実務家の問題関心にジャストミートする「質的研究法」の書籍を探す!?

 先だって、ある企業の方から、ご相談を受けました。

 その方、曰く、

「仕事柄、現場の問題点などを拾い上げるために現場に出向きます。現場で働いているマネジャーなどのヒアリングで、でてくる内容は、玉石混交で、様々な問題があります。しかし、こうした現場でおこっている問題を、どのように解釈すればいいのでしょうか。何か参考になる本や論文をご紹介いただけますか?」

 という内容でした。

 非常に熱心に現場に出向き、仕事に取り組まれている様子、わたしは、頭が下がります。お問い合わせありがとうございます。

 ただ、この問いに対して、どのようにお答えしてよいか、少し悩み、お返事をお返しするまで時間がかかりました(申し訳御座いません)。お問い合わせがあったので、研究室の本棚を見渡してみたのですが、この方の問題関心にジャストミートするであろうものを見つけることに、考え込んでしまったのです。

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 おそらく、上記の問いに関連する類書といえば、

1)ヒアリングに関する本
2)エスノグラフィーやフィールドワークに関する本
3)質的研究の概念生成に関する本

 ということになるのでしょう。

 しかし、いずれの本においても、既に出版されているものはどちらかというと「研究」が主眼になっており、また研究者、研究入門者が読む仕立てになっているものがほとんどです。もちろん、質的研究手法は僕の専門外ですので、実務家が読むときにジャストミートする本ががあるのかもしれません。が、管見に関する限り、僕は、あまり見つけられませんでした

 実務家を対象に、「実務に役立てること」を想定している質的研究法の本は、あまり少ないのが実状ではないか、と思うのですが、いかがでしょうか。(「研究」法の本なのですから、実務家向けにそもそも書かれていないのは、致し方ないことですね)

 結局、1)に関しては、すでに絶版になっているもの、2)に関しては研究者を想定して書かれていますが、わたしが最も体系的に整理されていると思っているもの、3)に関しては講義形式で概念生成法を論じているものをご紹介しました。

 これでよかったのかな、と思いつつ、また感想をお聞かせ願いたいものです。

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 聞くこと
 ヒアリングすること
 概念をつくりあげること

 これらは、必ずしも研究者が行うことではなく、実務を行っていれば、必ずどこかの局面で、ついてまわることのように思います。

 質的研究にせよ、量的研究にせよ、大学で学ぶ社会科学の研究方法論の中で、意外に実務の場面になって必要になってくるものは - それが言い過ぎなら、持っていて損にならないもの - 少なくない印象があります。

(だから、大学時代に研究の現場で身につけた知的生産のサイクルは、組織に入って知的生産に関連する仕事に従事するのなら、無駄にはならないと思います。もちろん、程度や厳密さは異なります。また組織においては、政治が駆動しますので、正しい解答が、必ずしも採用されるわけではありません。ですが、あたりまえのことですが、知的生産のサイクルはかなり似ています)

 実務家の問題関心にジャストミートした研究方法論の類書が、さらに充実してくればいいな、と感じています。

 そして人生は続く