「イノベーション人材!?」をめぐる「モノローグ委員会」!? : 「キンキンに尖った一匹狼」か「カリスマ漂うオラオラピーポー」か!?

 かなり前のことになりますが、

「日本には、イノベーション人材が足りてないんだ。だから、大学ではそういう人材を育てなくてはならない。企業も、そういう人材こそ採用するべきだ」

 みたいな話題について、口角泡を飛ばしあい、ケンケンガクガクと意見をいう委員会に、やんごとない事情があり参加せざるを得なかったときがあります。もうかなり前のことです。会の冒頭では、「ぜひ皆さんにケンケンガクガク議論してください」と委員会の代表者の方から、ご指示がありました。

 僕は、この手の「口角泡談義の支配する委員会」に「めっぽう弱い」ので、そこは「見識のある方」にお任せして、早々に、お暇することばかり、当初、考えておりました。
 しかし、どこにでも「学びの種」はあるものでございます。議論の進展を伺っているうちに、「ある一点」について心の底から興味がわいてきて、別の観点から面白くなってしまい、結果としては興味深く話をきかせていただき、素晴らしい時間を過ごすことができました。

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 僕がもっとも興味をもったのは何かと申しますと、下記のようなリサーチクエスチョンです。

「イノベーション人材が何たるかについて、そもそものイメージを共有せずして、どうして数時間の議論を継続していくことが可能なのか?」

 会話を伺っておりますと、ある方は、「イノベーション人材」を「人間的にも、キンキンに尖った一匹狼みたいな人」を思い浮かべて話を進めます。また、ある方は「イノベーション人材」を、「スティーブ・ジョブズのようなカリスマオーラーがバシバシでていて、人を魅了する人材」に求めます。また、ある人は、いわゆる「プロジェクトX的な、名も無いチームを率いる人」をイノベーション人材と呼んでいるようです。

 あくまで会話の端々から類推したことですが、僕には、それぞれの方々が、そのような背後仮説のもとで話を継続なさっているように聞き取れました。
 要するにひと言で申しますと、「イノベーション人材」に全く「にぎり」がないまま、話題が「継続」できているのです。話はつながっているようで、実際は前後の話は全くつながっていないのだけれども、なぜか「続く」。

 逆にいうと、この会議は、会の冒頭で代表者の方から「ぜひ皆さんにケンケンガクガクと議論してください」という指示はなされているものの、実際に実際に展開されているのは「議論」ではないのです。誤解を恐れずに申し上げるのであれば「みんなで集まって、議論する」のではなく、「みんなで集まって、各自がモノローグをしている」のです。

 なぜかはわかりませんが、人材系の会議には、この手の「モノローグ会」が多いような実感があります。おそらく、「ほにゃらら人材」の「ほにゃらら」の部分を「イノベーション人材」ではなく「グローバル人材」にしても、同型の会話構造が、会を支配してことの方が多いでしょう。
 そして、皮肉なことに、そうした会の「モノローグ」からは、「イノベーション人材?」も、「グローバル人材?」も生まれ得ないだろうな、というのが、僕の実感です。むしろ「イノベーション人材」なんてものが語られないような空間で、それも、地に足のついた仕事に取り組んでいる人々の中にこそ、それはある、のかもしれません。
 
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 今日は人材系の会議に、なぜか多い、モノローグ会!?についてお話をしました。だから?といわれても、特にオチはありません(笑)。また、イノベーション人材はどこいったのか、さっぱりわかりませんが、まぁ、お許しください。たかが20分で書いているブログです。

 ちなみに、僕個人としては、いわゆる「イノベーション人材」とは、「キンキンに尖った一匹狼」でも、「カリスマオーラ、オラオラな人」でもないイメージをもっています。僕があるイメージをもつことに最も影響を与えてくださったのは、東京学芸大学の高尾隆さん(東大時代の同期で、友人です)からうかがった話です。
 高尾さんは、かつて僕の授業で、キース・ソーヤーさん(この人はクリエィティビティと即興の研究者ですね)の議論を援用しながら、イノベーション人材について下記のように語ったことがあります。

これから求められる人は「イノベーティブな人材」ではありません。「この人が加わるとイノベーティブなグループになる」という人が欲しいのです。(多くの組織では)集団で、ものをつくっているわけですから、ひとりだけイノベーティブになっても活かしようがないのです。

必ずしも、集団がイノベーティブになるために、その人がイノベーティブなアイデアをばんばん出す必要はないのです。その時、必要な人は「この人が加わるとイノベーティブなグループになる人」であって、「孤独なイノベーティブ人材」ではないのです。

 高尾君、やっぱり、そうだよね。
 僕としては、個人的には、高尾君のこの考え方が、しっくりきます(ちなみに、この授業の内容は、本になります)。
 そして人生は続く

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追伸.

慶應丸の内シティキャンパスで僕が講師をつとめる授業「ラーニングイノベーション論」の残席が「わずか」となったようです。

こちらの講座では、「企業に革新をもたらす人材開発」をテーマに、第一線の研究者の方々・実践者の方々にご講義をいただき、ディスカッションやエクササイズを実施していきます。この講座の運営自体が、研修開発のモデルになるように設計しているつもりです。また今年で6期になりますが、100名を超えるアラムナイも魅力的です。

もし参加にご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうぞお早めにお申し込み下さい。5月23日から開講します!

ラーニングイノベーション論
http://www.keiomcc.com/program/lin/