イノベーションを実現に導く「まっとうな理由づけ」!? : 武石彰・青島矢一・軽部大(著)「イノベーションの理由 -- 資源動員の創造的正当化」書評

 ちょっと前のことになりますが、武石彰・青島矢一・軽部大(著)(2012)「イノベーションの理由 -- 資源動員の創造的正当化」(有斐閣)という本を読みました。「イノベーションの実現プロセス」に関する定性的な探究をつづった研究書です。

 本書において、イノベーションとは「経済成果をもたらす技術革新」であるとします。注目するべき要素は2つ。イノベーションを構成する要素は「技術革新」であるだけでなく、「経済効果をもたらす」ということですね。

 特に、後者の「経済効果をもたらす」という部分が大切なところです。「経済効果をもたらす」ということは、「技術革新」が単なる「新たなアイデア」であるだけではなく、それが「生産プロセス」に結びつけられることを意味します。

 具体的にいえば、「工場をつくる」とか、「販路をつくる」とか、そういうことでしょう。
 そして、そうしたものをつくりだすためには、誰かひとりが頑張るわけにはいきません。組織内部において「ヒト・モノ・カネ」の「資源動員」が革新に対して行われる必要があります。

 そして、その「資源動員」のためには、組織内部において、みんなを説き伏せるだけの「まっとうな理由」をつくりだすことが必要です。著者らは、これを「創造的正当化」とよび、「創造的正当化による資源動員」に着目した、イノベィティブな「イノベーション論」を、本書において展開します。まことに面白い部分に着眼なさるな、と思いました。

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 しかし、少し考えてみればわかることですが、この「経済効果をもたらす資源動員」「それを可能にする創造的正当化」というのがまことに難しい。

 それは、イノベーションの特質 - 革新性と不確実性 - という2つの特色からみちびかれる論理的帰結です。

 すなわち、イノベーションとは、誰もみたこともない新しいものであり(革新性)であり、かつ客観的な経済合理性が予測できない(不確実性)であるゆえに、組織内部において「抵抗」や「反対」にあいやすいのですね。人は、見たこともないものには、不信感を持ちやすい。そして、客観的に利得を予測し、主張できないものを - ともすれば、自分のオペレーションや事業への資源配分をおびやかすものを - 許すことはできないでしょう・・・一般には。

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 本書では、「革新」に対して、組織内部においていかに資源動員を行い - すなわち「いかに具体的な製品やサービスとして、生産ラインを動かす資源動員を、どのような創造的正当化によって可能にしたのか」を、大河内賞(生産工学、生産技術の研究開発のイノベーションにおくられる賞)を受賞したイノベーションのケースから事例研究しています。

 もっとも興味深いのは、大河内賞を受賞した数十のイノベーションのうち、イノベーションの芽がではじめた当初、「組織からの支援があったもの」は少なかった、という事実。場合によっては「組織からの抵抗・反対」を受けたものの少なくなかったということ。
 そして、それを説き伏せるために、「組織外部の支援者」などを巻き込んだり、連合をくんだり、助言・情報提供してもらいながら、創造的正当化を行った事例も存在した、という事実です。

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 俗にいえば、

 組織内部の人には、内部から声をあげても、なかなか響かない。
 組織外部の諸力を利用することで、内部を動かす

 ということでしょうね。

 個人的には、イノベーションとは「技術革新」が「創造的」であるだけではだめで、「正当化 - 組織内部を動かすまっとうな理由付け」も「創造的」でなければならない、という指摘が、非常に印象的でした。
 従来のイノベーション論は、イノベーションを促す要因を、「個人の資質」ないしは「個人に与えられた資源」に帰結するか(個人レベル)、あるいは職場や組織のルール、風土、リーダーの振るまいなどに帰結するか(職場・組織レベル)、経営者のコミットメントや理解に求めるか(経営者レベル)、ないしは国家の法整備・経済政策に求めるかであった思います。

「創造的正当化」という視点とは、非常に興味深い視点だな、と思いましたし、また、そのプロセスを明らかにするとは、定性的な事例研究の手法が活きるな、とも感じました。

 あなたの組織で生まれた「イノベーションの芽」・・・
 実現に向かっていますか?

 躓いている事例もありますか?

 それは、
 技術革新のつまづき?
 それとも
 創造的正当化?

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■2012/10/22 Twitter

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