Give, Give, Give, Give and Give : 酒井穣著「あたらしい戦略の教科書」

 酒井穣さんの新刊である「あたらしい戦略の教科書」を読んだ。

 酒井さんといえば、前著「はじめての課長の教科書」が10万部を超えるベストセラーになった方である。
 政治的観点から課長の実態を論じている箇所が、僕にとっては非常に印象的な本であった。

課長の教科書を読んだ!
http://www.nakahara-lab.net/blog/2008/05/post_1228.html

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 新刊「戦略の教科書」の中で、特に印象的だったのは「Giveの5乗」という話である。要するに「よい情報を得るには、Give and Takeではダメで、Give, Give, Give, Give and Giveでなくてはだめだ」ということ。
 もともとは、経済評論家の勝間さんがよくする話だそうだが、下記に引用してみよう。

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 人間というものは、他人に一方向的に頼るような状態を嫌いなので、あなたから情報をもらった人は、必ずあなたのもっていないウェット情報をもたらすようになります。

(中略)

 ウェット情報をだすのに、いちいち見返りなどを期待せず、とにかく自分で聞き出してきたり、加工してきたりした有益な情報を「give, give, give, give and give」という具合に、関係者に与え続ける、ある意味で逆転の発想です。

 貴重な情報の取り扱いに慣れていない人は、すぐに「Give and take」というかたちでの見返りを相手に期待してしまうものなのですが、これでは自分が相当貴重な情報をもっていない限り、見返りとして等価に帰ってくる情報もあまりパッとしたにものになるのは当然です。

(同書 p88-89より引用)

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 非常に共感できる。僕の信念にもかなり近い。
 「Give, Give, Give, Give and Give」
 これである。

 でも、こういう話を聞くと、下記のように訝る人も容易に予想できる。

「フリーライダー(ただ乗り野郎)が得するだけじゃないですか! 彼らにも、Give, Giveしてどうするんです!」

 でも、僕は、実は、そのことはあまり問題だと思わない。

 なぜか?

 それは3つの理由による。

 第一に、フリーライダーはどんなに予防しようと思っても、一定数、必ず含まれる。

 第二に、フリーライダーの情報力、情報抽出能力は限られている。一言でいうと、たいした情報はもっていないし、どんなにこちら側がGiveしようとも、その中から価値ある情報を抽出できないことが多い。
 ただ乗りを続けていて、オモシロイ情報を常に収集できるほど、人間社会は甘くない。かつ、情報収集能力が高く実行力のある人は、そもそもフリーライディングはしない。

 第三に、フリーライダーからもたらされるデメリットよりも、通常の参加者によって「互酬」によってもたらされるメリットの方が、非常に大きい。

 よって、「情報をGiveすることに付随するフリーライダーの問題は」、一定の確率で発生する「コスト」と位置づけ、あまり気にしない。というか、問題にしても、あまりよいことがない。

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 結論。
 クリエイティビティを高めるためには、まずは、Giveすることである。