店長さんは「演じながら」店を切り盛りする!? : 外食3社・店長覆面座談会を終えて

 昨年から、僕はテンプホールディングス株式会社さんと「アルバイト・パート人材の採用・育成」に関する共同研究を実施しています。

 このプロジェクトは、「未曾有の人手不足時代」に突入した現在、いかにアルバイト・パートの人材を新たに確保して、育成していくかを、実証的に研究するものです。

 都市部の一部の地域では、すでに10万円かけても、アルバイト1名すら採用できない状況が続いているといいます。

 この状況がいつまで続くかはわかりませんが、こうした人手不足をレバレッジとして、アルバイト・パート人材の働く職場の環境を向上させ、採用・育成の促進につなげることが、このプロジェクトの目的です。

 先だって、このプロジェクトに絡み、外食3社の現役の店長さんにお集まりいただき、「覆面座談会」を実施され、中原もインタビュアーとして参加させて頂きました。
 
 その内容は、後日、ダイヤモンドオンラインの方で、記事として公開されるとは思いますが、非常に情報密度の高い会になりました。3社の店長さんにおかれましては、ご多忙中、ご参加頂き心より感謝をしております。

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 座談会は2時間にわたっておこなわれましたが、つくづくも感じたのは、店長さんのお仕事は「人にまつわる仕事」に占められている、ということです

 つまり、

 アルバイト人材をどのように採用するのか?
 アルバイト人材をどのように育成するのか?
 お店のリーダーをどのように登用するのか?
 お店のリーダーにどのように権限を委譲するのか?
 お店のチームワークをいかにつくりあげていくのか?
 問題のあるメンバーの行動をいかに抑制するのか?

 3名の店長さんの悩みや工夫は、上記のような内容に、ほぼ限られていた、という印象をもっています。

 ダイヤモンド社の編集者・藤田さんは、会の一番最後に、店長さんたちに対して、

 「人にまつわる課題よりも、業績にまつわる悩みの方が、多いのではないですか?」

 とご質問になされていました。

 が、我々の予想に反し、業績にまつわる悩みをあげられる店長さんは、一人もいらっしゃいませんでした。

 なぜなら、「チェーン店の場合、業績をもっとも左右してしまうメニューや戦略などは、すべて本部で決まってしまうので、そこに店長の裁量の余地はあまり多くないから」だとおっしゃいます。

 むしろ、上記のように「人にまつわる課題」が店長さん達を悩ませ、それに日々苦闘なさっている、ということを店長さんたちはおっしゃっていました。

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 興味深いのは、これらの課題に対して、店長さん達がとられる「戦略」は、それぞれ大きく異なっていることでした。
 店舗の状況、店舗の商圏、業態、人材需給などの変数によって、戦略が異なってきます。

 たとえば、近くに大学が多いエリアに店をかまえる店長さんは、店舗を悪い方向に牛耳っていたお店のリーダー格の権限を少しずつへらしつつ、店のメンバーの新陳代謝をはかり、新たに大学生にターゲットを絞ってアルバイト採用活動をおこない、彼らの人づてで採用を行い、店を安定化させていらっしゃいました。
 
 この戦略の実行には、一時的に痛みが伴います。
 一時は、本来4名いなければならない時間に、いるのは自分一人だけ。
 店長さんは、一時は「閉店」も覚悟した、とおっしゃっていました。
 
 ところで、興味深いのは、店長さんのお話の中には、何度か「演じる」という言葉がでてきていることです。
 つまり、店長さんたちは、自分のたてたそれぞれの「ひとにまつわる戦略」に応じて、ある役割を「演じながら」仕事をし、人を動かしているのだと思いました。

 たとえば、先ほどの事例の場合ですと、

「大学生と同年代か、ちょっと上くらいの先輩」
 ないしは
「大学生のよき相談相手となる先生」

 を演じながら、彼らと同等の目線で仕事をおこない、彼らを動かしているのでした。非常に面白い視点だと感じました。それが証拠に、その店長さんは、学生さんから「先生」と呼ばれることがあるそうです

 店長の仕事に付随する「演じる」という側面が、非常に興味深く感じた夜でした。

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 今日は、先だっておこなわれた店長覆面座談会のお話を少しだけさせていただきました。覆面座談会の模様は、後日、ダイヤモンドオンラインにて公開されるようです。どうぞご笑覧ください。

 ちなみに、この座談会には、店長さんの他に、テンプHDの小林さん、井上さん、ダイヤモンド社の藤田さん、ライターの井上さんが参加なさいました。ありがとうございました。またこの場をつくっていただいたテンプHDのIさんには心より感謝いたします(ご迷惑がかかる可能性があるのでお名前は差し控えさせて頂きます)。

 どうもありがとうございました。
 そして人生はつづく

※ちなみに、店長さんたちが、他の会社の店長さんと、こうして出会い、お話しをすることは、まずないとのことです。ビジネス上はライバルなのでしょうけれども、店長という役割においては、共通の同志観のようなものも感じます。店長さんたちが横につながる場ができたとしたら、興味深いなと思いながら、座談会を過ごしておりました。また考えてみます。

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