回帰するリーダーシップ研究の最前線!? : どんなリーダー個人が成果を残すのか?

 先だって、人的資源開発論(Human Resource Development:要するに人材開発)の最新のハンドブック(論文集)を読む会が、関根雅泰さん(中原研究室OB)と田中聡さんの主宰で、東大で開催されました。まずは参加して下さった参加者の皆様に心より感謝をいたします。

 人的資源開発の基礎理論から、リーダーシップ開発・メンタリングなどの個別の育成手法についての論文をまとめて読む会でーーあまりに立て込んでいて、僕は中座しなくてはならなかったのですがーーとても勉強になりました。

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 昨日、参加して下さったメンバーの方々で読んだ論文の中で最も興味をもったのは、保田江美さんのご報告なさったSashkin, M. (2010)の論文で、リーダーシップ開発論(Leadership Development Theory)の最前線を論じたものです。

 よく知られていることですが、リーダーシップ研究には、「リーダーが何たるか?」を論じる、いわゆる「リーダー研究(Leader research)」と、そういったリーダーをいかに「育成」するか、というリーダーシップ開発論(Leadership Development Research)の2つがございます。
 前者に比べて、後者の智慧は「圧倒的に足りておらず」、また「歴史が浅い」のですが、この論文は、後者の研究の展開をまとめたものでした。

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 興味深かったのは、

 近年のリーダーシップ研究・リーダーシップ開発研究においては、ふたたび、「リーダーの個人要因」に対して熱い視線が注がれている

 という記述です。

 少しリーダーシップ研究をご存じの方がいらっしゃったら「ははーん!」とくると思うのですが、この現象は、リーダー研究の歴史をひもとけば、「回帰」といわれる現象に近いことがわかります。

 リーダー研究の歴史をひもとけば、その研究の方向性は、つねに変化してきました。古には「リーダーとは個人的資質・生まれながらの遺伝によって決まる」とされていた時代がありました。
 それがのちに、「いや、そうではない!リーダーシップとは「行動」で決まる」という時代に突入し、さらに近年では、リーダとフォロワーの「社会的関係」によって決まる、とされるフォロワー研究、あるいは、「リーダーとメンバーの社会的交換関係」に着目する研究が増えてきています。

 要するに、リーダーシップという現象を、リーダーの「個人的要因」で説明するのではなく、むしろ「リーダーとフォロワー」「リーダとメンバー」という社会的関係から説明しようとする動きです。ワンセンテンスで申しますと、ソーシャルな現象としてリーダーシップを把握しようとする研究群ですね。

 しかし、先だって読んだ論文では、この動きに「回帰」とも解釈可能な状況が生まれているといいます。
 たとえば、リーダーがもつ「モラル」や「倫理」の問題を扱う研究(たとえばAuthetic leaderhip研究)や、リーダー個人の脱線を扱う研究(要するに失敗するリーダーとは・・・・の個人的資質や経験をもつ)が再評価され、かつ増えているというのです。まことに興味深いですね。

 おそらく、こうなってきますと、先ほどは「回帰」と書きましたが、これから起こるのは、そういう事態ではないのではないか、とも感じます。

 ここからは、まったくの個人的予想ですが、今後は「個人的要因」×「フォロワーやメンバーとの社会的関係」の交互作用を扱った研究が増えてくるのかな、と勝手気ままに思いました。
 さらに複雑なモデルを扱う研究が増えてきそうで、戦々恐々です(笑)。でも、結局そうだよな、と思うところがあり、僕にはしっくりきます。

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 というわけで、今日はリーダーシップ研究の回帰の話をしました。

 それにしても「読書会」というものはよいものです。会に出ながら、要するに「僕は学びたいのだ!」と思いました。今はその時間が圧倒的に不足しています。まことに困った事態です。

 2週間後に、また読書会が開催されるようです。次回も、大学の用事でバタバタ走り回っており、フル参加とはいかないのですが、愉しみにしています。

 そして人生は続く

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