「ノウハウの知」について:最も簡単なリアルタイムドキュメンテーションムービーの作り方

「けっ、ノウハウなんか!」
「ノウハウを紹介するなんざ、なんと、低級、低俗な!」

 ノウハウは、時に、「小バカ」にされます。

 しかし、多くの人々が、同じ場面で、つまづいたり、悩むところで、誰か先人のつくりだし、形式知としておこした「役に立つTips」があるならば、これから同じことを為す人は、先んじて、知っていた方が有用なこともあるでしょう。
 願わくば、これから追いかける人は、先人の肩の上にのり、さらに「その先」をめざすことが可能だから。

 また、

「けっ、ノウハウなんか!」
「ノウハウを紹介するなんざ、なんと、低級、低俗な!」

 という、その「はるか、それ以前」で「尻込み」をしている方々の背中を押すのは、「具体的なノウハウが存在する」という事実であったりします。

 もちろん、「ノウハウ」にできることは「一番、最初に、背中を押すこと」です。それは、全く万能ではないし、シルバービュレットではない。現場における問題解決は、「自分の頭で考えること」が必然になります。しかし、その「はるか、それ以前」の立ち位置にいる人々にとって必要なのは「最初のとっかかり」です。それを可能にするのが「ノウハウ」なのかもしれません。

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 これに関連して、一年くらい前になりますが、知財がご専門の弁護士・福井健策先生とお会いし、ディスカッションしたときのことを思い出します。

「なぜ、ノウハウやアイデアが、知財として著作権法で守られないのか」

 を僕が質問したときに、福井先生がおっしゃった「ひと言」が忘れられません。

「それは文化や社会を発展させ、豊かにするためです。みんなが、使える有用な方法ならば、たとえ考案した人の知財や利益を守れなかったとしても、社会にとってはプラスになる。社会的功利を実現するノウハウは、個人の知財として守られるよりも、自由にシェアされ、流通されることを、法律は選んだのです」


著作権、文化、そしてマネタイズ : 【fʌ'n】第二回目「ラーニングデザインと著作権」が終わった!

http://www.nakahara-lab.net/blog/2012/02/post_1829.html

 教育手法や学習手法とは、知財法では守られません。
 それは、いわば「オープンソース」のようなものとして、社会や文化を豊かにするため、社会的功利を実現するためのリソースなのです。

教育技術はオープンソースである!
http://www.nakahara-lab.net/blog/2009/04/post_1476.html

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 もちろん、ノウハウは「絶対」ではありません。
 くどいようですが、「形式知として文字にあわらされる表現」は、それがいかなる巧妙な筆致で書かれていたのだとしても、「現場で人々が為すやり方」を「再現」することは、ほぼ不可能です。

 しかし、それでも、「全くないよりまし」である局面もあるでしょう。
 全く何も指針がないよりも、「現実の10%程度しか表現できぬ表現」であったとしても、「ないよりはまし」なのかもしれません。適用される状況やコンテキストが変われば、ノウハウを自分なりに解釈して、自分の頭で考えることも、その先に期待できるかもしれません。

 いずれにしても、ノウハウを前に「思考停止」するのではなく、その「先」、その「状況」を考えることをやめなければ、ノウハウの知は、十分に有用なのではないか、と思います。ノウハウを目の前にしたとき、人々に必要なのは、「思考停止」ではなく、「その先へ!」の姿勢であり、それを自らのコンテキストにおいて「再解釈すること」をめざす、能動的な態度なのです。

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 一方、かつて、僕が学生時代の頃、「ノウハウや、ハウツーは、最低だ」と教えられました。教育や学習の場面において「ノウハウやハウツーを語ることは最低最悪だ」と。

 「あれはハウツーだ」
 「ハウツーなんて、くだらない」
 「必要なのはハウツーではなく、理論であり、パースペクティブである」

 その頃も「違和感」はありましたけれども、今となっては「本当にそうなのかな?」と思います。それは非常に事態を単純に捉えすぎているような気がします。

 もちろん、人々の思考停止を誘う「ノウハウ」や「ハウツー」に対する疑義は理解できます。
 しかし、そういう上記のような「言明」の奥深いところに、実は、「現場に対する蔑視」や、「現場の実践知を持たぬ(研究者としての)自己防衛・保身の機運」はなかったのか? 僕には、はなはだ「疑問」です。

 実務と理論の交差するような「現場」をもつ学問の場合、理論知と実践知、ないしは、理論知に長けていると一般には考えられる研究者と、実践知に長けている実践者の間には、つねに「緊張関係」が認められます。その言説空間は、いわば両者の政治的闘争、ないしは、サバイバルアリーナとしても認めることができるのです。
「片側の知」に長けているものは、当然のことながら、「自分が保有する知の、その他の知に対する優越」を主張する可能性があると考えることは、自然なことです。なぜならば、自らが「生きるために」。ですので、その言明は、いわば「政治的発言」ないしは「ポジショニングトーク」として、まずは認められなければなりません。そういう場合には、その発言の趣旨を「割り引いて(ディスカウント)」考える必要があるのです。

 というわけで、この違和感を背景に、最近、「敢えて」アカデミックなコンテキストにいる僕が、アイロニカルに「ノウハウ」を書いています。特にマイブームが「タブレットやビデオを使った、学習」でありますので、それに関するノウハウを「敢えて」書いているのですが、今日も、さらに続きます。
 
 今日、書くのは、

 ipadを使った、「最も簡単なリアルタイムドキュメンテーションムービーの作り方」です。

 「リアルタイムドキュメンテーションムービー」とは、ワークショップなどの「出来事」をリアルタイムで記録して、参加者にリフレクションのときなどに見せる映像ですね。

リアルタイムドキュメンテーション
http://www.nakahara-lab.net/blog/2009/08/post_1565.html

 下記で紹介する方法を用いた場合、実現されるムービーのクオリティは「そこそこ」です。凝ろうとすれば、いくらでも凝ることができますが、それは、本記事の目的ではありません。

 ただし、もっとも簡単に、リアルタイムドキュメンテーションムービーをつくろうとすれば、下記のような方法になるのかな、と思います。

 さらに「その先」へ!
 興味をもたれた方は、ぜひチャレンジして下さい!

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 もっとも簡単なリアルタイムドキュメンテーションムービーの作り方は、下記の通りです。

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1.まず1のipadの「カメラ」で、「出来事のビデオ」を撮影します。リフレクションムービーは「素材をいかに綺麗にとれるか」でクオリティが決まりますので、実は1がすべてであったりしてください。

 ・脇をしめて撮影して下さい。手ぶれをなるべく
  ふせぎます。録画しはじめたら、微動だにしない。
  これが全てかもしれません。
 ・ipadは、必ずヨコにして撮影して下さい。
 ・ワンカットは3秒-4秒程度にしてください。
  基本的には、この3秒-4病のワンカット撮影を繰り
  返して、出来事を撮影していきます。
 ・4秒のワンカット撮影中は、絶対にipadを動かさないで
  下さい。上下に動かしたり、ヨコに動かしたり、ズームをしたり、
  よったり、動いたり、一切しません。
  撮影中は、3秒ー4秒微動もしない、これが鉄則です。
 ・ipadの映像は、上から下をとるような映像になりがちです。
  下から上をとったりしてください。また人をとるときは、
  被写体の人々の目線にあわせてとるとよいと思います。
  とにかくipadの映像は「上から目線」になりがちです。
  それを避けて下さい。
 ・バストショット、全体が入るショットなど、多様なショットを
  いれていきます。同じようなカットの映像は、あとで繋げません。
  ですので、いろんなカットをとっておきます。
 ・手元や、掲示物など、いろんなカットをとってください。
  これらが、あとあと、つなぐためのカットに成増。
 
2.1で撮影した映像を2の「iMovie」で編集します。 iMovieは、Apple Storeでワンコインで購入できます。なお、iMovieのアプリケーション上でも、カメラで映像を撮影できるのですが、それは避けます。なぜなら、iMovieのアプリケーション上で撮影した動画は、iMovie上でしか使えないからです。かならず、1の一般的なカメラで撮影し、2のiMovieで編集することを基本とします。

ipadrtv1.png

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3.iMovieを起動したら、「新規プロジェクト」をつくります。そうすると、3の部分に「カメラで撮影した3秒-4秒の映像」が並んでいると思います。並んでいる映像を、クリックしていくと、4のようにタイムラインに映像が並んでいきます。これが映像をつないでいく作業です。並べたい映像分だけ、これを繰り返します。

ipadrtv2.png

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4.映像プロジェクトの全体設定をします。5をクリックし、6のようにしてください。こうすると、ムービーの最初と最後が、フェイドイン・フェイドアウトし、さらには、BGMが勝手にループします。BGMは、自分の好きな曲をつけることもできますが、「最も簡単な方法」の紹介なので、ここでは述べません。その先は、試行錯誤してください。この場合、BGMは、勝手にループしますので、自分がつくりたいだけ、映像をつくることができます。ただし、いくら音楽が無限にループするといっても、リアルタイムドキュメンテーションとしては、全体で4分程度がよいかな、と思います。それ以上は、なかなかオーディエンスが見ていられないものです。

ipadrtv3.png

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5.もし3秒-4秒のショートクリップ映像のそれ自体を「微調整」したい場合には、7のようにタイムラインの映像をダブルクリックします。8をいじれば、テロップをつけることができます。9をいじれば、ショートクリップの音声レベルを調整できます。10の黄色の丸をいじれば、ショートクリップを短くしたりするなど、その長さを調整することができます。

ipadrtv4.png

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6.並べおわったら、プロジェクト画面に戻ります。11をおすと、つくったムービーをどうするかを聞かれますので、Youtubeにアップしたい場合は、12のようなボタンを押すだけです。これにて終了。

ipadrtv5.png

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 今日は「ipadを使った最も簡単なリアルタイムドキュメンテーションムービーの作り方」を書きました。
 もちろん、凝ろうと思えば、どこまでも凝ることができますので、ここで書いたことは、最も「初歩的」なものです。また、ここに紹介した方法は、あくまで「たたき台」です。その状況に応じて、どんどん改変していくことが期待されます。

 さらに「その先へ!」
 さらなる「試行錯誤」へ!
 さらに発展する「オープンソース」へ

 そこから先は、それぞれのコンテキストにおける、皆さんの「探究」を期待しております。

 そして人生は続く