「従業員による採用」がうまくいくための条件!? : 「自分の友人」を紹介したくなる「職場」をいかにつくるか?

「採用って、究極、最後は、よい職場をつくれるか、つくれないかなんですよ」

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 今年から、中原研究室はテンプホールディングス株式会社さんと「アルバイト・パートの人材マネジメント」に関する共同研究を開始しています。

 このプロジェクトは、「未曾有の人手不足時代」に突入した現在、いかにアルバイト・パートの人材を新たに確保して、育成していくかを、実証的に研究するものです。

 共同研究は多段階に別れています。まず調査フェイズでは、1)求職者を対象にした調査、2)各企業の離職者に対する調査、3)各店舗の職場・マネジメントの実態を明らかにする調査をガシガシと実行していきます。
 そして、もし結果が良好であれば、調査フェイズを終えた来年は、様々な研修やツールなどを開発し、現場で利用・評価することを行わせていただく予定です。成果は、ダイヤモンド社さんより書籍として出版される予定です。ダイヤモンド社の小川さん、藤田さんとの仕事になる予定です。とても楽しみです。

 このプロジェクトには、その趣旨に賛同いただき、それぞれの業界の大手6社、のべ従業員規模30万人の企業のみなさまが参加して下さり、爆速で共同研究を進めております。
 日程はなかなかタイトで、本郷で開催される毎週のミーティングでは、実務を担当なさる小林さんと中原、田中さんで、なかなか熱い議論をして、調査をかたちづきっています。

 アルバイト・パート人材の研究は、これまで取り組んだことがなかったので、僕にとっては、学び多き時間です。
 まずは、業界大手6社の皆様、また、このプロジェクトにお誘いいただいたテンプグループのみなさまに心より感謝をいたします。

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 昨夜は、6社の主に採用担当者、人事責任者の方々が集まり、キックオフのミーティングがひらかれました。
 会では、プロジェクト代表の渋谷さん、中原からのショートプレゼンのあと、各社の取り組み事例を相互に発表していただきました。お忙しいところお集まりいただいた皆様に心より感謝をいたします。

 中には、ガチ競合の企業の担当者がテーブルの前にいるなかで、発表が行われます。しかし、あまりみなそのことは気になさらず、和やかに発表はつづきました。

 特に競争の激しい「採用・定着」の領域について、業界をあげて取り組んでいこう。よき採用活動をなすとともに、人が安心して働ける職場をつくろうという機運が高まっていることは、まことにうれしいことです。発表のあとには、質疑が耐えることなくつづき、刺激的な会は終了、懇親会になだれ込みました。

 あのガチ競合のA社とB社の人々が、テーブルをともにし、お酒をのみながら、相互に情報交換をおこない、今後の業界全体について議論をしている様子は、印象的でした。

 「この絵が、見たかった」

 僕は、このプロジェクトに関わらせて頂いてよかったなと思いました。
 今後がとても楽しみです。

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 個人的に、昨日の会でもっとも印象的だったのは、
 
「採用って、究極、最後は、よい職場をつくれるか、つくれないかなんですよ」

 という懇親会でのある方のご発言です。
 事例発表会の中でも、いくつかの企業は「外からなかなか人がとれない」ので、「従業員からの紹介による人材確保」をさらに拡充していく施策をとっておられるところもありました。

 企業によっては、「従業員からの紹介による人材確保」だけで、必要人員数・数万人のうち、60%を確保している企業もあるようです。この場合の採用コストは、媒体を使わないので「ほぼほぼゼロ」という試算も理論上はなりたちます。

 しかし、見かけ上は「採用コストゼロ」ですが、ここまで、「従業員からの紹介による人材確保」を機能させるためには、「店長の職場マネジメント力強化」「アルバイト・パート人材の育成」に相当の投資を行わなければなりません。組織文化を徹底的にケアしていかなければ、このような状況はつくれないので、採用コストが低いというのは、実は見かけの数字に成増。

 なぜなら、「従業員のコネクションによる採用」が奏功するためには、そもそも「紹介したくなる職場」「紹介したくなる仕事仲間」が存在していなければならないからです。

 「自分の大切な人」に紹介したい、と思える職場や仕事環境が、そもそも、各店舗に成立していなければ、誰も好きこのんで従業員は紹介などはしません。
 友人に紹介したら「てめー、話違うじゃん」と思われる職場や仕事環境しか容易できていない場合、「従業員による採用」はうまくいかないのです。

 ということは、いかにそうした職場をつくるかが問題になります。店長による「職場のマネジメント力」がさらに求められます。

 かくして、一見僕の専門外だった「採用」の問題は、「店長のマネジメント」「職場づくり」という僕の得意な領域に接続します。

 業界・業種によって異なるのだと思いますが、かくして、昨夜の6社の場合には、

「採用って、究極、最後は、よい職場をつくれるか、つくれないかなんですよ」


 ということになるのです。
 採用施策を徹底的にやりこんで、ツールもタイミングも厳選に厳選を重ねた結果、残るのは「半径5メートルの範囲」です。すなわち、人が働きやすい職場環境をいかにマネジメントによってつくりだすか、ということになります。

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 ひるがえって、帰りの道すがら、僕はひとつのことを考えていました。それは「採用」「育成・社会化」という「研究領域の分かれ方=研究区分」についてです。

 人材マネジメントの領域においては、実は「採用研究」と「育成・社会化」の研究群というのは、それぞれわかれて実施されています。前者は「recruitment研究」、後者は「socialization研究」ということになります。一般的には、研究者は、自分の領域を決めて、そこでのお作法に従いながら、それぞれの「城」を守ります。

 しかし、

「採用って、究極、最後は、よい職場をつくれるか、つくれないかなんですよ」

 ということが「現場のリアリティ」であり、それを何とかすることが「現場のニーズである以上、「ここまでが採用だよね、こっからは育成だよね」的なセクショナリズムは通用しません。

 現場にはいつも「課題」があります。
 現場には「研究領域の区分」があるわけではないのです。

 昨日のキックオフミーティングをふまえて、僕は、新たに自分の思いを強くしました。
 僕は、敢えて「城を持たない研究者」になりたいなと思いました。まぁ、もう、とっくのまに、なってるような気がしますが(笑)、敢えて「城」を持たない「浪人」でありたいなと思います。

 万が一、自分のあずかり知らないところで、「自分の城」ができかけたならば、それをたたき壊して、ブラブラと外にでたいのです。だって、城を持てば、守りたくなるだろうから。そして間違った角度で「課題」に取り組んでしまう可能性がゼロではなくなるから。

 またひとつのプロジェクトがはじまります。
 忙しい日々が続きます。

 そして人生はつづく

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「アルバイト・パート人材不足の社会課題」に共同研究で挑戦:のべ従業員数30万人以上・異業種6社が参画
http://www.tempstaff.co.jp/corporate/release/2015/20151022_6381.html