跳躍のための「舞台」をつくる!? : 身体、学習、パフォーマンス

 土曜日・日曜日は、JSET冬合宿「身体という"メディア"、学習装置としての"舞台":即興劇・マイムを体験しつつ学習理論を探究する」というワークショップを開催しています。

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 近年、初等中等教育においてはコミュニケーション能力の開発の文脈において、高等教育・企業教育の分野においては、イノベーション創発などの文脈において、「身体を用いた学習機会の可能性」が注目されています。

 演劇教育などを実践なさっている方には、「今さらジロー感」(!?)漂う話題でしょうし、これが「学び」に付随する諸問題を解決してくれる「魔法の杖」でないことは明白です、が、「身体を通した様々な活動」は、今までわたしたちが「見落としてきたこと」を、考えるひとつのきっかけを、与えてくれているような気がします。その「見落としてきたもの」が何かを考えるのが、今回のワークショップです。

 今回のワークショップでは、インプロの専門家として東京学芸大学准教授 高尾隆氏,マイムの専門家として藤倉健雄氏(ウィスコンシン大学・演劇教育学Ph.D)をお招きし、両先生のファシリテーションのもと、参加者全員がインプロを行い、マイムに挑戦しました。
 また、同志女子大学の上田信行先生、同大ゼミの皆さんには、ダンスを用いて「学習環境としての舞台」に関する例示的な実践を行って頂きました。

 さんざん体を動かしたあとは、独りになり、考えることも、また必要です。

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 1日目の最後は、実践と理論の往還です。
 最終セッションでは、学習理論 - ヴィゴツキー心理学の影響を受けた「舞台」を用いた学習実践に関する解説を、岡部大介氏(東京都市大学)先生からいただきました。個人的には、

 人間の発達のプロセスは「発達ステージの通過」よりも、「ステージを創り出すこと」

 発達を促進する「ステージ」において「Being a head taller than your are(頭ひとつぶんだけ、背伸びしよう)」

 というメッセージが非常に興味深いことでした。

 ホルツマンは、イーストハーレムの貧困層の子どもたちが、ダンスを練習し、構築されたステージで披露するという社会的実践「オールスタータレントネットワークショー」と深く関与して、発達的支援を行っています。

 このような社会的実践は、いわば「他者に構築された発達のための舞台」です。「他者に構築された舞台にのぼること」で、「自分を超えた何かを行うこと(Performing)」することで、心の中に生じてしまった「リアルライフとのズレ」は、一面では、本来「知らなくてもよかったこと」なのかもしれません。

 このあたりの「ズレ」の問題は、フレイレの「意識化」の概念、また、舞台というメタファは経験学習理論でいうところの「タフな経験」と家族的類似性のある概念のように思えますが(異なるところはオーディエンス問題でしょうか・・・)、ますが、そこをポジティブにとらえ、いかに生じたコンフリクトを解消できる方向で支援を提供できるかがポイントになるのか、と思います。

 また同時にホルツマンは、子ども達に、自分ではない「なりたい何者か」を徹底的に演じさせる(創造的模倣)という実践を行っています。「自分ではない、しかし、気になる他者」を内包(incorporating)させ、それを通して「自分とは何者か」というアイデンティティに「揺さぶり」をかける、のだといいます。

 ここに関しても、内的に生じてしまったコンフリクトを、いかにポジティブな力としていき、かつ、セーフティネットをはるのか、ということが僕としては、気になるところです。

 ホルツマンの実践は、学校教育「ではない」場面で展開しているので、いわゆる「equality」はそれほど大切な価値ではありません。「舞台」に出て、誰もが喝采をあびることは、リアルライフにおいては存在しません。
 畢竟「舞台」というものは、「床」からの「段差」があり、かつ、そこには「オーディエンス」があります。そして、舞台での活動をハイライトさせようとすればするほど - つまりは非日常的な場として権威づけようとすればするほど - 「床からの段差」は高くしなくてはなりません。 
 
その「段差」へのつまづきをどうするのか。「段差は存在するように見せかけて、実は段差はない環境」をつくるか。それとも、「段差は確実に存在し、落ちてしまったときに救う方法をとるのか」それとも「ハードな段差だけを用意するのか」
 いずれにしても「他者が舞台をつくる」というときには、ある意味で、「舞台監督」として責任をもつといったような「腹をくくる」覚悟がなければならないのではないか、と思いました。

 そして、いつかは「他者に構築された舞台」から「自分で舞台を構築すること」への移行をとげる必要があります。それについては、ずいぶん、先の課題なのかもしれません。

 この日のセッションの最後は、参加者の皆さんが、それぞれ、輪になってダイアローグです。

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 合宿は日曜日昼あたりまで続きます。
 ハードな一日のはじまりです。

 そして人生は続く

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追伸.
 本合宿は2/17無事盛況のうちに終了いたしました。
 最後になりますが、このたびの合宿に参加し、勇気をもってステージにおたち頂いたみなさま、高尾先生、藤倉先生、橋本先生、橋本研の皆さん、松浦さん、苅部さん、舘野さん、上田信行さん、上田ゼミの皆様、会場をプロデュースいただいた内田洋行のみなさま、ありがとうございました!
 
 下記は、橋本諭先生(産業能率大学)、橋本先生の学生さんチームで作成いただいた当日のリフレクションムービーです。学生さんたちがワークショップに実際に参加し、内側の視点から撮影なさっただけあり、当日の様子がよくわかります。どうぞご覧下さい。橋本先生、橋本研究室のみなさま、本当にありがとうございました。

Hashimoto-lab
http://www.hashimoto-lab.com/2013/02/2811

 また、当日のワークの様子は、NAKAHARA-LAB on Youtubeで公開させて頂いております(今回の合宿にご参加頂いていない皆様は、見ただけではわからないかもしれません。ただし、合宿にご参加いただいた皆様には、リフレクションとしてご利用いただけるものと思います)。

NAKAHARA-LAB on Youtube
http://www.youtube.com/user/nakaharalab

 中原が最後のラップアップで用いたスライドです。ご笑覧ください。

 そして人生は続く