「10年後の組織」を展望しつつ「人材システム」を変革する!? : シナリオプランニングを用いた人材開発施策の企画とは!?

 10年後の学校はどうなっているのか?
 10年後の校長先生の、ある1日をシミュレーションして、ストーリーにしてみよう
 
 こんな取り組みをなさっている教育委員会がございます。
 横浜市教育委員会・教委職員育成課の皆さんです。
 なぜ、このようなことをなさるのか、といえば、「10年後」をみすえて、教員研修やOJTの各種の制度、仕組みを整備するためです。

 お忙しい中、このような仕事をなさるのは本当に大変だろうと思います。ともすれば研修開発や実施は「オペレーション」に追われがちですよね。
 しかし、10年後をみすえた研修開発は、「未来志向」の素晴らしいお取り組みであると感じます。ぜひ、継続なさって頂きたいな、と感じております。

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 2009年から3年間、横浜市教育委員会と中原研究室は共同研究契約をむすばせていただき、初任教員の育成に関する各種のプロジェクトを遂行してきました。
 そのすべては、当時大学院生であった脇本さん(横浜国立大学)、町支君(青山学院大学)らが書籍におまとめになり(本当にお疲れ様でした。また御協力頂きました横浜市教育委員会の皆様には心より感謝いたします)、すでに「教師の学びを科学する」として出版されています。

 一方、今年から、中原は、横浜市教育委員会から「教員育成顧問」を依頼され、だいたい数ヶ月に一度、課長さん、指導主事のみなさんと議論をさせていただいております。冒頭に述べた、10年後をみすえた人材育成のシステムをゆるやかに議論するためである、と認識しております。完全ボランティア・社会貢献のお仕事ですが、10年後を皆さんと議論させて頂くのは、なかなか興味深いものがございます。


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 かつて、僕らが2009年にプロジェクトにかかわらせていただいたおりには、最大に問題になっているのは、

 大量の新任教員(経験の浅い教員)をどのように「育成」するのか?

 ということでした。

 それも、もちろん今なお課題なのですが、これから10年を考えますと、大量採用した新人達が、今度は「中堅教員」に成長していきます。

 中堅教員は、学校の要であり、大きな役割を担って頂かなければならない一方、プライベートでもさまざまな分岐がでてくる年齢にさしかかります。

 女性の場合は、産休、育休などで抜けることもでてきて、彼らがそれらで抜けている場合、どのように「経験の浅い代用教員」、その穴を埋めるのか、ということが問題になってきます。
 9時から5時まで、ひとりの教員が安定的に勤務する、ということがむずかしくなる事態も容易に予想できます。今よりも、さらに複雑な人材マネジメントが必要になってくるのです。

 要するに、これから10年で問題になってくるのは、

 大量の中堅教員にいかに活躍してもらえる場や制度や育成システムをつくりあげるか?

 ということです。
 
 こと人口にかかわることは、比較的、予想がつきやすいものです。
 だって、みんな、同じように、一年一年、年をとるでしょう。
 10年後には確実に起こりうることを、今から予想する。
 これが、長期の視野にたった人材開発です。

 加えて、10年後の学校は、ICT機器がさらに導入されていくことが予想されます。
 LGBTやキャリア教育など、従来の学校が扱わなかった課題をさまざまに扱わなくてはならなくなるでしょう。
 英語ももちろん、今よりも充実したかたちが求められます。

 教える内容に加えて、教える方法も変わります。アクティブラーニングなど、課題解決型の学習にどのように取り組んでいくか、ということも課題になります。

 そこで、こうした「10年後」に対応していくために、教職員育成課の方々に、お勧めさせていただいたのが「シナリオプランニングの作成」でした。

 課内の様々な方々を巻き込みながら、10年後に対する想像力をふくらませ、「10年後の学校」に関する「対話」をいただきたいとお願いをいたしました。

 10年後の学校はどうなっているのか?
 10年後の校長先生の、ある1日をシミュレーションして、ストーリーにしてみよう

 もちろん、10年後の未来のことを完全に予想できるわけではないのですが、こうしたシナリオをつくっていくプロセスそのものが、「考える機会」になり、かつ、「対話の機会」になります。
 こうしたシナリオをつくっていくことで、組織内にも「ゆるやかな合意」が生まれる場合もございます。そうした土壌のうえに、10年後の教員育成システムを構想してみませんか、とご提案させていただきました。

 研究室には、数ヶ月に一度、課長の松原雅俊さんはじめ、指導主事の長谷川利恵さん、柳澤尚利さん、根本勝弘さんらがお越しなられます。
 みなさんがお持ちになる10年後の未来を話の種に、短い時間ではありますが、お話しさせて頂くことが、なかなか愉しい時間です。皆さんのお取り組みの熱心さには頭がさがります。

 嗚呼、10年後、遠い未来だと思っていたら、そんなことはない。
 10年後なんて、すぐだよね

 10年後は、いったいどうなっているんだろう?
 僕は、どこで何をしているんだろう(笑)

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 今日はシナリオプランニングをベースにした人材開発施策の構築に関するお話をしました。
 これは、実は、組織の企業戦略や、人材開発施策をたてるときには、よく採用される手法ですが、おそらく、教員育成で活用されることは、あまりないのかな、と思います。

 10年後の自組織はどうなっているのか?を考えつつ、未来に必要になる人材施策を、今、考える。

 かつて横浜に住んでいたことがあるせいかもしれませんが、僕は横浜の「挑戦的なところ」「未来志向であるところ」が好きです。ぜひ、今後とも、全国に先駆けて、横浜発のモデルをつくっていただきたいと思います。
 人材開発の仕事は、「オペレーション」がどうしても多くなりがちですが、こうした「未来志向の対話」をすることも時には大切なことなのかもしれません。

 そして人生はつづく