中途採用者は「放置プレーできる即戦力」か!?:中途採用者の人材マネジメント、その実践知の発展をめざして

 今、ひそかに仕込んでいる研究のひとつに「中途採用者の研究」があります。先だっては、やはり今仕込んでいる研究のひとつである「管理職から実務担当者への逆トランジション」研究について書かせてもらいましたが、それとは別の、もうひとつの研究になります。


管理職から実務担当者への「逆トランジション」!? : 「定年きっぱり・管理職はアガリの世界」から「定年レス・管理職は役割の世界」への移行!?

http://www.nakahara-lab.net/blog/2014/10/post_2287.html

 中途採用者の研究については、すでに、著書「経営学習論」で1章を使って、その「導入部分」だけ、ほんのさわりを書かせてもらいました。


 経営学習論は、「組織と学習の各研究領域には、どんな研究の可能性が存在するのか、その地図を描くこと」が目的の本ですので、それはそれで目的を達成したなと思っているのですが、中途採用者の部分は、いつか「深ぼり」したいな、とずっと思っていました。

 いくつかのデータから、僕には

 「中途採用者=放置プレーできる即戦力」

 というラヴェルは「間違っている」のではないかという思いがあります。ここで「放置できる即戦力」とは「新卒のように手間をかけなくても、放置していても、勝手に即戦力として成果を残せる人材」ということです。

 この「放置プレーできる即戦力」というラベルは、なかなかに「曲者」です。これが存在するために、「中途採用なんだから、周囲に迷惑をかけちゃいけない」という風になり、本当は必要な情報を周囲から得ることができない。
 また受け入れる方も、「中途なんだからできてあたりまえ、お手並み拝見モードで見ているだけでいい」ということになりがちです。

 もちろん、中途採用は、新卒採用とは異なるので、当然支援の量も質も異なってあたりまえなのですが、それにしても、我が国には「中途慣れしていていない組織」が多い印象があるのは気のせいでしょうか。中途採用者の組織適応プロセスの実際と、それをハンドリングできる「実践知」の蓄積が、さらに必要であるように思います。

 研究の現場から見る、中途採用の実際は、少し風景を異にします。
 拙著「経営学習論」で論じたように、こと営業職に話をしぼったとしても、前職の営業経験あり / なしが、中途採用後のパフォーマンスに与える影響に統計的有意な差はありません。個人的には「中途採用、新卒採用」というラベルは、どこまで意味があるんだろうか、と思っているところもあります。もちろん経験のありなしは違うのですが、そこまで大きな違いもないようにも感じます。
 
 やはり、あたりまえだのクラッカーですが、

 中途採用者が、どのような職場に配属され、どのような仕事を、どのように任されるのか

 がパフォーマンスに与える影響は大きくなるのだと思います。

 中途採用者は組織参入時、どのような困難を抱え、それをどのように乗り越えるのか。前職のどのような経験が活きて、何が活きないのか。成果をだすことのできる中途採用者と、そうでない中途採用者は何が違うのか。
 今度の研究では、そうした中途採用者をめぐるリアリティに、定量的にも、定性的にも接近する研究がしたいと思っています。そのための準備がいよいよ整いました。
 
 本研究は、まだプロポーザル段階なので、ご迷惑をおかけしないためにも、現段階でお名前をだすことは差し控えます。が、今回の研究では、経営学の先生方にもご参加頂く共同研究になる予定です。
 現段階は、プロポーザルのやりとりをさせていただいている状況ですが、今から、「なるほど、そんなアイデアがあったか」と学ばせて頂いています(心より感謝いたします!)。

 どんな実証研究ができるのか、今から、とても楽しみです。
 新しい研究を、常に、生み出し続けていきたいものです。
 そして人生は続く