「学びを他者に記録される側」から「学びを自ら記録する主体」へ:「学びの様子」はなかなか伝わりにくい!?

 この2日間、恒例の大学院中原研究室・学際系!?合宿「EnCamp2013(エンキャンプ2013)」に出かけておりました。この合宿は、中原研究室とご縁(En)のある方々が集い、各学問領域の最先端について2日間で相互に学ぶことをめざす「Camp」のような合宿です。EnとCampで「EnCamp」、そのまんまですな(笑)。今年は、大学院レベルの内容に焦点をしぼり、25名弱の方々にご参加いただきました。ご参加頂きましたみなさまお疲れ様でした。ありがとうございました。

  ▼

 この合宿で扱った内容は、各学問領域の最先端。
 内容は、非常に多岐にわたります。
 学習科学、デザイン実験、素朴学習観、イノベーションプロセス、オープンイノベーション、組織論、産学連携、資源動員、パフォーマンスエスノグラフィー、特権性、Good Research(よい研究)、舞台とパフォーマンス、越境、Connected Learning・・・。
 ご出講いただいた益川先生、伊達先生、高尾先生、岡部先生、そして中原研のみなさまには、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 学問とは本当に「面白い」もので、非常に多岐にわたる分野ながらも、必ず、シンクロニシティ(同じような主張が、違ったかたちで、同時期になされる)が存在するものです。些末な点は学問領域によって状況は異なりますが、多くの場合、わたしたちは「大きな学問的潮流」の中にいるものです。ふだん、日常的に雑事に追われているときは気づかないけれども。
 EnCamp2013にご参加頂いた方々は、おそらく、その片鱗を、それぞれごとにお感じになられたのではないか、と思います。そういう意味で、学問は「面白い」んです・・・実は、みんなつながっているから。

 下記は、2日間をまとめた中原のラップアッププレゼンテーションです。一応公開させていただきますが、たぶん、これだけ見てもおわかりいただけないことも多々あるのかな、と思います(泣)。ごめんなさい。また、次年度、もし、皆様の希望があれば、EnCamperを募集させていただきますので、どうかお許し下さい。


 
  ▼

 今回のEnCampでは、不肖中原にはもうひとつの「挑戦」がありました。
 いつだって「背伸び」がなけりゃ面白くない。

 それは、日のブログでも書きましたように「ドキュメンティング・ファシリテーション」という「新たな学び創造の文法」の準備を、自ら進めることです。今回は、舘野さんにサジェスチョンと機会をもらい、いわゆる「リアルタイムドキュメンテーション」といわれるものに、まずは、チャレンジしてみました。

ドキュメンティング・ファシリテーション
http://www.nakahara-lab.net/blog/2013/02/post_1964.html

 下記のビデオは、大学院生の皆さんにお力をお借りしつつ、中原が会に自ら参加しつつ、かつドキュメンテーション(記録)を行ってみた結果です。ひとりでリアルタイムにつくりました。
 これまで、僕は、たぶん数十回は「リアルタイムドキュメンテーションされている」と思うのですが、自ら、自分で、リアルタイムドキュメンテーション・ムービーを作成したことはなかった。つまり「記録されること」はあっても、自らが「記録する主体」ではなかった。

 今回のビデオは、ipadを片手にiMovieをつかって、リアルタイムに映像記録を行いました。2日目には、この映像をみんなで見つつ、2日間を振り返りました。

 ちなみに、僕はリアルタイムドキュメンテーション業界!?カーストの最下層にいる人間です(笑)。iPadを片手にもって、iMovie編集をはじめて行ったのは、2日前。なんとPC版のiMovieに関しては、触ったことがありません。ですので、別に「予防線」を張っているわけではないですが、下記のビデオは、そういうレベルなんだ、という前提でご覧下さい。
 逆に、2日間、触るだけで、ここまではできるという自信を皆様にもっていただけたとしたら、嬉しいことです。大丈夫、誰でもできるんだよ(笑)。


■EnCamp2013(HD画質)

もし見られない、ないしはコマ落ちがおこるようでしたら、こちらをどうぞ「EnCamp2013 SD画質」
http://www.youtube.com/watch?v=WNt5ecCu8fA

  ▼

 今回、僕自身が「参加し、記録する主体」となってみて、いくつかはじめてわかったことがあります。いままで「記録される主体」としてはわからなかったことが、ようやく、自分でやってみて、遅まきながらわかりました。ごめんね、遅くて。でも、2日間、マジでガチに、この課題に取り組んで、僕は、ようやくわかりました。

 ひとつめは「概念の整理」の問題です。
 今後、ドキュメンテーションは「リフレクション用」なのか、「セレブレーション用」なのかをきっちり分けた方がいいのではないか、ということです。
 つまり、映像を用いて、「その日あったことをきちんと振り返ること」が目的なのか、それとも、「参加した方々に、集合記憶をもってもらったり、社会的連帯を強化すること、感情浄化を目指すこと」が目的なのか・・・この2つのどちらをめざすのかは、はっきりした方がいいということです。現在、映像を用いたリアルタイム・ドキュメンテーション・ムービーは、この2点が非常に混乱した状況にあるような気がします。

 上記のVは、どちらかというと、後者の「セレブレーション」風のつくりになってしまいました。本当はリフレクションムービーを目指していたはず・・・なのですが。。。わたしの技術が「ヘボい」せいだと思いますが、この形式で記録し編集すると、どうしても、後者の「セレブレーションムービー」になってしまいます。

 逆に思ったのは、リフレクションムービーとして、用いるなら、これとは「違う映像文法」が必要なのではないかと思いました。そして、その案は、つくりながら、僕には、浮かびました。次は、それにチャレンジしてみたいと思っています。また、おひとりビデオ編集で。

  ▼

 ふたつめ。
 それは、アタリマエダのクラッカー、何をいまさらジローかもしれませんが、「学びとは、それがどんなに素晴らしいもの、かつ、インサイトに満ちあふれるものであったとしても、その場にいない他者に、その本質を伝えることは、本当に伝えることが難しい」ということです。
 そのことはわかっていたつもりでしたし、また、それを「伝えること」にチャレンジしつづけてきた十数年だったとは思うのですが、今回、ひとつひとつの映像カットを選択し、編集しているうちに、本当に、この感情を強くもつようになりました。

 先ほどのビデオをご覧になった方は、すぐにわかると思うのですが、その「構図」は基本的には「発表している」「座っている」「喋っている」の3つくらいしかないことに気づかされます。

 そこには「EysーOpnerな変化(目を見張るような変化)」はあまりありません。つまり、どうしても「絵」としては「地味」になるのです(念のため行っておきますが、被写体が地味だといっているわけではありませんよ!)。
そこでは、本当に貴重な「気づき」や「学び」や「違和感」が各参加者毎に起きているはずなのですが、それを、「その場に居合わせない他者に伝えること」は「至難の業」なのです。僕の技術が「ヘボい」せいで、そうなっていることは否めませんが、これはなかなか難しい課題だと思いました。

 そして、やや妄想力を爆発させて、かつ、自戒をこめて申し上げますと、「他人に学ぶ様子」はなかなか、その場に居合わせない人々に伝わりにくいことに、もっと「人」「組織」「学び」に関係する方々は、自覚的でありたいものだと思います。「人が育つ様子」「人が育てられる様子」「人が学ぶ様子」「人が教える様子」は、その場に居合わせない人々 - 多くの場合は、その場の継続の決定権をもつ人々 - にとって、相当「遠い」ということを自覚するということです。
 ですので、「伝える努力」「伝えるメディア」「伝える機会」をもつことが大切なのかもしれません。いくらやっても、いくらアカウントしつくしても、足りなすぎるくらいなのかもしれません。

 ▼

 みっつめ。
 それは端的に申し上げるならば、「他人に記録される」よりも、「自分で記録すること」の方が、学びは深い、ということです。
 今回、僕は、最高の集中力で2日間を過ごしました。これが、もし「他人に記録される」のでしたら、ここまでガチに、その場に起こっている出来事にセンシティブであり続けることができたかは疑問です。本気の本気で、僕は考えました。なぜなら、見落としてはならないから。そこで発揮された集中力と根気は、自分が「記録される側」ではなく「記録する主体」になったことが大きいような気が致します。

 「記録される側」であるよりは、「記録する側」に回る
 自分の学びは、自分で記録する

 この時代にあって、自分の学び・成長の記録を、誰がトレースするのか? 誰にトレースされるのか?
 自分の学習・成長に対して、自分がイニシアチブを発揮し、記録し、自覚できるかどうかは、大きな問題であるような気がします。そんなことを考えながら、今回ビデオ作成をしました。

 ▼

 最後になりますが、中心的に、今回のEnCampの準備を行ってくれた保田さん、舘野さんを中心として中原研の大学院生のみなさま、本当にお疲れ様でした(感謝!)。手前味噌になって誠に恐縮ですが、ホスピタリティあふれるロジスティクス、また、インサイトにとむカリキュラムデザインだったと思います。本当にありがとうございました。

 2日間、もう燃え尽きたよ。
 中原研・吉村さん的にいえば、こんな感じ。

あしたのジョー
http://img5.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/a6/1d/nkboyhood/folder/565880/img_565880_52730046_0

 そして人生は続く