僕もあなたもディレンマ・マネージング! : 「教師」と「マネジャー」と「親業」を結びつける接点

 相当に古い研究なのですけれども、かつて、マグダレン・ランパートという研究者は、「教える」という仕事を「ディレンマ・マネージング(Dilemma Managing : 板挟み状態のやりくり)」と捉えました。

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「教える」という活動は、複数の学習者に同時に向き合う行為です。
 複数の学習者から、様々なリクエストが同時によせられ、講師・教師は、直面した様々なレベルの、多種多様な種類の問題で、かつ、時に、「こっちをたてれば、あっちが立たない問題(トレードオフの課題)」を、そのつど、そのつど、インプロヴィゼーショナル(即興性)に解決していくことが求められます。

 この問題解決の1)同時性、2)多様性、3)トレードオフ特性こそが、人前で教えることの「特質」であり、「宿命」です。

 ま、ひと言でいえば、

「いっぺんに、バラバラと、言うんじゃねー。オレっちは、一人しかいないんじゃ、ヴォケ!」

 という感じですね(笑)・・・気持ちはわかるでしょう。
 にっちも、さっちも、どうにもブルドッグ的状況ですね(笑・・・意味不明)

ブルドッグ
http://www.youtube.com/watch?v=mkRve4QM81s

 しかしね、くどいようですが、この状況を日常的に抱えることが、この仕事の特質であり、宿命なのです。

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 具体的には、早朝で頭が回ってないせいか、ちょっと違うかもしれないけど(笑)、例えばこういうことです。

 あなたが、今、1島6人のグループ × 5島、計30人の研修をファシリテーションしている。
 30人の中のうち2人は、何をやっても、どんな声がけをしても、どんなに心をつくしても、「まるでやる気がない」。椅子に、ふんぞりかえって、ハナクソほじりながら、「オレ・やる気ないもんね・オーラ(OYO)」をしゅーしゅーとだしている。怖いね、OYO(笑)。

 ところが、30人のうち10人は、超やる気満々で、あなたにさらに上の知的レベルの講義を求め、目を輝かせている。キラキラ。

 残りの18名は、やる気はあるんだけど、ひとつ上の知的レベルの講義を求めているというよりは、研修に参加したみんながもっと話せる機会をもつことを求めており、あなたが話すことよりは、自分たちが、久しぶりに駄弁ることを求めている。もっとマッタリしようぜ!ハクナマタタ!

 さ、そこでディレンマ・マネージング!
 この状況で何をどうするか?

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 たとえば、別の状況。

 今、あなたは30人の学習者に対して、講義をしている。
 そこで、一人の学習者が手をあげました。

「ここについて、原理がわかりません。どういうことか、もっと詳細な説明をしてください」

 この問いに対して、原理やメカニズムにさかのぼって、詳細な説明をすることは可能といえば可能であるとします。しかし、質問者は特にレベルの高い学習者。もし、彼1人に対して、深い説明を行えば、残りの29名は、おそらく「おいてきぼり」になります。むしろ、29名のことを考えるならば、ここはいったん「原理やメカニズム」はほおっておいて、「パターン」として記憶するほうがいいように思う。ただし、この1名をここで切り捨てれば、彼は大きくモティベーションダウンしてしまうことは容易に予想できる。

 じゃあ、どうするか。どっちをとるか?
 即興的に、どう反応するか?
 これが、ディレンマ・マネージング

 ここで述べたように、ありとあらゆる、様々なレベルの、様々なリクエストに対して、同時期に直面し、即興的な対応を求められることこそが、「ディレンママネージング」です。

 あっちをとれば、こっちがたたない。
 こっちをとれば、あっちが沈む。

 みんな30名を救えれば救えるにこしたことはないことは、誰しもわかる。でも、多様性、同時期のコーピングを求められるときには、苦渋の選択を即興的にとらなくてはならないときもある。じゃあ、そういうとき、どうするか?

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 ちなみに、ディレンママネージングは、「マネージング」というくらいですから、経営学におけるマネジャー研究においても、かつてから、繰り返し述べられていたことです。

 古典的な研究ですと、ヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」、さらには、最近でいいますと、リンダ・ヒルの一連の研究などです。

 そもそも、マネジメントという仕事自体が、「矛盾」と「逆説」のかたまりのようなものであり、これを「完全に解消」することはできず、そのつどそのつどの「納得するしかない意思決定」を行うことしかできないのです。
 その意味では、マネジャーと教師は、ある部分は、似ている部分があります。どちらも「ディレンマ」を即興的にマネージングし、時にストレスを抱えやすい。だから、仕事自体が「リラクタント」に感じられる場合もある。

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 このブログをお読みの方は、おそらく企業組織でマネジャーを経験なさっている方や、あるいは、学習・教育の業界で働いている方、現場で教員をなさっている方も多いと思うのですが、皆さんは、最近、どのようなディレンマを抱え、それをどのようにマネージング(やりくり)しましたか?

 それを概念化することができたとしたら、それこそが、ディレンママネージングの「実践知」であるような気がします。

 ちなみに、幼い子どもを複数抱える母親や、父親も、まさにディレンママネージングゲームの渦中にいますけどね(笑)。

 そして人生は続く