「学習効果」は「学び始める前」に既に決まっている!?

「学習効果」は「学び始める前」に既に決まっている

 という文章を目にしたとしたら、少なくない人が、一瞬「おやっ」と思うはずです。
 一般には「学習効果=学んだ効果」とは、「教室・研修室・ワークショップなどで学んではじめて生まれるので、学習効果は、その場のクオリティがすべて」と考えられていますね。
 こうした認識に立ちますと、先ほどの文章「学び始める前に、すでに決まっている」とは、「おやおや、変だな」ということになります。

 しかし、近年の学習研究の世界では、「学び始める前」の重要性がよく指摘されるようになってきています。「あらかじめ既に決まっている量」が「すべて」ではないにせよ、「学ぶこと」がなされる前から、勝負はすでに決まっているのです。むしろ、「事前に決まってしまっている量」が、我々の想像以上に、相当多いことも指摘されている。アタリマエといえば、アタリマエなのですが、以前よりも、そこに対する認識が高まりつつある、ということですね。

 比喩的にいうと・・・

 教室・研修室に来る前に、勝負は、始まっている

 ということになります。

 具体的にいいますと、

「どのような社会的属性やニーズをもった個人が、学びの現場に、どのような目的意識をもって望むのか」
「どういう知識をもった個人が、どのようなモティベーションをもって、学びの現場に望むのか」

 といったような「学習者のレディネス」「学習者の社会的条件」によって、「学習効果が変わってしまう」ということです。
 もちろん事前に決定してしまうのは「すべて」ではありません。しかし、少なくない量が、事前に影響を与えてしまうというのです。

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 従来の学習研究は、こうした「学習者のレディネス」「学習者の社会的条件」といった、いわゆる「学びの初期条件(Initial setting)」については、あまり十分な検証がなされていませんでした。
 むしろ、それは「異ならない」ことを「前提」にして研究がなされる傾向がありました。いくつかの指標を用いて、学習者の統制を行い、後続する学習に影響を与える要因が「取り除かれたこと」ことを「前提」にして研究がなされました。

 しかし、緩やかにではありますが、こうした動向も変わりつつあります。メインストリームは知ったことではないですが、少なくとも僕の注目している研究は、ここへの配慮が見られるようになってきています。

 学習研究者が、街に出て、様々な実践的研究プロジェクトを主導するにつれ、あるいは、政策と連動した社会的プロジェクトに、学習研究者が参画しはじめるにつれ、また、学習のアカウンタビリティを示すことに対する世間のニーズがあがるにつれ、このことが、緩やかにですが、かわってきました。

 主に、学習研究者がリサーチのフィールドにするのは、都市のプロジェクトであることが多いと思います。そして、そこには、多様な社会背景をひきずり、「文化の衣」をまとった、多種多様な人々がいます。ハイモティベーターもいれば、ローモティベーターもいる。

 そうした人々に相対し、学びのあり方を考えるとき、「学びが起こる前」の条件について考慮に入れる必要が増してきたのだと思います。

 経営学習研究としてみれば、研修などのフォーマルな教委機会の学習効果が、いかに「インフォーマルな職場環境」に左右されるかが近年指摘されるようになってきています。

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 少し考えてみればわかることですが、上記のような項目のの中には、「変えようと思えば、変えられるもの」と「なかなか変えられないもの」があることに気づかされます。

 たとえば「学習者の目的意識を高める」とか「学習者のニーズを把握する」とかは、事前に、ある程度は行えることなのかもしれない。
 あるいは、「学習者の知識レベルを一定まで高めておく」とかに関しても、介入・統制できないことではない。たとえば、「反転授業(The Flipped Classroom)」などを用いることも、その一計かもしれません。
 一方、学習者の社会的属性や文化的背景といったものは、変えることはほぼ困難です。

 世の中には
 変えることができるもの
 そして
 変えることができないもの
 があります。

 そして概して
 変えることができないものは
 変えることができるものよりも
 根が深く、影響は大きいものです。

 しかし「変えることができないものの存在」を目にして、諦めてしまえば、それで「終わり」です。
 スラムダンク風にいえば

「諦めれば、そこで試合終了」

 です。

 手持ちのリソースを勘案し、何をして、何ができぬかを考えることが大切になります。

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 今日の話題に関連して、最近、僕は、よく思うことがあります。
 それはネットやスマホが、数多くの方々に利用頂けることによって、やろうと思えば、「学習者とのコミュニケーション」が、以前よりもきめ細かくできるようになってきたことです。
 つまり、学習のサプライサイドが、事前あるいは事後に、学習者とコミュニケーションをとり、学習効果を高めたり、持続させるべく働きかけることができるようになってきた、ということです。

「どのような社会的属性やニーズをもった個人が、学びの現場に、どのような目的意識をもって望むのか」
「どういう知識をもった個人が、どのようなモティベーションをもって、学びの現場に望むのか」
 
 このうち対処しうるものを実現するために、「学習者とのコミュニケーション戦略」を策定・実行し、事前にレディネスや初期期待を高めておく。
 事前に、学習者同士の関係をすでにつくっておいて、離脱を押さえる・・・などなど、やろうと思えば、いろいろ可能になることはあります。

 勝手気ままに、個人的な見解を無責任に述べますが、今後は、この分野が伸びていくように思います。

 学習者とどのようなコミュニケーションをとるのか
 学習者同士をいかに関係づけるのか?
 学習者の事前の目的意識やモティベーションをいかに高めるのか

 ここに実践的智慧を蓄積したプロジェクトが待たれます。

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■2012/11/11 Twitter

  • 23:51  「プレイフル・ラーニング:ワークショップの源流と学びの未来」(上田信行・中原淳著、三省堂)に中原が執筆した「プロローグ」「エピローグ」を公開します。本の全貌がご理解いただけると思います。できますれば、「いいね!」を御願いします(ペコリ) http://t.co/1XZF16DW
  • 22:10  「プレイフル・ラーニング:ワークショップの源流と学びの未来」(上田信行・中原淳著)はこんな本!?。この30年の学習研究の歴史、ユーザー参加型ラーニングイベントの技やり方、金井壽宏(@tkanai1954)先生との鼎談も収録。http://t.co/vWZ0K9p5
  • 22:06  今年最後で強烈なイベント「Toyful Meetup 2012」が12/8-9奈良県吉野で開催されます。Toy(良質な問い)が満ちている会(Ful)になる予定です。Facebookページ完成、募集開始直前です。「いいね」よろしくです! http://t.co/ulpTLpeB
  • 21:44  タイムスリップ写真、面白い。同じカットで、同じポーズで、同じ人が、異年齢。やってみたいな> 「海外で話題の『タイムスリップ写真』がスゴい!(画像 32枚)」http://t.co/htjm8oNX
  • 19:13  仕事を「こなす」のは避けた方がいいね。どんなにささやかであっても、仕事のなかで「実験」をしよう。どんなときでも、こっそりと、自分だけが知っている「プチ実験」を! 「こなす仕事」で能力が伸びることは、あんまり、ないよ>中原研院生諸氏
  • 17:38  少し前になるのですが、ISSEY MIYAKEのデザイナー、宮前義之さん(@ymiyamae)の情熱大陸、ご覧になった方いらっしゃいますか? 完全に見逃しました・・・。興味津々。
  • 14:12  NPO法人 Fathering Japanのブース、盛り上がっていました。父親による、本の読み聞かせ。「よい父親」ではなく「笑顔の父親」を増やす、という組織のキャッチコピーがいいね。 http://t.co/VwBD7JuI
  • 13:26  北海道ではアイスはなかったですね。寒いから?さっき思い出したのですが、ポン菓子は、ドンと呼ばれていました。RT @oyasama20 私の田舎は、宮城県ですが、夏によくアイスクリーム売りのおじさんが来るのを楽しみにしていた事を覚えています RT ポン菓子おじさん
  • 13:03  ポン菓子製造機。このあと、爆発した。昔は、よくリヤカーひいたおじさんが、これを持って、どこからともなく住宅地に現れました。子どもがそこに群がってた。北海道だけ? http://t.co/yWLZGSIj
  • 12:39  ファーマーズキッズフェスタ参加中。各地の名産屋台、ワークショップなど。楽しい。 (@ 日比谷公園 w/ 6 others) [pic]: http://t.co/72BJoes8
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■2012/11/09 Twitter

  • 12:53  揺れますた? 研究室の本棚が揺れてるような・・・。小生の三半規管の乱れ?
  • 12:38  その解釈は、とってつけた感あるよねぇ。「とってつけ王子」って言われちゃうよ。
  • 12:11  入山先生、じっくり勉強させていただきます。感謝を込めてRT @akieiriyama ありがとうございます!ぜひご感想などおきかせください。RT 入山章栄 (著) 「世界の経営学者はいま何を考えているのか http://t.co/8GsaVJ37  [in reply to AkieIriyama]
  • 12:02  斜め読みさせていただきました。面白い。これからじっくり拝見させて頂きます>入山 章栄(@AkieIriyama) (著) 「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」 http://t.co/RGpd2xAk
  • 09:40  【ブログ更新】学び手に、あなたの「声」は届いていますか?: http://t.co/9ylYnDDq
  • 06:34  なるほど、確かに> つまみは宅配、職場で一杯、広がる「オフィス宴会」:安い、途中参加しやすい、確実に1次会で終わる(日経)
  • 00:00  企業人材育成を「歴史的」にとらえると、少し違った見え方ができますね。「変わらない」ものなど、何一つない。そして、「永遠にゆるぎない」と思われているものが、実は、歴史に呼応して、そのつど、そのつど、歴史的つくられ、導入されたシステムであることがわかります。
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■2012/11/08 Twitter

  • 23:55  OJTが普及して、半世紀立ちました。半世紀前とは、産業のあり方も、企業の競争優位の源泉も、雇用システムも、変化しています。仕事経験が能力形成に果たす役割は大きいことは言うまでもありませんが、それでも、まだ、今までと同じ人材育成システムで、対応可能なのでしょうか。
  • 23:52  OJTが「絶対に揺るぎない普遍の教育システム」とは必ずしも言えません。「教育訓練としてのOJT」の基盤がつくられるのは戦後1940年代の企業内訓練定式化期。普及・制度化されるのは1960年代−70年代です。それは戦後の高度経済成長、工業化社会に呼応した教育システムとも言えます。
  • 17:14  体調絶不調。首・肩・腰・喉・すべてアウト、もうダメポ。でも、仕事終わらず、やってもやってもどんどんと積み上がる。久しぶりに追い込まれてるかも。すべて放りだしたい。弱音・弱気、恐縮です。
  • 15:32  「プレイフルラーニング : ワークショップの源流と学びの未来」、無事脱稿。僕の手を離れました。12月中旬刊行予定です!どうぞお楽しみに! http://t.co/ZScvcCZp
  • 08:59  僕も今朝、ひとつ書評を書きました。これも「業」です。RT @takaotakashi: 私も小さいときから読書感想文が苦手。そんな私が今、書評の原稿を書いているのはきっと業かなにかだと思います(^-^;)。 RT 読書感想文http://t.co/deRnVkeQ
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