「仕事人としての将来」を考えると、本当に会社を辞めてしまうのか?

 1) 仕事人として、将来、何を目標にするのか?
  そのために逆算して
 2) 今いま、何をやっているのか?

 問いにしてみれば、非常にシンプルなことなのですが、現在、トーマツイノベーションさん × 中原研有志で進めさせて頂いている「中小企業の人材開発研究」において、非常に重要になってくる問いのひとつです。
 若い頃から、これらについてじっくりと考えてさせてことが、組織にとって有力な人材を確保するキーなのではないかと思っています。

  ▼

 まず、1)の「仕事人として、将来、何を目標にするのか?」のポイントは、「組織人」ではなく、「仕事人」であるということです。その組織における職位やポジションなどは、いったん脇において、

仕事人として、どのようなスキル・専門性・能力を伸ばしていくのか?

 と考えるのがポイントです。

 2)の設問は、1)から逆算した今の生き方です。
 この問いでチェックしたいのは、どのようなスキル・専門性・能力を伸ばすのか、どの方向に進むのかという、いわばビジョンめいた問いものではなく、足下のこと。

 で、今、そのために、何やってんの?
 やらなきゃならないことを先延ばししてんじゃないの?

 ということが問いの眼目ですね。

 いったん、目線をあげて(将来へ)
 目線をさげる(足下へ)

 この「目線のあげさげ」ができるかどうかが、ポイントなのかなと思います。大切なことは、この2つが両方必要であるということです。
 目線をあげてばっかりいると、道ばたのウンコを踏んでしまいそうですし、目線をさげてばかりいつづけると、電柱におでこを打ち付けてしまいそうです。両方大切、目線の上げ下げ。

   ▼

 ところで、これら「青臭いとも感じられる問い=目線のあげさげの問い」は、従来の中小企業の人材開発においては、あまり語られてこなかったことのように思います。その理由は、いくつもあるとは思うのですが、代表的な理由は、下記の2つでしょう。

 ただでさえ、クソ忙しいのに、将来のことなんか、考えてられっかよ。
 将来のこと考えさせたら、辞めちゃうかもしれないじゃん。

 組織のことをいったん脇において、仕事のことなんか考えさせたら、
 下手すりゃ、寝た子をおこして、辞めちゃうかもしれないじゃん。

 2つの考えに共通しているのは、

 「今、目の前のことだけに目線をさげて働かせること」
 「行動させることに注力し、意味を考えさせない」

 という経営側の態度です。

 企業によっては、経営も厳しいところもございますし、メンバーも限られていますので、気持ちはわからないでもないです。

 将来とか意味とかを考えさせると、寝た子を起こしちゃって、辞めちゃうかもしれない

 と考える。

 でも、僕の感覚からすると、

 将来に見通しがきかなくなったり、意味がわからなくなった「方」が、辞めちゃうんじゃないの

 と思ってしまうのですが、いかがでしょうか。

 また、今に「耽溺」し、目線を下げて暮らすことだけで、将来に有力な人材が得られるのかな、ということに疑問があります。そこには、やや矛盾があるような気もするのです。

 ワンセンテンスで申し上げますが、

 人間のモティベーションは、「視界のきかないこと」に長く耐えられるほど、強いものではありません

 だって、あなた自身がそうでしょう?

  ▼

 中小企業の人材開発研究は、いったん11月に成果発表がなされますが、分析がまだまだ残されています。ですので、今日の話も、ほぼボヤキ。仮説めいた話になってしまい、まことに恐縮です。今後、腰をすえて取り組んでいきたいと考えています。

 世の中は、わからないことだらけだね
 だから面白いね

 そして人生はつづく

 ーーー

■関連記事
上司の仕事は「30度」をつくること!? : 「組織の矢印」と「部下の矢印」をすり合わせる!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/10/30_5.html

「たかが意味、されど意味の時代」・・・会社・組織で起こっている問題の「ねっこ」は何か!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/02/post_1769.html

部下の仕事を「組織の戦略」に紐付ける方法!? : 定例職場ミーティングのアジェンダを工夫する!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2014/11/post_2303.html