隣町へのサイクリング

 この数週間、ほとんど休日がなかったので、日曜日くらいは寝ていたかったのですが、愚息TAKUZOがそれを許すわけもなく。

 昼下がり、うつらうつらと、小生、居眠りをしていましたら、TAKUZOが忍び足で近寄ってきます。
 小生の身体をゆすってきたり、鼻の穴をムズムズさせたり、棒で突ついてきたり。

「ねぇ、遊びにいくよ」
「ねぇ、パパ、起きてる?」

 小生、当初は「朝起きられない小学生」のように、しばらくウダウダと抵抗を試みていたのですが、TAKUZOの攻撃があまりにしつこいので、諦めました。

「じゃあ、どうする」

 あーでもない、こーでもないとやりとりをした結果、最近、TAKUZOは自転車に凝っているので、それじゃあ、一緒に自転車に乗ろう、ということになりました。重い腰を何とかあげる、とはこのことです。

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 TAKUZOは、自転車に凝っている、といっても、まだまだ憶えたてで、「ふらふら、酔っぱらいのような運転」です。
 自転車の練習をようやく終えたくらいの段階ですので、連続して1時間以上乗ったことなどは、1度もありません。

 そんな状態で、自転車で「街乗り」するのは、さすがに怖いので、「堤防」を走ることにしました。
 でも、単に自転車に乗るというのじゃ、面白くも何ともありません。「挑戦できる目標」が必要です。
 結局、すったもんだ議論したあげく、「どうせなら、隣町にいる叔母のところまで出かけよう」ということになりました。叔母の家までは約10キロ。今からでかければ、ギリギリ、暗くなる前には帰ってこられるでしょう。「単なる自転車練習」が「冒険」に変わった一瞬でした。

 堤防をすいすいと自転車で走らせます。
 最初は快調。
 僕はTAKUZOの自転車の後で、ママチャリを走らせます。

「ほら、右行きすぎ、左に寄れ、左、左、左!」
「前から歩行者来たぞ、スピード下げろ!」
「ブレーキ!ブレーキ!」

 後から、檄を飛ばします。

takuzo_jitensha_mari.png

 最初は快調だったのもつかの間、だんだんと足が疲れてきて、休憩をとりたいとTAKUZOは何度か言ってくるようになりました。何度か転倒、派手ゴケもしました。ガシャーン!

 そんなとき、僕はTAKUZOに聞きます。

「今すぐ、引き返して、帰ってもいいんだよ。どうする? 自分で決めな。パパはどっちでもいい」

 すると

「絶対にゴールまで行く」

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 結局、大人の自転車ならば30分かけて到着できる距離を、1時間半かけて、叔母の家まで到着しました。

 叔母の家では、ちょっとだけ休憩。
 ZZZ

 しかし、のんびりしているわけにはいきません。日の入りまで残り1時間しかないからです。日が暮れてしまったら、えらいことになります。

 そうですね、大変なのは、これからなのです。
 今きた道を、また自転車で引き返さなくてはなりません。

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 結局、家についたのは、真っ暗になった後でした。
 1時間ちょっとかかりましたが、何とか、家につきました。途中何度か自転車でコケて、ひやひやしましたが、無事、何とか自宅までたどり着きました。

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 道すがら、自転車にのっているTAKUZOをみながら、僕は、いろいろなことを考えていました。

 今から、30年前くらい。
 隣町に自転車ではじめて出かけて、
 途中で転んで、ひざをすりむいたこと。
 砂利道をデコボコデコボコはしったこと。
 はじめて乗った自転車で、
 自分の世界が広がっていく感覚。
 見たこともない通り、交差点に迷った経験。
 真っ暗になる頃、自宅にたどり着いた思い出。
 
 自宅に到着したとき、僕はTAKUZOに言いました。

「自分の乗り物をもつということは、
 "自分の世界を広げる"ということなんだよ。

"自分の世界を広げる"ということは、
自分でやり遂げて、無事に帰ってくるってことだ。
自分のことを自分で守るってことだ」

 TAKUZOはキョトンとしてました。
 わかったんだか、わかんないんだか、よくわからない顔をしましたが、でも、笑顔でした。

 冒険すれば、道中、転びもするだろう。
 転んでも自分で起き上がること、できるかい?

 道中、疲れもするだろう。
 自分のペースで、自分で休憩すること、できるかい?

 帰り道、暗くて不安にもなるだろう。
 でも、ライトで夜道を照らして、無事に帰ってこられるかい?

 瞬きもしないうちに、TAKUZOのサイクリングには、後からコーチする人は不要になるでしょう。そして、自転車ではなく、より早い乗り物に自分一人で乗るようになるのでしょう。そんな日は、遠い将来ではないような気もしました。ま、小生、生き急ぎすぎなのかもしれませんが(笑)

 そして人生は続く。