような気がします。

 研究者の観点からすれば、「ほにゃらら理論に基づく組織開発」をいま仮になした場合、そこに実践の現場でたまたま生じたハプニングに対応するために実行した「雑味=即興的な対応で、かつ、理論的には説明がつかないもの」は、なるべくないほうが、よい組織開発にうつるような気がするのです。

 しかし、実践の現場では、「理論的にピュアであるかどうか」は二の次です。
 現場で、そのつどそのつど起こる課題やハプニングに対して、「異なる理論系の道具立てや概念」であっても、利用できるものは利用し、活用できるものは、活用するのが、「現場の知」というものです。
 そうすると、研究の観点からみた場合、実践に「雑味」がつくことになります。ある単一の理論系から、その実践のすべてを説明することは難しくなるのです。

 このことは、実は、組織開発だけにあてはまるわけではありません。すべからく、理論と実践、実践現場を抱える学問にとっては、共通の問題を抱えているような気がしますが、いかがでしょうか。大学院ゼミでは、このあたりのことについて議論になりました。

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 今日は、組織開発をネタにしつつも、本質的には「実践とは何か」「理論が役立つとは何か」ということについて書きました。あと3分すると、TAKUZOが起きてきて、宿題をみてあげなくてはならないので、そろそろやめます。

 ただ、最後に自分の意見を表明しますが、もし僕自身が、

「よい組織開発とは何か?」

 と問われたなら、

「そりゃ、課題が解決できる組織開発でしょ」

 と一ミリも迷わず答えると思います。

「理論的ピュア」であっても、現場の課題解決に資することのない組織開発というのがもしあったのだとしたら、そうしたものを僕は称揚する気にはなりません。
しかし、そのことは理論を軽視していることにはつながりません。
僕は、そのうえでこうも答える気がします。

理論を知ることは「基礎基本」や「型」を知ることだよ。それを知っているということは「先人の肩」、すなわち「先人の経験」のうえに立てるってことだよ。だから、理論を知っていれば、オオゴケする実践にはならないよ。

でも、理論は、実践の大成功(目をみはるような成果)を必ずしも保証しないよ。型に精通していても、オリンピックで勝てるわけじゃないでしょ。

 これが僕の「実践と理論」に対する立ち位置です。
 皆さんの立ち位置はいかがですか?

 そして人生はつづく

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追伸.
 実践と理論のお話は、おりにふれて、話題にしているようですね。下記が関連記事です。

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