テレビ局の社員の方々は、局外で何を学び、組織はどう変わったのか?

 近況。

 金曜日 - 大学院コース会議。
 その後、福武ホールで、ソシオメディア論の水越伸先生(東大)とテレビ朝日さんの共同研究「ろっぽんプロジェクト」の最終報告会で、不肖中原、パネリストをつとめさせていただきました。

 このプロジェクトでは、テレビ朝日の社員の方々が、局をでて、小学校や教育機関で「出前ワークショップ」などをします。のべ4万人の人たちがワークショップや授業を受け、全社員の10%である120人弱の社員が、それに参加したそうです。

 そのとき、子どもとテレビ朝日社員の方々には、それぞれ、どのような学びや気づきがあったのか。そして、そうしたプロセスを通して、組織は、どのように変容したのか。

 中原は、メディア論やメディアリテラシー教育については、全くのドシロウトですが、あえて「職場学習論」の立場から、コメントさせていただきました。

  ▼

 実は、小生のかみさんは、ディレクターをしています。しかし、テレビ局そのものの現状や人材育成の仕組みについては、あまり聞くことがありませんでした。

 加えて、僕は、おそらく、年間で1000枚から2000枚の名刺交換をしますが、なぜか、新聞社やテレビ局の人材育成担当者、人材開発担当者の方にお会いすることは、ほとんどないのです。だから、テレビ局の中の人々の学習や成長に関しては、イメージがわきにくいというのがあるのかもしれません。

 でも、これが機会になって、メディア企業の人材育成の仕組みについて、非常に興味がわきました。そこでは、どのような人材育成モデルが採用されているのでしょうか。

  ▼
 
 ちなみに、シンポの中で、パネリストでご一緒した水島先生(東海大)にご紹介いただいた「数字」が忘れられません。

 水島先生によりますと、過去10年で、ネット広告収入は5900億円増加したのに対して、テレビを含むマス四媒体は5600億円の減少だつたそうです。
 衝撃的なのは、マス四媒体の昨年度1年の収入落ち込みは、過去10年分の落ち込み累積額とほぼ同額だということです。つまり、去年1年だけで10年分の落ち込みが記録された、ということです。これはとてつもない数字だと思いました。

(ちなみに、人材育成ビジネスは年間約6000億弱です。それが一年で消し飛んだ、ということです)

(電通の調べによると、2009年の日本の総広告費は前年比11.5%減の5兆9222億円。マス4媒体の広告収入は14.3%の減少。雑誌は25.6%減の3034億円、新聞は18.6%減の6739億円、インターネット広告費は1.2%増の7069億円と新聞をぬく。テレビは17%減の1兆6000億円)

 対して、ネットの広告収入はどうかというと、リーマンショック後も横ばい。ここで重要なことは、昨年度におけるマス四媒体の広告収入の凋落は明らかですが、必ずしも、その分が、すべてネットに食われたのではない、ということです。

 マクロにみれば、すでにペイドメディア(お金を払ってみるメディア)が衰退し、ソーシャルネットワークサービスや、Twitterを含むノンペイドメディア(無料のメディア)に、人々の関心がうつっているのではないか、というご指摘でした。つまり、ネットも安泰では決してないということです。

 水島先生は、このような中で、メディアリテラシーを推進するテレビ局にとっての意味は、10年前の過去とは「変質」している、とおっしゃっていました。かつては、「圧倒的な巨大で強く権力をもつメディアがなすメディアリテラシー」の実践だったのですが、いまや、「ビジネスモデルを再構築せざるをえないメディア企業がなすメディアリテラシー」になったということです。
 メディアリテラシーの実践の変質を指摘する、水島先生のご指摘には、非常に共感できました。もう一度、テレビ局が「メディアリテラシー」を実践する意味を問い直す必要があるように思いました。

 というわけで、無事終了です。
 貴重な機会を与えてくださった水越先生に心より感謝いたします。
 ありがとうございました。

 ▼

 明日から2日間は、「山」に籠ります。携帯やネットから離れ、いわゆる、アンプラグドでアンコネクティッドな環境で、リフレクションを深めたいと思います。
 これまでを振り返り、未来を構想する。僕は、どこからきて、どこに向かおうとしているのか。
 週末、家族には迷惑をかけていくので、貴重な時間を過ごしたいと考えています。
 
 それでは皆さん、よい週末をお過ごしください。
 Have fun!