家庭医の学びと成長

 土曜日 - ていうか、仕事です。

 朝、研究室へ。先週忙しくて全く身動きとれなかったので、たまっている仕事を全速力でこなします。
 遅々として進まないのですが、シコシコと論文も書いています、ていうか準備をしています。今後のロジックいかんによっては、もう一回、統計、再分析だな、、、再分析の結果によっては、ロジック組み替えだな・・・つーか、無限ループじゃね? いつ終わるんだ?(涙)。

 頑張ります。

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 午後、東京大学で開催されている「若手家庭医のための家庭医療学冬期セミナー」に参加しました。今回セミナーを主催なさっていた松井善典先生のお招きでした。ありがとうございました。

日本家庭医療学会若手家庭医部会
http://jafm.org/wakate/

若手家庭医のための家庭医療学冬期セミナー
http://jafm.org/winter/index.html

 僕は、医療に関しては全くの「門外漢」ですので、下記はそれを前提に読んでいただきたいと思います。

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 まず、家庭医とは、1)疾病臓器、2)医学的技能の専門性にとらわれず、患者ならびに地域住民の健康をケアするお医者さまのことだそうです。

 この若手家庭医部会は、全国で家庭医療を実施なさる先生方の集まりとお聞きしました。セミナーは、今年で4回目。近年は、特に「医者の学び・成長」といったことが、多くの方々の関心になっているそうです。

 家庭医は、通常、地方の診療所に勤務します。家庭医の仕事の中核は、もちろん診察・治療ですけれども、その他にも患者教育、看護師・コメディカルのチームビルディングや人材育成、後輩の指導など、「学び・成長」に関する仕事が多いそうです。

 しかし、こうしたことは、伝統的な医学部ではあまり教えられていないそうです。加えて、家庭医は地方の診療所で離れて勤務していますので、学習機会を得ることがそもそも難しいようです。
 何となくですが、なぜ家庭の先生方の間で「学び・成長」がテーマになる理由が理解できた気がしました。

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 セミナーでは、東京大学 医学教育国際協力研究センターの大西弘高先生の講演「家庭医の学びに必要な教育・学習理論」を聴かせていただきました。ご講演の内容は、教育・学習理論の基礎に関するものでした。
 なるほど、医学教育の視点からすると、それぞれのセオリーが、このように語られるのか、と非常に興味を持ちました。

 大西先生のお話の中で、特に興味深かったのは、

 医師の仕事においては、突如として降りかかる難題の解決の前に、備を行うことができない

 基本的には、一つ一つの治療のエピソードを、大事に自分の学びに活かすしかない

 というお言葉でした。

 ドナルド=ショーンの省察的実践ではないですけれども、患者の疾病の状況は刻一刻と変化します。そのときどきに省察を行い、ベターな選択を行うことが医師の仕事ではないか、と思いました。もし、仮にそうだとすれば、そこで必要とされる知識・スキルは、どのように獲得されればよいのか。
 また、医療に対する信念や態度(Attitude)といったものは、どこで形成されるものなのか、興味がわきました。

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 その後は、ワークショップなどに参加しました。
 ワークショップには、1)家庭医の理念をいかに理解させるか、2)診察場面をビデオ撮影してリフレクションを促す、といった事例がありました。
 若いお医者さんたちの会話を聞きながら、僕が、このワークショップを実施するのだとしたら、どのようにデザインするだろうか、とずっと考えていました。
 本当は、最後まで参加していたかったのですけれど、次の会議が迫っていたので、途中で中座しました。

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 今回、こうした場に参加させていただいて、僕は医学には全くの「門外漢」ですけれども、家庭医の学習・成長を考えるためのいくつかのヒントは、企業人材育成研究、ワークプレイスラーニング研究にもあるのではないか、と思いました。

 たとえば、家庭医の労働環境は、ジュリアン=オールの描いたコピー機修理工の労働環境と似ているところがあります。あるいは、IT業界のSEの労働環境にも似ていますね。おそらく、独力で内省を行うことが非常に難しい環境なのではないかと推察します。
 分散環境において、知識やスキルを共有するためには、どのように行えばいいでしょうか。そのものズバリの「答え」が、学習研究にあるわけではないですが、考えるきっかけはあるかもしれません。

 また、指導医と研修医の関係は、OJT研究やメンタリング研究にヒントがあるかもしれません。

 家庭医の理念をいかに共有するか、という問題は、去年のLearning barで高津さんがお話しした内容にヒントがあるように思います。

 また、どのような組織(病院)であると、成長実感が持てるのか、内省が促されるのか、ということは、今まさに僕が書いている論文そのもののようにも思えました。

 もちろん、企業と病院では、全く違いますので、どこまで応用できるかはわかりません。無責任に言い放っています。

 でも、若いお医者さんたちの言葉を聞いていますと、どこかで聴いたことのある台詞が、よくでてくるんです。

「最初は自主的な研究会を開催したけど、なかなか継続しない・・・どうやって継続すればいいんだろう」

「指導医自身が、学んでいないし、成長しようとしていない。こういう指導医のもとについた研修医はどうしたらいいのだろう?」

「研修医に、経験を積ませたいのだけれども、適切な経験がない。どうしたらいいのだろう」

「経験だけで学習させようとすると、系統的な知識を獲得させることが難しい。どうやって、体系的かつ構造化された知識を獲得させればいいのだろう」

 これらの台詞、どっかで聴いたことありませんか?

 企業で、現場のマネジャーが同じようなこといっていませんでしたか?
 人材育成の担当者が悩んでいませんか?
 そして、学校でも、同じようなことを現場の先生方が悩んでいるとは思いませんか?

 結局、みんな悩みは同じなのかもしれないな、と思います。

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 ともかく、医療の世界でも「学び・成長」がキーワードになっているというのは、大変嬉しいことです。明日のセッションでは、「家庭医の学びの共同体をつくろう」というのが、セッションのテーマになっているようです。

 僕自身、研究をしていると、「自分の研究って、本当に、誰かの役に立つんだろうか、誰かに届きうるものなんだろうか」と思うこともなきにしもあらずです。でも、今日は、新たな希望を見ることができました。ご招待いただいた松井先生に心より感謝いたします。ありがとうございました。

 そして人生は続く。

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「ダイアローグ 対話する組織」(中原淳・長岡健共著)が、いよいよダイアモンド社から刊行されます。
 発行は2月26日、店頭には都内大手で2月28日・3月1日あたりから並ぶ模様です。僕自身、その日が何より待ち遠しいです。

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 アマゾン、Yahooブックス、BK1などのネットの書店では、既に登録され、予約がはじまっているようです。

 ぜひ、ご一読いただき、ご感想をお寄せいただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

――――ダイアローグ 対話する組織 目次――――

■はじめに 「対話」のもつ可能性
 
 
■第1章「伝わらない」組織
 導管メタファーからの脱却に向けて

・なぜか「伝わらない」職場コミュニケーション
・組織が抱える悩みに共通する問題とは
 「わかるんだけど、腹に落ちない」
  一方通行のコミュニケーション
・「後はメールで」メール文化の危険性
・失われゆく企業文化
・ビジネスの現場を支配する導管型コミュニケーション
・導管メタファーというコミュニケーション観
・教育現場の原風景――導管型コミュニケーションの典型例
・情報化の進展に導管メタファーが果たした役割
・人の変化を起こすコミュニケーションとは
・導管メタファーでは「伝わらない何か」
・情報の移動から人の変化へ
・ストーリーテリングの効用と限界
・ストーリーで語ることで「伝わる」もの
・人間の知的活動とストーリー
・人はストーリーで理解する
・モノローグ・ストーリーテリングの限界
・組織における対話の重要性
・運動会と飲み会で思いは共有できるか
・緊密なコミュニケーション=よい職場、という幻想
・対話(ダイアローグ)というコミュニケーションの可能性
 
 
■第2章「対話」とは何か?
 社会構成主義的なコミュニケーションの理解と実践

・対話が求められるビジネス環境
・早く走る時代から、深く考える時代へ
・対話へのアカデミックな視座
・意味が人の行動を方向づける
・人はコミュニケーションの中で意味を紡ぐ――社会構成主義
・客観主義、主観主義・・・対話の位置づけ
・対話というコミュニケーション行為
・対話とは、聞き手と話し手が行うコミュニケーション行為
  「雑談」とは、どう違うのか
  「議論」とは、どう違うのか
・議論の限界と対話の可能性
 パブリックカンバセーションプロジェクト
・対話が生み出す理解の相乗効果
・他者に語ることで、自分自身が見えてくる
・自由なムードを保ちながら互いの違いを理解する
 
 
■第3章「対話」が組織にもたらすもの

・組織にとっての対話の意義 - 三つの効果
・協調的な問題解決が可能になる
・多様性に摩擦は付き物
 「議論」で協調的な問題解決は可能か?
 「問題解決」から「問題設定」へ
 「突貫工事のエキスパート」の悲劇
 「対話」による問題解決が根づくトヨタの事例
・知識の共有
 本当に必要な知識は流通しているか
 なぜ知識の共有は困難なのか
 知識共有と経験の語り合い
・知識共有はネットワークとして達成される
・対話による知識共有の意味
・ネットワーク構築が効果を発揮する
 アサヒビールの事例
・組織の変革
・組織を動かす見えない力
・組織文化は日常に根ざす
・語り合うことを重視するデンソー・スピリット
・変革を誘発することへの意識
・実践と対話を結びつける花王のワークショップ
・対話による組織変革にひそむ問題
 
 
■第4章「対話」による新たな学び
・対話をめぐる知的探求の旅
 から見えてきたもの
・対話による「変容のプロセス」こそが、学びの本質
・オープンなコミュニケーションの実現に向けて
・効率的なコミュニケーションと
 緊密なコミュニケーションの問題点
・価値観共有、主体性発揮、そして「第三の道」へ
・成熟した大人の学びの実現に向けて
・ビジネスパーソンにとっての学びとは?
・Leaning bar(ラーニングバー)での新たな学び
・学びのサードプレイスをつくる
・サードプレイス(第三の場所)という概念
・インフォーマルでパブリックな「学びの場」
・対話」による新たな学びの可能性を信じて


■おわりに――ダイアローグ・オン・ダイアローグ