「研修評価=研修参加者の満足度!?」 : 人材開発研究における教育効果測定の進展

 先日、いつものように、大学院生の論文指導をしていました。その院生さんは、ある企業(教育ベンダーさん)との共同研究で、「これまでにはない、新たなコンセプトで研修を開発し、評価を行うという」研究をやっていて、そこで得られたデータを現在分析し、今、学会論文を書いています。

 ここで詳細を述べるのは避けますが、この実験(研修)自体は、実際の民間企業で、実際のビジネスパーソン数十名を対象にして行われ、データが取得されました。研修にご参加頂いた皆様には、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 この研究では、いわゆる「実験計画法」を利用した研修効果測定を行い、幸いなことに、望ましい結果を得ることができました。今後は、どのようなプロセスで「業務・業績に変化」が生まれたのかを、質的にインタビューすることも考えているそうです。まことに今後の研究の進展が楽しみです。

 研修をさせていただいた企業の人事の方には、詳細なレポートをお送りし、説明にもあがったそうです。企業の方のお話しでは、来年度以降の人材開発施策のご参考にしていただけるとのことでした。
 この場で、どこの企業か企業名を明かすことはできないですが、このような研究の機会をいただき、この場を借りて、心より感謝いたします。ありがとうございました。

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 いつものように論文指導をしながら、今後の人材開発の世界では「研修の効果測定がさらに盛んになるだろうな」「研修効果の明示が求められるようになるだろうな」、とぼんやりと考えていました。
 
 研究の現場では、すでにその動向は生まれてきていて、数年前から、定量的手法・定性的手法、様々な手法を用いて、研修の教育効果の測定が行われることも珍しいことではなくなってきました。定量的研究を行う場合、マネジメント研究に、実験計画法を用いた研究というのは、これまでにあまり例がありませんでしたが、最近は、それさえ行われるようになってきています。

 このような背景のもと、中原研の指導学生・研究室では、研修評価を含みこんだ研究としては、これまで4つの企業の皆さんと共同研究を推進してきました。

 僕の経験上、僕が関与した研修で、「全く"ねらい"を達成できない」ということはないですが(一応、小生もプロなので・・・笑)、残念ながら、すべてが「ねらい」どおりになるとは限りません。ねらいどおりの効果をあげられる場合もありますが、そうでない場合もあります。もし万が一後者の場合には、研修をブラッシュアップしていくためにも、やはりデータを取得していく必要があります。それも、煩雑ではない、可能な限り、簡便な手法で、やらなくてはならないので工夫が必要です。多くの場合、すでに企業で蓄積されている既存のKPIから、研修評価に適切な指標をさがすことが多いように思います。

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 一般に「効能のわからない薬」を飲む人は、あまりいません。
 そういう人もいるのかもしれませんが(笑)、僕は、少なくとも「効能が示されていないもの」を口にいれようとは思いません。

「研修」を「薬」に喩えるのは、メタファとしてどうかと思いますが(もっといいメタファがあるんではないか、と思います)、おそらく、その提供側(サプライサイド)には、それをアカウントしていく必要が、これまで以上に求められるようになるだろうな、と思います。
 
 もちろん、薬には「長期的にきく漢方薬」のようなものもあるでしょう。また、短期的に解熱するような「即効性のある抗生物質」のようなものもあるでしょう。
 「時間」は「効果測定のあり方」は規定する最大の要因のひとつですので、多種多様な薬に一概に、どのような評価方法・評価指標が適切かを述べることはできません。
 ただし、評価のあり方は多種多様であろうと思いますが、いずれにしても、少なくとも「何に効くのか」は明示されている必要があるように思います。

 そして、ここで大切なことは「研修の効能」とは必ずしも「研修参加者の満足度」では「ない」ということです。
「研修参加者の満足度があがることをめざす研修」も「ゼロ」ではないとは思いますが、それが研修評価で「最も追求されるべき指標である」という状況は、あまり僕は納得できません。それは高いことにこしたことはないですし、場合によっては、研修のあり方を考え直すいいきっかけになるとは思いますが、それが「メインの指標」になることは、少なくとも僕が関与する共同研究ではありえません。

 一般に「企業内の人材開発とは、組織の戦略・目標にそうように実施される教育的介入プロセス」です。ゆえに、ここでいう「効能」とは、「組織の戦略・目標にそった指標」になることが一般的だと思います。

 誤解を恐れずにいうのならば、「研修参加者の満足度がたとえ低くても、組織の戦略・目標にそった指標を満たすならば、それでよい」という「潔さ」や「腹をくくる覚悟」も、人材開発においては必要になる気がします。
本当に必要なことで、かつ、自分が自信をもって伝えなければならぬと思うことは、たとえ、学習者が「耳が痛かろう」が、若干「もやもや」しようが、言わないわけにはいきません。それは「研修の満足度を下げること」につながってしまうでしょうが、そういう場合であるならば、そのことを過剰に気にする必要はありません。
 むしろ、「腹をくくって」、結果を受け入れればよいのです。
 「予想通りですね、でも、全く問題はないですね」と。

 このことは学校教育のメタファで考えればわかりやすいと思います。

 小学校・中学校の教育現場のゴールは「生徒の授業満足度」でしょうか?
 「生徒の授業満足度の高さ」だけをもって、「教育のよしあし」を判断するでしょうか?

 むしろ、もっともめざすべき目標は「学力の向上」や「生徒の達成度の向上」、さらには学習者の「成長」ではないでしょうか。僕が親で、自分の子どもを預けているのなら、まず、そこを問います。

 こういうことをいうと、また鋭いツッコミがきそうですね。

「あいつ、バカじゃねー。教育のパフォーマンスなんて、学力や達成度だけじゃなくてそれ以外にもたくさんあるよ、やっぱわかってないよね」

 という「矢のようなツッコミ」が(笑)。そういうツッコミが「自分の頭上」にふりかかることは「覚悟の上」で、敢えて極論で単純化して、お話ししてますけれども(笑)。でもね、僕にとって、「授業の満足度」という指標は、「パフォーマンス指標」と比べて、プライオリティが低いです。

 皆さんは、何をゴールに設定していますか?

(ちなみに、研修参加者の満足度というものは、実は、もっとも外的にうわべで操作しやすい指標なのです。本来言わなければならないことを指摘せず、参加者が耳の痛くなること、考えさせることは敢えて避け、あくまで面白く、軽妙に、笑いをとって、優しくぬるぬるで、時に"カタルシス(感情の浄化)をともなうような感動のシーン"と、"これだけやっておけばあなたは大丈夫的な箇条書き化された3つのポイント"をいれていけば、確実に指標の値は高くなります。それは外的に、かつ、表面的に操作するのがもっとも簡単なのです。つまり、研修参加者の満足度を指標にするということは、教育のサプライサイドにとって、もっとも都合のよい状況をつくりだしている、ということになります)

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 教育効果測定は、学習研究では、アタリマエダのクラッカー的に、従来から実施されています。マネジメントリサーチの、特に人材開発研究では、ようやく、それが本格化してきたという印象があります。学習研究の様々なパラダイムを活かしながら、今後の研究を続けていきたいと思っています。

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■2012/10/30 Twitter

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