瞑想さえすれば「次世代リーダー」が生まれるのか!?

「中原さん、最近は、瞑想で、成果のだせるリーダーが育てることができる、と言われているらしいんです。スティーブン・ジョブズも、ガンジーも、瞑想をこよなく愛していたらしいんですよ。あのグーグルが、人材開発に瞑想をとりいれた、とか」

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 ちょっと前のことになりますが、名刺交換をした方と立ち話をしていたときに伺った一言です。

 そのときは「へー、そうなんですか」と受け流しましたが、せんだって、ほぼ同じ文言を同じ日に2度繰り返して耳にしたので(なぜかいつもジョブズとガンジーとグーグル、笑)、「大丈夫かな」と思い、今日の話題にすることにしました。

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 これについての僕の意見は下記のとおりです。

 まず第一に確認しておきたいことは、

 成果を残したリーダーや、そうでないリーダーでも、個人が個人の時間を使って瞑想をすることは、まったく問題がありません。

 といいましょうか、それにとやかく文句をいう筋合いは、僕にはありません。

 とかく現代社会は多忙を極めます。そのような雑然とした社会で前のめりに生きる私たちが、神経を敢えて「いまここ」に集中させ、「あるがまま」を引き受け、静かな時間を過ごすことは、やはり心に安定をもたらすでしょうし、ストレスの低減にもなるでしょう。ストレス軽減(ストレスリダクション)としての瞑想については、すでに学術研究がなされ、効果が実証されています。かくいう僕も、瞑想をしたことが何度かあります。

 そのことをふまえたうえで、先の「瞑想をすればリーダーが育つ」には、3つの角度から「留意点」があるなと思っています。

 第一に、ジョブズやガンジーなどの「成果を残せたリーダーが瞑想の習慣をもっていたこと」と、「成果のだせるリーダーをこれから瞑想で育てること」は、一見、つながっているように見えますが、実は「別の次元」のことです。

 ジョブズやガンジーが瞑想していたのは、「個人の趣味」であって、「人を育てる」ためではありません。だから、瞑想をしていたジョブズやガンジーが「いること」をもって、瞑想をすればリーダーが育つと論理を辿っていくのは、やや安易に感じます。

 第二に、「瞑想をつかって成果のだせるリーダーを育てる」という文言ですが、ここに含まれうる「誇張」には、注意をしていく必要があります。

 この文言からは、「瞑想さえすれば、成果のでるリーダーがバシバシと生まれてくる」ような感じを受けますが、そこには若干の「誇張」が含まれうると思っています。

 といいますのは、もし仮に「瞑想」だけしていて「成果」がでるのならば、世の中のリーダーは、何もアクションをおこさず、みな、目をつぶって、自宅で瞑想をしていればいればいいのです。
 
 しかし、現実のリアルワールドは、そうではありません。

 リーダーにとって、とにもかくにも必要なのは、アクションと時々のリフレクションです。

 徹底的なアクション! アクション! アクション!
 そして、時々、リフレクションくらいでしょう。

 瞑想(メディテーション)は、アクションやリフレクションの合間に入るようなイメージで用いられるのかな、と思います。少なくとも「瞑想がリーダーの用件」というほどまでに、リーダー開発において、それが重視されるべきとは僕には思えません。

 すなわち何が申し上げたいのかというと、アクションとリフレクションと、メディテーションのバランスです。

 こんな学術研究があるわけではないですが、おそらく、リーダーにとって必要なのは、

 さしずめ

 アクションが9
 リフレクションとメディテーションで1

 くらいがよいところではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 最後に「瞑想で人を育てる」と申しますが、そもそも、組織として社員に「瞑想」を導入する前に、「社員に、組織が、瞑想を勧めざるををえない状態が生まれていること」については、どのように考えているのでしょうか。そのことを、一寸だけ考えたいものです。

 ワンセンテンスで申し上げますが、組織が、瞑想という非日常的な行為を、社員に求めなければならないのは、その組織で働く彼らの日常が、多忙でストレスフルで、それで人々が苦しんでいるから、とも考えられます。

 瞑想もよいのですが、多忙やストレスをうみだす「組織的な課題」を抜本的に改善していく努力とセットで、これが用いられるとなおよいと思います。瞑想を導入する前に、一寸だけ、「なぜ、組織として、それを導入せざるをえないのか?」について考えてみることが重要だと思いました。

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 今日は「瞑想」について書きました。
 僕が瞑想にであったのは、かなり前で、マサチューセッツ大学のストレスリダクション研究が効果をあげていることが、学術雑誌に載っていた頃です。これは専門外になりますので、多くを語りませんが、メンタルな問題に対する処方箋としても、2000年代以降、注目されているようです。

 ちなみに、そのときは、まさか、このように「一日に2度、瞑想のことをきく日」がくるとは思っていたなかったのですが、昨今のストレスチェック義務化のコンテキストも、このブームに影響を与えているのではないかと思います。

 誤解を避けるために申し上げますが、瞑想は、多忙極める現代人にとって、「あるがまま」を引き受け、心を静める効果をもちえると思っています。僕個人も、ときおり、それをするひとりです。リーダーがもっていたい習慣のひとつに、瞑想があってもよいのではないかと思います。

 しかし、それが安易にリーダー開発全般に接続されたり、誇張して導入されたりしますと、「瞑想だけすればリーダーが生まれる」という風になって、日本全国で瞑想しているリーダー候補生がいる、という図式になるので注意が必要かと思います。

 そして人生はつづく