イノベーション人材とは「キンキンに尖った一匹狼的人材」ではない!?

 早いもので夏学期の授業・ゼミも、あと、数回を残すばかりになってしまいました。
 爆速中原研(某組織のスローガンのパクリ)では、毎回の研究発表も佳境にはいっており、中原研究室の大学院生の間には、「清々しく、どこまでも続く、疲労感」が漂っている!?ように思います、、、まことにお疲れさまです。

 昨日の大学院ゼミでは、M1の田中聡さんが「イノベーションの実行」に関する英語実証論文を紹介してくれました。Baer(2012)Academy of Management Journal 2012. 55(5)です。
 結論に非常に納得感があり、かつ、分析手法もシンプルで、非常に共感できる論文でした。論文を紹介してくれた田中さんに心より感謝します。お疲れさまです、ありがとう。

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 一般に、イノベーションを生み出していくプロセスでは「アイデアの創出」と「アイデアの実行」という2つのプロセスが認められ、そして、ともすれば、これらは「負の関係」にあります。

 要するに「キンキンに尖った素晴らしいアイデアを生み出すこと」と「そうしたアイデアが実行されること」とは別だということです。そして、ともすれば「アイデア」がキンキンに尖っているだけに、組織内で反発や反感を招き、せっかくの新しいアイデアが実行されない、ということがありえるということです。

 換言するならば、

 キンキンに尖った素晴らしいアイデアは
 「キンキンに尖っているからこそ」
 組織内で支持を得られないということです。

 そんなことを実行したら、我が社の既存ビジネスはどうなるんだ?
 そんなことを、そもそも、できるわけがない!

 と「口角泡飛ばすオッサン」が、必ず、じゃじゃじゃーんと、どこからともなく登場してくる?ということです。

 イノベーション創出に関するこうしたトレードオフはよく知られている事実であり、だからこそ、1990年以降は、イノベーション研究において、アイデアの実行にかかわる政治的なプロセス(要するに、根回し。あのー、部長、うちの部門の若いもんが、ちょっとしたアイデアを思いついちゃったんですけどね、ちょっと、今度の会議で発表しますから、事前にお耳にいれときますよ的プロセス)が、重要だと言う認識が広まることになります(Kanter 1988)。

 こうした問題に関して、この論文は、実証的にこの関係を明らかにしました。何をやったかというと、要するに、

「アイデアの創出」と「アイデアの実行」の負の関係を調整する変数(調整変数)として、個人のモティベーション要因(実行道具性)、個人のネットワーキングスキル、個人の把持するネットワークが存在することを検証した

 ということです。
 日本語使え、わかんねーよ(笑)。

 その道のプロ(誰?)に便所スリッパでスコーンとやられることを覚悟して、これを「ワンセンテンスで超訳」にすると(詳細を知りたい方は原典を読んでください!)、

「すげーアイデア」を思いついちゃった人は、ふつー、アイデアを実行しようと思わないでしょ。だって、正論吐いたり、新しいことを言ったら、組織の中で、袋だたきにされるから。てめー、何、スカしたアイデア披露してんだよ、ヴォケ。
じゃあ、そういう状態を緩和するのは何かっていうと、「すげーアイデアを思いついちゃった人」が「アイデアを実行した方が、いろいろえーことおこるかもと予感をもてること」と、「アイデアを実行することに協力・支援してくれる人がいてくれる」ってことなんですよ。

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 この「発見事実」から、少し、飛躍妄想して考えると、こんなこともいえるのかな、と思います。
 我が国では、よく、「創造性あふれる個人がいない」だの「イノベーション人材が不足している」だの、言われますが、それは違うんじゃないの、と。

「創造性あふれる個人がいない」んじゃなくて、創造性あふれる個人が「報われる制度・組織」になっていない。あるいは「創造性あふれる個人」が、えい、やってみよう!と思える協力者を周囲に探せていない

「イノベーション人材がいない」んじゃなくて、イノベーション人材が「袋だたき」にあうような状況鳴っている。あるいは「イノベーション人材」が「孤立」していて、えい、やってみよう!と思える協力者を周囲に探せていない

 ということです。

 後者に関して言えば、

「クリエィティビティを発揮できる個人」とは「キンキンに尖った一匹狼的人材」ではなく、「キンキンのアイデア」生み出し、かつ、それらを面白がり、協力してくれるような人的ネットワークを持っている人という人、ということになりますね。メタフォリカルにいうならば、イノベーションとは、人々の間にあるのです。

 妄想豊かにすれば、そんなこともいえるのかな、と。

 また、別の角度から妄想豊かに述べるのであれば、

 新商品・サービスの開発をめざして、いくら、「ほにゃららワークショップ」や、「ちょめちょめセッション」をやって、新しいアイデアを創出したとしても、それが、個人にどのようなメリットをもたらすのか、そして、どのような支援者が獲得できるのかということに配慮されていないのならば、せっかく生み出したアイデアは実行されない

 ということです。
「アイデアの創出」と「アイデアの実行」は別の事項、負の関係にあるのですから。

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 今日は、「イノベーション人材」!?について書きました。
 大学院での授業、ゼミは、さらに感動のフィナーレ?に近づいていきます。中原研に今年から入った浜屋さん(M1)、田中さん(M1)、高崎さん(D1)は、慣れない中、大変だと思いますが、どうか引き続き素晴らしい発表を生み出してくれるものと信じています。

 そして人生は続く

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