「雲の上マネジメント」から「言霊マネジメント」へ:マネジャーと言葉

だって(今のマネジャーには)「武器」がないじゃないですか。武器といっても、「昇進」か「言葉」しかないんです。「昇進」でインセンティブを与えることもできるけど、今の時代、「昇進」は厳しい。会社も(数は)絞っているし、そうそう、「昇進」は使えない。「言葉」しかないんですよ。「言葉」でインセンティブを与える。それしか、残ってないんですよ。 (一部、データを修正)

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 先日、あるところで現場のマネジャーの方に、ヒアリングをさせていただきました。その際、印象に残った言葉が、上記の内容です。

 このマネジャーの方は「マネジメントの武器」というメタファで、究極的に「職場メンバーのモティベーション」は2つの要因によって左右される、とおっしゃっています。ひとつは「昇進」そして、もうひとつは「言葉」です。

 前者は具体的にいえば、報酬(給料)とか、ポジションで人を動かすこと。後者は、日々の声かけを積極的に行っていくことと考えられるでしょう。

 その上で、自分には、もう「打ち手=武器」は少ない、とおっしゃっています。特に「昇進」の武器は、今のご時世、なかなか使えない。また、前者が機能するのなら、それにこしたことはないけど、それだけでは難しい。だからこそ「言葉」でマネジメントを行う必要があるのだ、とおっしゃっているのです。
 日常の朝昼晩に、彼が、職場をまわり、部下に、なるべく声をかける。そんな地道な努力で、職場をマネジメントしていらっしゃいます。

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 一方、同じ会社の別の職場で伺ったお話は、それとは、「全く別世界」のことを語っておられて、また、興味深いものでした。
 そのマネジャーの方は、自分が入社した当時、つまりは25年前くらいの、職場のマネジャー(自分の上司)を振り返って、下記のように語ります。

 25年前のマネジャーなんていったら、「雲の上の存在」。部下とは、話はしませんな。よばれたら、そら、まて、直立不動ですわ。もう、えらいことですな。でも、今は、時代は変わりました。それじゃ、店が回らないし、成果でませんな。「雲の上」いたら、仕事にならんのです。(一部、データを修正)

 ここで印象深いのは「雲の上」というメタファと「直立不動で、話はしない」という事実です。それと、先ほどの世界を比較してみましょう。
 わずか25年間のあいだに「雲の上マネジメント」が、「言霊マネジメント」に変わったことになります。そこには「隔世の感」があります。

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 先だって、あるメディアのインタビューを受けた際、究極的に、これからのマネジメントに求められるものは何か、ということを質問されました。

 僕が、迷うことなくお答えしたのは「言葉へのリスペクト」という回答です。

 組織の目標をうまく咀嚼すること。雇用形態の異なる様々な人々のやる気を鼓舞すること。部下の仕事にフィードバックを行うこと。部下を内省させること。他部門や他の会社、最近では国籍の異なるコラボレータと交渉をすること。自部門に資源動員を行うために、ボスと交渉すること。

 そういうことを行っていかなければならないときにマネジャーの方々が「言葉をどれだけリスペクトしているかどうか」。自分の言葉の強さや重みに、どれだけセンシティビティをもっているかどうか。「言葉によって何かを動かすことを、どれだけ重視して、これまで実践してきたかどうか」。
 逆にいうと「背中をみてついてこい」「すべこべいわず黙ってやれ」という「非言語的な仕事観 / 職場観」から、いかに「脱出」できているかどうか。そういうノスタルジーあふれる「かつての仕事観 / 職場観」をいかに「相対化」できているかどうか。
 これからは、おそらく、そういうことが大切になってくるのだろうな、と思うのです。

 現代の職場のマネジメントには、言語能力がこれまで以上に必要になっている、といっても、それは、「飲み会で発揮される饒舌さ」ではありません。
 なぜなら、ノミュニケーションとは、「ごくごく限られた雇用形態にしか作用しないコミュニケーション・説得技法」なのです。高い言語能力といっても、そういうものを求められているわけではありません。

 むしろ「饒舌」でなくてもいいのかもしれません。
 しかし、様々な異なる背景をもつ人々と向き合い、聴くこと。ひとつひとつ言葉を選ぶこと。場合によっては、相手の言葉を引き出すこと。
 これからさらに求められていくのは、「雲の上からの言葉」ではなく「地に足のついた言葉」であるような気がします。

マネジャーに期待されてるのは「翻訳機」ですわ。現場には、いろんな人がいるんですわ。メッセージを、かんでふくめて、わかりやすく伝えるんです。わかりやすくです。問いかけ、時にはつめて、そそのかし、笑ったり、一緒に、感動したりして、現場を動かすんです。そういうこと、やってくれ、いうことです。
(一部、データを修正)

 現場の方々の言葉は、いつも含蓄にとんでいます。
 そして人生は続く