ソシオグラムが「見えにくい」時代の治療!?:面接技術の向上と信頼の形成

 ちょっと前のことになりますが、肩こり・腰痛などなど、その他モロモロで(泣)、日頃からお世話になっている鍼灸師さんが、こんなことをおっしゃっていました。

「ここ10年の変化は、そうですね、患者さんのソシオグラムが見えにくくなったことですかね。(中略)ご時世柄、仕方がないことなのですが、新しい保険証の普及もあって、治療に役立てられる情報が減ってしまったんで、それを補わなければならないんですよ。たとえば面談技術で、補いますけれどもね」

 ICレコーダーを持っていたわけではありませんし、今まさに小生に鍼が打たれている、まさに「そのとき」の会話ですので(プスッ)、先生の言葉を正確に覚えていません。が、「ソシオグラム」という言葉(街の中では、なかなか、耳にしない言葉ですよね?)がとても印象的でしたので、たぶん、これで、趣旨はあっていると思います。

 ここで鍼灸師さんが述べている、「新しくなった保険証」とは「ここ5年ー10年で普及している、1人1枚のカード型の保険証のこと」です。
「ソシオグラム」とは「昔の保険証には明示されていたが、今の保険証には記載されていない家族関係の情報のこと」をさしているのだと思います。

 僕は保険証の専門家ではないので、詳細はわかりかねますが、要するに、先生の言いたいことは、「最近の?新しい保険証は、1人1枚になったので、被保険者の家族関係が記載されていた部分がない」ということなのだと思います。

 家族の情報(ソシオグラム)は、治療に必要な局面もあるのだが、しかし、今は、それが「自動的」には見えなくなった。
 だから、それを高度な面談技術 / 医療面接技術で補い、患者さんとラポールをとりつつ、自然とそうした情報が、口にでてくるのを待たなければならない、ということなのだと思います。

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 ところで、鍼灸師さんによりますと、鍼灸とは「診断即治療」ということばがあるのだそうです。
 診断即治療とは「施術者が、触れて感じた感覚から、そのつど、そのつど診断を即時的に行い、ただちに次の治療に活かす」という感覚だそうです。
 詳細は知りませんが、その施術とは、ややバタくさい言葉を使えば、インプロヴィゼーションに近いところがありそうです。

 しかし、こうした「インプロ的行為の象徴のような鍼灸治療」ですが、ここに来る人の社会的背景は非常に多様です。一人暮らしのお年寄りから、若い人まで、様々な人がいる。病状も、フィジカルな問題から、そうでない問題まで、様々な人がいる。

 これらの多種多様な患者さんたちが、症状を改善していくためには、治療だけでなく、やはり「家庭での生活」を切り離して考えることはできない。
 そのためには、患者さんたちが、誰と、どういう風に、ふだん生活をしているのか、そうした社会的情報も必要とする。適切な治療を行うためには、彼らの「ソシオグラム」を把握する必要がある。
 たとえば、湿布ひとつでも、そうである。ソシオグラムを把握せず、自分一人では張ることができない部位の治療のために、湿布をだしても、それは独り身の場合には「使われない」。否、「使えない」。ソシオグラムによって活きる治療もあれば、そうでない治療もある。

 医療の知識はないし、なにせ「プスッ」の最中ですので、うろ覚えですが、たしか、先生は、こうしたことをおっしゃっていました。

 ZZZZZ...

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 改めて自分の保険証をとりだしてみると、たしかに、保険証は僕ひとりの専用のカードになっており、僕の家族関係(勤務先はわかりますね!)は、把握しにくい構造になっています。
 たしか、昔のペラペラの紙のときは、2枚目だったかに、子どもなどの氏名などが書かれていた気がしますが、それは、うろ覚えでしょうか。

 先生のおっしゃるような「ソシオグラムが見えにくい」という事態は、昨今の個人情報保護の観点からは、致し方ないことなのかもしれません。また、そのような状況を抱えている領域は、医療関係以外にもいろいろあるような気がします。

 しかし「ソシオグラムが見えにくい」今だからこそ、なおさら、本人の便益・目的達成のために、患者ー医療者がラポールを達成し、「ソシオグラムを読み解く努力」が必要なのかもしれませんね。

 プスッ。

 治療の間中、僕は、うとうとと、そんなことを考えていました。そして人生は続く。