「組織開発」と「職場のダイバーシティ」

 組織開発という言葉ほど、人によって、異なるイメージをもつものはありません。

「いわゆる、組織開発をいたしまして・・・」
「組織開発的な要素を入れて見ました」

 という言葉を、時に、実務家の方々から聴きますけれども、そこで紹介されている実践は、恐ろしいほどかけ離れていることも希ではありません。もちろん、それは間違っていることではありません。組織開発という概念自体が、いわば、何でも包み込むことのできる「風呂敷」のようになっているのです。

 組織開発について、アカデミックな世界で、もっとも利用・引用されてきたのは、下記のBeckardの定義やFrenchの概要であるような気がします。

「行動科学の知識を利用し、組織過程に計画的に介入することによって、組織の有効性と健全性を増大させようとする、Topによって管理された計画的ならびに、全組織的な努力過程のこと」(Beckard 1969)。
 
「(組織開発とは)組織の問題解決過程や、再生過程を改善するための継続的な努力である。その特徴は、とりわけ変革推進者や行動科学のセオリーやテクノロジーのたすけをかりて、組織文化を効率的かつ協働的なものにしていくことによって、所期の目的を達成しようとするところにある」(French & Bell 1973)

 うーん(笑)。。。
 わかるような、わからぬような。
 ここでは、ざっくりと、誤解や批判を恐れず、要するに、ひと言でいうならば、

 組織開発とは、

「組織の目的を達成するために、"組織メンバーが協働できるようにするための介入・努力」

 のことです。

 さらにざっくりいうのならば、要するに、

 組織のメンバーを「組織」として、円滑に働けるようにすること

 です。

 組織開発の理論的分類といたしましては、1)Tグループ系、2)サーベイフィードバック系、3)組織デザイン系、4)ポジティブ系など、様々な組織開発の流派・理論がありますが、ここでは、それには触れません。

 具体的には、

 1.人が「組織」としてまとまりをもって働けるようにするための介入プロセス
 2.組織の中のコミュニケーションを円滑にする努力プロセス
 3.組織の中に、ネットワークや信頼といった社会関係資本を発達させるプロセス

 を含みうる諸努力を、組織開発と考えてもよろしいかと思います。

 大切なのは、こうした物事が生まれた社会背景です。
 少し想像すればわかるように、こうした介入・努力が、手続き・ツール・ルールとしてまとめ、組織開発という呼称を得るまでに至るまでには、こうした物事が発展した国・地域に(米国ですが)、

「人を集めても、メンバー同士が多様でいて、なかなか、組織として動けない、まとまらない」

「多様性ある人々をまとめるためには、メンバーの自発的な相互作用にまかせていても難しく、外的な介入を必要とする」

 といった社会現象が横たわっていることがあります。

 組織開発の歴史は実は、非常に古いものですが、上記のような社会的背景をもつ国や地域「でこそ」発展したものなのです。

 それは「メンバーが均質で、メンバーの自発的な相互作用が確保されており、かつ、ほおっておけば組織としてまとまる」ような場所、すなわち、「かつての我が国」などでは、もともと、必要とされていませんでした。
 ですので、組織開発の、日本における紹介や受容は、限定的です。
 経営学の教科書には、ごく短く、組織開発が組織デザインと対照されて紹介される場合があります。論文などは、1980年代の一時期にそれが紹介されましたが、あまりブームになったとはいえませんでした。

 しかし、この「状況」が少しずつ変わってきています。
 すなわち、組織開発が、かつてよりも注目されるように、組織自体、社会自体が変化しかけている。もちろん、すべての組織・職場に変化が訪れているわけではないですよ。ただし、マクロにみれば、この数十年間で、わたしたちの働き方には、様々な変化が訪れました。

 すぐに想像がつくのは、現代の組織・職場では、雇用形態が多様化しつつあります。組織によっては、従業員の国籍や文化背景も多様になっているところもあります。要するに「組織・職場のダイバーシティ」がかつてよりも、格段に高まる可能性が出てきているのです。
 というわけで、近年、ここ数年、組織開発という言葉が、人事・人材開発の用語として、少しずつですけれども、人口に膾炙するようになってきているというわけです。

 連休明けは、少しだけ、この組織開発についてのお話を、今日、明日と、したいと思います。

 そして、明日に続く・・