成果を残せる新任マネジャーとは「受動的」である!?

 ここ最近の、駆け出しのマネジャーたちへの実証研究で、実務担当者からマネジャーへのトランジションプロセス(移行過程)が、少しだけまたわかってきました。

 初期の頃のマネジャーのパフォーマンスを規定する大きな要因として、僕の中では「確信」に近くなっていることがあります。

 駆け出したばかりの新任マネジャーたちの成果を規定する要因は、個人的要因でもなければ、部下の特性でもありません。それは、たったひとつの「行動特性」ではないかということです。それも、「前のめり・オラオラ的なアクティブな行動特性」というと、どちらかというと「受動的な行動特性」が規定することの方が多いものです。

 それは、彼らが「動き出す」まえに、

 「自分の職場をじっくり観察すること、見たり、聞いたりすること」

 ひいては、勢いあまって何かをはじめるまえに、

 「自分の職場をしっかりと理解すること」

 です。
 動く前に「見る」「聞く」、そして「理解すること」です。
 ここ最近の実証研究、そして週末に戻ってきたデータをみても、そのことがいえますので、なかば、おおむね検証できたと考えてもよいことなのでしょう。
 (じっくり見たり、聞いたりすることが受動的な行為かっていうと、ま、ビミョーだよね、と思いますが、学術論文ではないので、このブログ記事中では、そちらにカテゴリー化しておきます。じっくり見たり、聞くという一見受動的な行為が、積極的呈示によって可能になるという発見は、それこそ20世紀の社会科学の興味深い発見のひとつではないかなと思います)

 もちろん、マネジメントをはじめてしばらくたったあとは、「どのような競争戦略をとるか?」だの「どのような市場を攻めるか」だの、そういう高度な話が大切になってくるのでしょうけれど、とにもかくにも、自分の足下を理解することが大切であるということです。

 このことは、考えてみれば、至極、極めて、猛烈に「あたりまえのこと」なのですが、しかし、これができるかどうかは、個人間に非常に差が生じます。
 要するに、「現場を把握しようとする人はする」、「現場を把握しない人は全くしない」ということです。そして、後者の数も結構多いものです

 かくして、

 マネジャーになったばかりの人は、自分の職場を観察し、そこにうごめく様々な事情・人間関係・顧客の様子を考慮・理解せずに、勢いあまって「動き出して」しまうことが多い。

 という事態が生まれます。
 ワンワードでいえば「前のめり」。
 言葉を換えれば「焦りすぎ」なのかもしれませんね。昇進して、嬉しいのかもしれないね。

 そして、たいてい、その次にマネジャーが陥るのが、以前このブログでも論じたことのある「水平展開の罠」です。
「水平展開の罠」とは、駆け出しのマネジャーがついついとってしまいがちな職場を率いる戦略です。「水平展開の罠」とは「自分が実務担当者時代にとって成功した勝ちパターンを、そのまま部下・職場にもやらせようとして、成果が出ないこと」をいいます。
 詳細は下記のブログ記事をご覧下さい。

成果が出ない新任マネジャーが陥りやすい「思考の罠」:「オレが、勝ちパターンを教えてやるから、言うとおりにやればいいんだよ」はうまくいくか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/02/post_2352.html

 この戦略が奏功する条件は、せんだっての記事でも論じたように、

1)「成功パターンを踏襲させたい部下の能力・モティベーションが、マネジャー自分と同じであること」
2)「自分が実務担当者であった頃の外部環境(市場環境)と、今回、成功パターンを適用する外部環境(市場環境)は、同じであること」

 の2つなのですが、前のめりのマネジャーは、それらを観察して、確認していません。よって、ごくごく初期の段階で、つまづきを経験することになりがちなので、注意が必要です。

 なお、一連の結論は「駆け出し期」についていえることです。そっから先の要因は、全く異なることが予想されますので、早とちりなさらぬよう。ずっと「受動的」に「見続けて」いても、「聞き続けて」いても、環境は望ましい方向にかわりません。十分観察したあとは、やはり動き出すことです。
 マネジャーが成果を残すためには「受動的」であるべきときには「受動」を演じ、能動的に環境に働きかけなければならぬ時には、前のめりに積極的的行動を選択しなければならないようです。このスイッチングがうまくいくか、うまくいかぬか、というところが、次の課題になりそうです。

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 今日は駆け出しの新任マネジャーが陥りやすいプロセスについて、最近の研究結果を、ちょっとだけ論じてみました。実務家の方からみれば、僕の研究は「牛歩のような歩み」なので、まことに恐縮なのです。
 が、移行のプロセスが、細々とした研究で、だんだんとわかりかけてきています。これら一連の研究は、またどこかでおりをみてまとめたいと思います。

 素敵な一週間を!
 そして人生は続く