新任マネジャーに必要な2つの「行動」とは何か!?

 かつて拙著「駆け出しマネジャーの成長論」で、

「新任マネジャーが陥りやすい最も大きな罠は「目標咀嚼」である

 ということを書きました。

(こちらの著書、各社のマネジャー研修の参考書や、マネジャー予備軍の方々の勉強会などでテキストに使っていますとの御連絡をいただいております。先だっては、静岡県立大学の国保先生らが行っている育休MBAの試みで、テキストに使ってくださり、またNHKさんで「目標咀嚼」という言葉をご紹介いただきました。まことにありがとうございます!)


 他にも様々な「罠」があるのだけれども、新任マネジャーの場合は、ここでつまづくと、他の「罠」にもハマりやすくなる、なると。

 ここでいう「目標咀嚼」とは、「自分の管理する職場の目標・めざすべきところを、相手にわかりやすく理解させて、腹に落としてもらうこと」です。そんなアタリマエのことをと思うかもしれませんが、これがなかなかシンドイものです。

 あなたが「目標を咀嚼させる側の人間(=マネジメント側の人間)」ならば、

 Said=Heard(自分の言ったことは、部下聞かれてるはずだろ!)
 Heard=Understood(聞かれてることは、腹におちてるだろ!)
 Understood=Acted(腹におちてることは、行動でも示せるだろ!)

 と思いたいです。

 が、もし仮に、あなたが「目標を咀嚼される側の人間(=部下側の人間)」ならば、こう思うはずです。

 Said≠Heard(なんか言ってるけど、聞いちゃいねーよ)
 Heard≠Understood(耳にはいっちゃいるけど、ピンとこないね)
 Understood≠Acted(ピンとこないもんは、動けないね)

 嗚呼(笑)。立場の違いによって、目標咀嚼はかくのごとく違った見えをしてしまうのです。

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 ところで「目標咀嚼」には、あるディレンマが潜んでいます。
 それは、「職場の目標とは、多くの場合、会社の目標からブレークダウンしてつくられていること」が多く、「会社から与えられた職場の目標」自体に新任マネジャーが心から納得できている場合も、そう多くない、ということです。

 中には「その目標でえーんかいな」「その目標、そもそも無理ちゃうの?」と思わざるを得ない目標も存在し得ます。それをかかげて、部下を動かさなくてはなりません。 
 すなわち、新任マネジャーは、ここで「自分が決めたのではない、組織が決めた目標を、部下に対して理解させなければならない」というディレンマの中に生きることになります。マネジメントとは、かくごごとく「ディレンマの塊」であり、グレイを生きるのです。

 ですので、まずは「新任マネジャー」が為さなければならないことは、
 「会社から与えられた職場の目標」を自分自身が、よく理解して、咀嚼することです。その上で、それを自分の言葉で話すことができるようにならなければならないということになります。

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 もうひとつ新任マネジャー期に大切な行動も、「駆け出しマネジャーの成長論」の執筆以降に、少しずつわかってきました(研究の成果は「人材開発研究大全」に収録される予定です)。
 これは、研究室OBの関根さん、浜屋さん、斎藤さんらで今年は取り組む、某社での調査の結果です(某社のK課長、T部長に心より感謝いたします)。

 その結論をワンセンテンスで申し上げますと、

 新任マネジャーにとって最も重要なのは「観察」である

 ということになります。

 新任マネジャーは、配属後、自分の職場、職場の人間模様、職場の仕事の流れ、商圏の特性、お客様の特性、などを、あたかも「フィールドワーカー」のように自分の目を駆使し、足で動きまわり、「理解すること」が求められます。

 このような徹底的な「観察」を通して、しかるのちに「職場の目標」や「職場の戦略」を決めていくことになるのですが、こうした情報収集行動は、あまりにも基本的すぎるのか、皆が行っているというわけではありません。なかには、「情報を収集せず、観察もせず、すぐに戦略をたてはじめる方」も少なくないのです。

 もちろん、マネジャーは部下からそうした情報を収集することもできるのですが、やはり新任の場合には、いったんは自分の手と足で動き回り、「現場粘着情報:現場に行かなければわからない、現場ならではの貴重な情報」を収集してこなければならない、ということになるのかもしれません。

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 このように新任マネジャーの駆け出し期の困難や克服のポイントが、徐々にですが、わかってきています。要するに「動き出す前に、現場を観察して、作戦会議をしましょう。現場としっかり向き合って対話しましょうよ」ということなのかもしれません。マネジャーになるような方には「前のめり」の方が少なくないので「動き出す前」が重要になるのかもしれませんね。このことは書いてしまうとあたりまえのことですね。でも、あたりまえのことだけれども、なかなかできない。それがマネジメントかもしれません。

 今後は、こうしたマネジャー研究の知見をもとにしながら、さらに新しいフィールドに挑戦したいと考えています。

 今度、僕が「志ある某社の方々」と話しあい(Tさん、Sさん、貴重な機会へのお声がけをありがとうございます)、某社 × 東京大学中原研の共同研究で挑戦しようとしているのは、

「オリンピックを背景として、人手不足時代に求められるマネジメント:多様な人材を活用するマネジャー」

 に関する研究です。

 言わずもがなですが、「人手不足」が大きな社会問題になってきています。「人手不足」時代には、「採用して、すぐに離職」ではなく「採用して、しっかり定着させ、できれば現場のリーダーとして働いてもらうくらいのマネジメント」が、求められます。

 こちらは、相互にやりたいことを話しあいながら、研究計画を練っている段階ですが、もし前に進めるようでしたら、「世界初?の研究」、しかも「現場に貢献できる研究」にしていきたいと考えています。

 時間に限りがあるけれど
 そして人生は続く