大学を、"みんな"で変えることができるのか!?

「最近、大学からのコンサル依頼がやたら増えているんです。学生に満足してもらえる環境を、大学"全体"でつくっていくには、どうしたらいいのか。どうしたら、学生がさらに集まる大学を、"みんな"でつくっていけるのか・・・。

"教授"だけがやってもダメなんです。かといって、"事務職員"主導でもダメですね。場合によっては、"学生"にも入ってもらう。大学のステークホルダー"みんな"が関わって、"学生目線"で自分たちの教育環境を見直し、当事者意識をもって、"環境全体"を変えていかなければダメなんです。

最初は小さくてもいいのですが、次第に、改革の輪が広がるような場をつくらなくてはなりません。

それにしても、大学に、わたしたちのような外部コンサルタントが呼ばれる時代になったんですね・・・10年前には考えられなかったことです・・・」

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 ある民間コンサルタントの方から、こんな話を聞いた。
 少子化問題をひかえ、今、"学生の視点から教育環境の見直し"に入っている大学が多くなっている、そうだ。他にも何人か同じようなことをおっしゃっている人がいたので、おそらくは、こうした傾向があることは事実なのだろう。

 大学、教育、見直し・・・・

 こういう話を聞くと、よくFD(ファカルティディベロップメント)という言葉を思い出してしまうけれど、上記でコンサルタントの方が語ってくれている内容は、いわゆる典型的な「ザ・FD」とは、やや異なった趣があると思う。その違いは、下記の2点だ。

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1.主体の問題
「よくあるFD」は教授陣が「主体」となっているのに対して、上記では、大学を構成するメンバー - 様々なステークホルダー - が「主体」として位置づけられている。

2.対象の問題
 変革の対象は、必ずしも「大学の授業」だけではない。「環境全体」と捉えられている。学生の学習環境は、必ずしも、授業だけから成立しているわけではない。様々なステークホルダーが管理している、学習要素を、できれば一貫した理念にしたがって、変革したいと考えている。

(※誤解を避けるために言っておきますが、教員による授業改善が悪いといっているのではありません。それは貴重かつ不可欠な取り組みだと思います。僕も、いまだ不完全な授業しかできないですが、その改善には真剣に取り組むことにします。)

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 ともかく・・・大学全体の教育環境の見直しの試みは、すべて「水面下」で進行している。大学の経営活動の根幹にかかわることなので、ある程度、成果がでるまでは、なかなか表面化しない。

 静かに、だが確実に。変わることを願う「志」ある大学は、変革の渦中に、今、ある。

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 ちなみに、去年、東京大学でご講演いただいた神保啓子さんが、先日の高等教育学会で、名城大学の試みをご発表なさったそうだ。

東京大学でのご講演の様子
http://www.nakahara-lab.net/blog/2007/09/20_2.html

 題して「コミュニティ・オブ・プラクティスを活かすFDマネジメントの方法論」。

「誰が、誰と連携して、大学としての"新たな教育価値"をつくりだしていけるのか」、そして、そうした価値創造の取り組みを、どのように日常の活動に位置づけていくのか。
 僕個人としては、本発表は、そのことを考える非常によいご発表だと感じた。

 このたび、神保さん、また共著者の池田輝政先生のご好意で、その発表パワーポイントを、このブログで公開させていただけることになった。もしご関心のある方は、ぜひごらん頂きたい。美馬のゆり先生の「はこだて未来大学」でのお取り組みにも、かなり通じるものがあると感じた。

コミュニティ・オブ・プラクティスを活かすFDマネジメントの方法論

はこだて未来大学でのお取り組み
http://www.nakahara-lab.net/blog/2008/03/ict_1.html

 最後になりますが、神保啓子さん、池田輝政先生、この場を借りて感謝いたします。どうもありがとうござました。