新卒慣れしている組織、中途慣れしている組織 : 「採用の変化」と「組織学習」

 先日、ある研究会でお話をする機会をいただきました。

 研究会のテーマは「キャリアスリップ」。この概念自体、僕は、はじめて知りましたが、「想定外の出来事によって、自分のキャリアが、突然、逸脱してしまうようなこと」というのだそうです。

 キャリアを「右肩あたりの一本道」のように「線形性」のあるものとして捉えるのではなく、様々な「想定外の出来事」によって曲線を描くような「非線形的」なものとしてとらえることだと、個人的には理解しました。

 当日の僕のお話は、そうした出来事が起こった際、それをどのように支援していけばいいのかを、経営学習論の観点からお話しさせて頂きました。

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(Tさん撮影の写真:感謝!)

 そもそも、わたしたちが現在、組織であゆむ道は「線形性」は仮定できないものになっており - いわば「非線形」化しており - だからこそ、人材マネジメントのあらゆる側面において、学習・変化に対する支援が必要になっている(僕はキャリア論については門外漢です)。

 その際には、人材開発や人材マネジメントの世界にはびこる「独我論的自己概念」を超えて、「対話的自己」概念をまずは仮定しなくてはならない。
 そのうえで、若手支援、リーダー育成などの各局面において、その発達をうながす社会的関係を構築しなければならない、というような趣旨のお話をさせていただいたつもりです。当日は、ここまで煮詰めてお話をしてはいませんが(笑)、くどくどと、回り道をした講演を通じて、僕が言いたかったことは、要するにそういうことです(笑)。

 要領をえない話であったかもしれませんが、登壇の機会をくださったN先生、Y先生、当日の仕切りをしてくださったTさん、そして、お話をお聞きいただいた皆様に心より感謝いたします。

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 研究会では、僕の発表後、ディスカッションの時間をとりました。皆様からはキャリアの問題のみならず、「様々な変化におそわれている企業内の人材マネジメント」について活発なご意見・ご質問をいただきましたが、個人的に興味をもったのは「中途採用 - 新卒採用のお話」でした。

 曰く、

「うちの会社は中途採用がメインである。中途採用をこれまでメインに行ってきた会社が、新卒採用を行っているが、かなり大変である。このことは、どう考えることができるだろうか?」

 というご意見でした。
 興味深い指摘であり、また、現場で容易に様々な問題がおこるであろうことが予想される事態だな、と思いました。

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 会社は、敢えてざっくり、敢えて潔くわけてみるとと、2つの軸で4つに分類することができるのかもしれません。ひとつの軸は「中途慣れ」、ひとつの軸は「新卒慣れ」。前者は「中途採用者を受け入れることに組織が慣れている状況」、後者は「新卒一括採用者を受け入れることになれている状況」をさします。

 そうしますと、会社は「中途慣れしているし、新卒慣れしている会社」「中途慣れしているものの、新卒慣れしていない会社」「中途慣れはしていないものの、新卒慣れしている会社」「中途慣れしておらず、新卒慣れしていない会社」の4つにわけることができます。皆さんの組織は、どちらに属するでしょうか。

 最後の「中途慣れしておらず、新卒慣れしていない会社」は、社長がワンマンで経営している創業当初の状態か、ちょっと口にだすのははばかられる、かなりブ●ックな人材マネジメントが常態化している状況が想像されますので、この場では取り扱いません。また「中途慣れしているし、新卒慣れしている会社」というのは、問題があまり生じなそうなので、やはり取り扱わないません。

 そういたしますと、問題は、下記の2つになります。

「中途慣れはしていないものの、新卒慣れしている会社」
「中途慣れしているものの、新卒慣れしていない会社」

 前者の企業は、新卒一括採用と強固な内部労働市場によって、人材マネジメントを行っている会社。後者は外部労働市場に門戸をひらき、経験ある実務担当者の出入りが常に存在している会社を想像すればいいのかもしれません。皆さんの会社は、仮に2つに分けるのだとすれば、どちらでしょうか。

 ここで採用をあえて「学習」の問題から考えますと、こうも考えられます。
 「新卒一括採用によって新規参入者を受け入れること」も「中途採用を受け入れること」も、長く行っていれば、組織は、それに対処する方法を「学習」するということです。

 新卒をどのように扱い、どのような支援を行えばいいのか。彼らには何を期待して、何を期待できないのか。
 はたまた、中途採用者をどのように職場は受け入れ、どのように新たな役割を担ってもらうのか。中途採用者には、どの程度、最初は何を期待し、どの程度マネジャーがかかわればいいのか。

 こうした様々なノウハウが、長い年月をかけて、組織の中の智慧として学習されていくのです。「学習された対処法」は、長い時間をかけて、組織のルーティンや各種のツールに落とし込まれ、日々、実践されていきます。

 しかし、人材のマネジメントに変化があらわれ、たとえば「新卒慣れしている会社が、中途採用をがんがん行わなければならない事態」や「新卒慣れしていない会社が、新卒採用を受け入れる事態」が生まれ出しますと、そういうノウハウを多くの場合、ゼロから創り出さなくてはなりません。

 様々な試行錯誤の果てに、組織メンバーがつくりあげたノウハウが、共有され、制度化されるまでには、時間がかかります。しかし、これから逃げていては、いつまでたっても、組織の中に「採用のルーティン」ができません。

 特に後者のような組織の場合、事態はより深刻になることが予想されます。通常、新卒一括採用で採用した若年層は、自分のエントリーする組織が、どの程度「新卒慣れしている会社」か「新卒慣れしていない会社」かは考えないものです。そして、彼らは業務にも、組織で働くことにも、慣れてはいません。
 そうであるならば、新規参入者がエントリーしてくる前に、彼 / 彼女には、どのような人材マネジメントを行っていくのか。職場には何を期待し、組織社会化をどのように行えばいいのか、方針をたてておく必要がありそうです。

 このことは「中途慣れしていない会社」が、はじめて「中途採用」をはじめるときでも、程度の差こそはあれ、同じことです。それは採用形態の変化にとどまらず、「人材マネジメントのあり方を、組織が学習する機会」のはじまりでもあるのです。

(これまで日本人を主に採用してきた組織が、留学生や外国人を採用するときも、また同じ事がいえそうですね)

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 今後、日本の企業は、採用・人材育成のみならず、様々な人材マネジメントの局面が、外部環境の変化におうじて、様々に、変化していくかもしれません。その際には「採用の変化」だけを考えるのではなく、「採用を行ったあとの対処」について、組織として、いかに「学習」を行うかが問題になりそうです。

 特に、近年、採用活動のあり方は、根源的に変化しているような気もします。本日のような話題が、「まさに現在進行中」である組織も少なくありません。
 いずれにしても、「採用」は「採用」だけが重要なのではありません。
 むしろ、「採用を行ったあとの受け入れ」について、組織メンバーといかにノウハウを共有し、制度化を行うかが問われるような気がします。そして、そこまでのあり方を考えることが、「採用」である、と僕は思います。

 最後の話題は、やや「キャリアスリップ」とはズレましたが(話題)、そんな風に、人に関する、最新のリアリティある話題が交錯する興味深い研究会でした。

 そして人生は続く・・・。