異業種コラボ・アクションラーニングを成功させる3つのコツとは?:「捨てる勇気」と「待つこと」の意味!?

 アクションラーニングとは、ここ10年ほど企業・組織において実践されるようになってきた「プロジェクト型・探究型の学習手法」です。

 要素分解しながら申し上げますと、アクションラーニングとは、

 (1)実践と行動に基づく学習を試行すること
 (2)内省を重視した実践であること
 (3)探究的洞察をめざすこと

 重視した学習形態を指すアンブレラワードであると、ここではお考え下さい。
 
 それは、もともとRevansによって創始された学習で、ルーツはものすごく古いものです(日本では、ここ15年ー10年でしょうか・・・)。アクションラーニングの根源には、「実務に役立つ学習のあり方」に対する強いニーズと、「実務に役立たない学習」への強い批判が存在します。
 ちなみに、誤解を避けるために申し上げますと、アクションラーニングは、もともと「決まり切った特定の手続き」が必要なラーニングでもなければ、「ある特定のやり方」を実施しなければアクションラーニングとはいえない、といった類のものではありません。要するにアクションラーニングの「やり方」は「いろいろ」である、ということです。
 それは、もっともっと一般的なものであり、かつ、上記の定義を含みこむようなムーヴメント(アンブレラワード)に近いようなものです。

 

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 僕は、これまで、たくさんの、いわゆる「アクションラーニング」に、企画者・ファシリテータとして関わってきました。
 今現在かかわらせていただいているのは、アサヒビールさん、インテリジェンスさん、電通北海道さん、日本郵便さんら、異業種5社による次世代リーダー層を対象者としたアクションラーニングプロジェクトです

異業種社員チームによる、北海道・美瑛町の「地域課題解決プロジェクト」
http://pr.yahoo.co.jp/release/2014/05/08a/

異業種5社のリーダーが集まる研修をいかにデザインするのか!?
http://www.nakahara-lab.net/2014/05/post_2222.html

 こちらに関しては、明日(9月2日)、NHKクローズアップ現代(午後7時30分)で、その一部が映像として用いられるそうなので、ぜひご覧頂ければと思います。どのようなかたちで映像になっているかは僕も知りませんので(たぶん・・・)、僕自身も愉しみにしています。

成長への人材戦略② どう育てる?"攻め"の管理職
http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/#3544

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 ところでアクションラーニングですが、もうひとつ、また新しいアクションラーニングプロジェクトが立ち上がっています。それがこちらです。

新たな学びの場つくりのユニット『アトリエMALLプロジェクト』を密着取材
https://jinjibu.jp/article/detl/eventreport/1062/

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 こちらのプロジェクトがめざすのは、

 U40(40歳以下の若手!?)の人事・人材開発担当者が、異業種コラボでワークショップをつくる!

 というものです(橋本さん、なんであさって向いてんの?・・・笑)。

 経営学習研究所、長岡先生、田中さんが中心になって、板谷和代さん、田中潤さん、平野智紀さん、牧村真帆さん(クラス担任!)など、他の理事を巻き込んで、実施されています。初回のキックオフは、残念ながら、僕は参加できませんでした。次回は参加させて頂くことを愉しみにしています。

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 アクションラーニングのコツは、いくつもありますが、もっとも大切なことを3つ選ぶとするならば、これまでの経験からこの3つをあげます。

1.「議論する勇気」と「捨てる潔さ」をもつ
 早い段階で、のれないなと思う案は、じっくり議論をしたうえで、早い段階で「捨てる勇気」をもつ。のれないなと思う案なのに、誰も何も思っていることが言えず、そのままGOしてしまって、〆切直前になってから「やっぱりやめよう」「でも時間ないじゃん」「わたし、最初からダメだと思ってたんだよね」と責任のなすりつけ合いになってしまうのが、最も典型的で、よく起こり、失敗するパターンです。

2.自分たちのグループワークそのものを「リフレクション」する時間を
 自分たちがどのような状態にあり、そこにはどのような力が蠢いているのかをしっかりとリフレクションしたうえで、自分たちで、それを変えていく勇気を持つ。最低1日(ワンセッション1回)は、そのような時間をもつようにします。

3.「生きてるかコール」を行い、相互の進捗をチェックし合う
 特に異業種で行う場合には、LINEやFacebookなど、必ず毎日目をとおすメディアを用いて、「生きてるかコール」をしつう、相互の進捗・役割分担の様子をチェックする。誰かがやってくれるだろうは禁物。

 特に大切なのは2です。これを可能にするため、美瑛のプロジェクトでは、「お天気リフレクション」というのをやりました。要するに、自分たちのグループワークそのものについてリフレクションする時間を、(最初のうちは特に)かなり意識的にとっていったのです。

otenki_expression.png

 お天気表現は、とかく、なかなか言いたいことがいえないスタートアップ時期を、マイルドに表現するためのものです。

「わたし、言いたいことがいえなくて、でも、今のグループの議論は変だと思う」

 というよりも、

「わたしの今日の気持ちは曇りです・・・」

 といいだした方がいいでしょう(笑)? まぁ、そっから先はたいしたかわらないといいましょうか、結局議論にはなるんですけれども(笑)
 でも、「言いたいことを言わないで、あとになって後悔する」のなら、「曇り」だろうと「大雨」だろうと「ゲリラ豪雨」だろうと、後悔しない方を選んだ方がいいのです。いや、本当に。そうじゃないと、二度と思い出したくないプロジェクトになってしまうことが、ままあります。

 アクションラーニングというものは、それが本当に実践された場合、「お手てつないで、みんな仲良く、チイチイパッパ、チイパッパ」?じゃすまないのです(笑)。
 その実践の現場には、本質的な緊張や葛藤が生まれることが多いものです。しかし、それがあるからこそ、いい案が生まれる。いい案がたとえ生まれなかったとしても、考えさせられる。たとえ、採択されるような案がうまれなかったとしても、その「プロセス」において、議論をしたり、考えることがでくるのです。

 そして、企画者側やファシリテータ側として、もしアクションラーニングをおこそう思うのなら、どんな緊張や葛藤が生まれても、そこから「逃げない覚悟」をもつことが必要です。
 どんなにあらかじめ綿密に決まったプランがあったとしても、いわば「生き物」のように生まれうる緊張や葛藤に応じて、プランを「捨てる」勇気、「再構築」する覚悟を、仕掛ける側も持たなくてはなりません。

 アクションラーニングは、仕掛ける側が「腹をくくること」が本当に大切です。
 仕掛ける側は、失敗の烙印が押されるのを避けたくて(だってそうでしょ・・・うまくいかなければ、ファシリテーションされる側の責任にされますし、もっというと、来年度の事業継続自体が怪しくなるんだから)、ついつい「うまくいかないグループに思い切り介入して、最後をうまく綺麗にまとめようとする」ものです。しかし、本当は、それでは本来の意義からずれていくのかもしれません。

 言い方は大変に難しいのですけれども、アクションラーニングにおいては、たとえいくつかのグループが「空中分解」しそうになりかけても、それを「失敗」と見なしてはいけません。むしろ、そういう事態は生まれうるのです。ギリギリのところまで「見守り」、最後の最後まで耐えて、つきあうことがもとめられます。

 むしろ、早期にそれらを「失敗」とみなしてしまうと、「失敗しないように、失敗しないように、過剰なお世話を焼いていくことになります。

 一寸憶えていた方がよいことは、アクションラーニングでは、グループが動き出はじめるのにも、よい案がでかけることにも、とにかく「時間」がかかるというあたりまえの事実です。時間の観点から申し上げますと、それはまことにコストパフォーマンスの低い学習手法なのです。
 そういう意味では、アクションラーニングのファシリテーションとは「待つこと」でもあるのです。待って、待って、待ち焦がれ、待ちあぐねて、それでも「信じて待つこと」でもあるのです。もちろん、必要な介入はただちに行うので、じっと「見ながら待つ」といったほうが正しいかもしれません。

 ちなみに、先ほどのお天気表現は、サイバーエージェント人事部の曽山さんから学ばせて頂きました。同社の人事施策(360度フィードバック)をマネさせて、つくらさせていただきました。ありがとうございます。

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 ともかく、どちらのプロジェクトもオンゴーイングです。今週は、美瑛・異業種コラボのチームのひとつから、相談を受けています。僕も精一杯考え、智慧を絞ります。

 アクションにつながる、素敵なラーニングを!
 そして人生は続く

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追伸.
 ちなみに、こちらの異業種5社アクションラーニングリーダー研修は、日本の人事部さんの「HR大賞」の候補にもなっています。

HR大賞【企業人事部門】
http://hr-award.jp/nominate1.html

(16) 5社が、20代後半から40代前半の社員を選抜。異業種チームを複数つくり、各チームで、北海道上川郡美瑛町が抱える課題の発見から実施可能なものをつくる。

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 また、ちなみに、宣伝をしておきますと、なんと書籍部門では僕の著書が2つノミネートいただいております。応援してくださった皆様、ありがとうございます。心より感謝です。

HR大賞【書籍部門】
http://hr-award.jp/nominate2.html

(3) 駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を科学する
(著者:中原 淳/ 出版社:中央公論新社)

「駆け出しマネジャー」は実務担当者からいかにして生まれ変わり、マネジャーとして働き始め、成果をあげられるようになっていくのか――。企業内人材教育研究の第一人者である東京大学准教授 中原淳氏が、さまざまな統計データやインタビュー調査にもとづきながら、マネジャーの成長について解説する。

(6) 研修開発入門 会社で「教える」、競争優位を「つくる」
(著者:中原淳/ 出版社:ダイヤモンド社)

企業が社内で研修を企画・立案し、自社に最もフィットした研修を実施・評価していくための入門書。東京大学准教授 中原淳氏編著『企業内人材育成入門』の実践編として、研修講師を任命された現場のマネジャーや、研修の開発を行う人事部の人たちを読者として想定している。

 こうしたアワードは、研究実践の励みになりますね。66000人?の人事の方々が面白い、役立つと思って頂ける知見を、今後も生み出していきたいと考えています。どうぞよろしく御願いいたします。