知識統合、知識構築、そして知識創造・・・何が違うの?
今日は学習科学の本読み会でした。国内の学習科学に興味のある方々と一緒に、「The Cambridge Handbook of Learning Science」という本を読んでいます。
この本、いい本だと思いますよ。これだけハンディに学習科学のすべての知見がまとまっている本、今までなかったのではないでしょうか。もっとも最近では、日本語でもよい本がでていますけれども。
ちなみに、当日研究会で用いたレジュメはここからダウンロードできますので、雰囲気を見てみてください(研究会幹事の三宅君がこのページを制作してくれています)。
ダウンロードはこちら!
http://www.nakahara-lab.net/com.html
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今日、一番面白かった議論は、Knowledge Integration(知識統合)と、Knowledge Building(知識構築)という二つの概念の違いについて、でした。
知識統合と知識構築、これらは、学習科学にとっては非常に重要な「鍵概念」ですね。
言うまでもなく、前者はカリフォルニア大学バークリー校のマーシャ=リンさん(女王)が主張している概念。後者は、トロント大学のマリーン=スカーダマリア&カール=ベライターさんらが唱えています。
この2つの概念の違い、皆さんでしたら、どのように説明をしますか?
なんか大学院入試とかにでそうな課題ですね。こんな暗記問題、でないか・・・。
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まず、「知識統合」に関しても、「知識構築」に関しても、あるひとつの部分に関しては共通しています。なんでしょうか?
どちらも、「既存の手持ちの概念を、再構成して新たな意味を見いだす」ということから派生した概念だということは、全く変わりません。これが、いわゆる最小公倍数ですね。そして、これは認知心理学のテーゼでもあります。
ただし、若干の差異がないわけではない。
「知識統合」には、「既存の手持ちの概念が複数あったときに、それらを一貫して体系的に説明できるようになる」というようなニュアンスがあります。
それに対して、「知識構築」に関しては、「既存の手持ちの概念にビルドオンするかたちで、新たな意味をつくりだす」というニュアンスが強調されます。
「うーん、微妙」「えっ、聞き逃したよ、違いは何だって?」っていう「ツッコミ」が聞こえますね。そんなに変わらないわな。でも、違うんだよ。
そういうものなんです。
この二つの概念の違いは、いわゆる「家族的類似性」といっていいかもしれないね。「双子みたいに似ているんだけど、ちょっと耳の穴のあたりが違うなぁ」みたいな。
でも、ここからがオモシロイのですが、この「ちょびっとの概念の違い=耳の穴の違い」が、マーシャ=リンさん、スカーダマリアさんらのプロジェクトのキーコンセプトとして取り込まれ、反映されたときには、全く違ったカタチをつくりだしてしまうのですね。
「コンセプトは似ていても、カタチは違う」・・・これがオモシロイところです。
マーシャリンさんも、スカーダマリアさんも、どちらも「インターネットを使った議論を通した学び」を実現するプロジェクトをやりました。で、それに類するシステムやコンテンツを莫大な予算をかけて開発した。
ちなみに、最近、この領域の研究費は、数十億単位です。世界の最先端の研究者たちは、3年間で20億とか、40億とか、そういう単位で研究をしています。もちろん、それを支える人材の豊富さ、評価の厳しさ、など、これに関しては派生するオモシロイ話がいろいろあるのですけれども、それはまた別の機会に。
さて、マーシャ=リンさんのプロジェクトは、WISEといいます。WISEのキーコンセプトは「知識統合」です。一方、スカーダマリアさんの方は、CSILEですね。こちらは「知識構築」です。
WISE
http://wise.berkeley.edu/
IKIT(CSILE)
http://ikit.org/
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まず、マーシャさんのWISEのプロジェクトは、「学んでほしいことが決まっている」「子どもが到達するべきポイント」というのが、ポイントかと思います。
たとえば、「光」が学習内容だったとすると、「光の正しい科学的概念」はこれこれで、これをこの順番に学ぶといいよね、といったような「カリキュラム」がきちんとつくられているのですね。
カリキュラムがつくられている、ということは、「コンテンツもつくられていること」を意味しますね。つーか、学習目標が設定されていて、カリキュラムが設定されているから、はじめてデジタルコンテンツを「つくることができる」のです。よって、彼女のプロジェクトでは、多くのコンテンツエキスパートたちが、デジタルコンテンツをつくっています。
子どもたちは、プロがつくった学習の流れに従って、Webのデジタルコンテンツを閲覧し、議論するべき場所では議論を行う。そうでない場所では個別に学ぶ、といった感じで学習を進めます。
それでは「カリキュラムがつくられている」=「学んでほしいことが決まっている」ということは、評価の際には何を指標にとればいいことになるでしょうか。
単純明快、答えは「アチーブメント」ですね。
要するに、どの程度、正しい理解に至ったか、簡単にいえば、どの程度成績がよくなったかを測定します。ちなみに、一般にWISEの学習カリキュラムは、「ミドルレンジやアッパーミドルの成績の子供たち」によく聞くと言われています。
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じゃあ、対して「知識構築」のCSILEの方はどうでしょうか。こちらのプロジェクトは、「学ぶべきことが定められていない」「目標が設定されない」というところがポイントでしょう。
実は、スカーダマリアさん、ベライターさんがCSILEを開発するときに、基底においた思想というのは、ブルーノ=ラトゥールの科学哲学的なお仕事だったのだそうです。要するに、本物の科学者の活動をインターネットを使って子供たちにも体験させたかったのですね。
「データを集めて、議論をして、知識を生み出し、よい知識が生まれれば、出版する」といったことでしょうか。それを、インターネットというメディアを使って、学校で実現しようとした。
今日聞いたお話ですけれど、ある先生が、マーシャ=リンさんに「知識統合と知識構築の違い」について聞いたことがあるのだそうです。そのときに、マーシャさんはこう言った、というのです
「知識構築の方は(スカーダマリアさんの方は)、誤概念が最終的に子どもに残ってもいいっていうのよね・・・そこが私たちとは違う」
これは非常に象徴的な言葉です。
「本物の科学者の活動」をインターネット上で実現することが、「知識構築」の基底にある考え方です。ご存じのとおり、科学者の活動なんていうものは、99%は失敗。なかなか正しい理解に至ることはありません。これが正しい発見だ!と思っても、その次の日には反証されて、また振り出しに戻る。
でも、そういう知的な活動を学校の中に実現することが重要だよ、と考えたのですね。それがインターネットを活用する意味だと。
こういう背景がありますので、CSILEの評価というのは、直に「アチーブメント」にはなかなかなりません。
「新しいことを生み出す学習に従事できていたかどうか」、もっと作業定義っぽく話せば、「いい問題を思い浮かべるようになったかどうか」ということが評価のポイントになるそうです。ちなみに、経験的には、CSILEのプログラムは、「アッパーとロアーの成績を有する子どもたち」が伸びる可能性が高い。
研究者がやるべきことも、先ほどのWISEとは違ってきますね。
WISEの方は、莫大な予算をかけてコンテンツをつくること、カリキュラムをつくることをやりましたけれども、こちらの方は、大きくわけると、コミュニケーションツールを教育現場に提供すること、評価をすること、教員トレーニングや教員支援、ということになります。
コンテンツはつくりようがないのですよ。だって学習目標がかなりオープンエンドに開かれているのだから。カリキュラムだってつくりようがないのです。まさか、科学者の活動は、カリキュラムに従って行われるわけではないでしょう。
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うーん、ちょっと今日の話は難しかったかもしれません。
でも、僕が、ここで言いたかったことは、まずは「知識統合」「知識構築」という2つの概念の違いです。そして、家族的類似性を地でいくような2つのコンセプトが、カタチをもつときには、全く違ったものになるを僕は言いたかった。
だから、コンセプトワークというのは重要なのですね。
ちなみに、皆さんでしたら、「知識統合」「知識構築」、どちらにシンパシーを感じますでしょうかね。
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あと、もうひとつ似た概念がありますよね。
「知識創造(knowledge creation)」ですね。
これは学習科学ではなく、経営学が出自の概念ですけれども。
でもさ、経営学だろうと、学習科学だろうと、知識は知識、学習は学習です。
さて、この「知識創造」は、上記2つに比べて何が違って、何が同じでしょうか。こういう思考実験をしてみるのも、オモシロイですね。
ちなみに、僕、かつて「知識創造」の生みの親の先生に、ある企業研修所で、お話を伺ったことがあります。今から数年前のことですけれども。
そのとき、先生は、
「学習ってのは古い手垢のついた概念だ。学習っていうのは行動主義。我々は学習という言葉を使いたくなかった。だから知識創造という言葉を使った」
というようなことをおっしゃっていました。
「あのー、行動主義だけじゃなくて、学習にもいろいろあるんですけど・・・」
と言いかけましたが、それ以上、僕の話を聞いてくれる雰囲気ではなかったので、やめました。
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で、知識創造って、何?
投稿者 jun : 2006年09月14日 06:00
このリストは、次のエントリーを参照しています: 知識統合、知識構築、そして知識創造・・・何が違うの?:
» 知識の統合と構築 from Hiroaki Suzuki's Blog
東大の中原さんのページで、知識統合と知識構築について、わかりやすくかつ奥の深いエ... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年09月15日 14:11
コメント
Bereiter & Scardamaliaの知識構築とLinnの知識統合についての解説、とても興味深く読ませていただきました。二つの概念は、ご指摘のとおり学習者に習得してもらいたいこと、学習目標が異なり、その違いは、もしかしたら研究者の守備範囲である研究対象の科目とその性質に起因しているのではないのかな、という感想を持ちました。
経歴をみる限り、Linnはここ10-15年はほぼ理科教育に特化して研究していて、inquiryの要素を取り入れ、理科、科学のプロセス、科学者の仕事を生徒達に伝えることをメインにすえながらも、と同時に、理科の基礎知識(school science)はカバーしなければ、とのスタンスをとっているのに対し、Bereiter & Scardamaliaは、確かもともとは作文、文章の書き方の向上のプロセスからexpertiseの研究をしていたりして、決まりきった「教えなければならないこと」が理科や数学ほど確立していない分野、あるいは教科にとらわれない学習者の一般能力にも関心を持っているので、学習目標をよりオープンに据えられるのではないかな、と。
Bereiter & Scardamaliaの知識構築は、問題にぶつかって、その解決策を見つける試行錯誤の過程で、そのつどそのつど、新しい知識なり技術を蓄積していって、問題解決能力を向上させていくという意味の、「progressive problem solving」も関連するキーワードですよね。そういう意味では、knowledge building のbuildは、構成とか構築に加えて、時間軸のニュアンスも示す、蓄積も含まれているのかな、というのが私の理解です。
Linnの知識統合に関しての彼女の文章は読んだことがないので、Cambridgeハンドブックを参照してみようと思います。
投稿者 toyama@sri : 2006年09月14日 17:33
>ちなみに、皆さんでしたら、「知識統合」「知識構築」、どちらにシンパシーを感じますでしょうかね。
なかはらさんは、どっちが好きですか?小耳にはさんだところによると、知識統合だという話だったそうですが。
ちなみに僕は現時点では、知識構築のほうが好きだなあと思っています。
投稿者 たての : 2006年09月14日 18:43
知識創造の生みの親のN先生の授業を聞いたことがあるのですが、N先生の理論と知識構築や知識統合との違いは、組織文化の練磨プロセスが含まれているかどうかにあると、私は理解しております。
ここでいう文化とは、物の見方や考え方、行動の仕方のパターン(N先生は”型”と呼んでます)ですが、組織の構成員に特定の文化パターン(型)を学習させるのが目的ではなく、構成員が組織文化(型)を能動的に変化させてゆくことを良しとします。
つまり知識創造といいつつ、磨き続ける対象として力点を置いているのは、知識を生み出す源となる組織文化や個人のマインドセットにあると解釈しております。面識も無いのに長々と書いて申し訳ございません。こちらのHPでよく勉強させてもらってます。
投稿者 北陸の大学院生 : 2006年09月14日 19:26
>研究者の守備範囲である研究対象
>の科目とその性質に起因している
>のではないのかな、という感想を
>持ちました。
とやまさん、ご指摘の通りだと思います。
もともと、Linnさんは科学教育。Scardamalia
さんたちは、文章産出の研究をしていました。
ですので、もともとLinnさんはspecificなコンテンツを
つくりやすい位置にいたことになりますし、一方、
Scardamaliaさんたちは、Generalなものを志向しがち
だったように思います。
>knowledge building のbuildは、
>構成とか構築に加えて、時間軸のニュ
>アンスも示す
こちらも全くそのとおりだと思います。
Build onというscardamaliaさんたちの
コンセプトの「On」が重要かと思います。
つまりは、そこには科学知見の積分性という発想が、
見え隠れしていますね。
どんな巨人であろうと、先達の方の上に、つまりは
歴史の上に、科学は発展するものですね。
なかはらじゅん
投稿者 なかはらじゅん : 2006年09月15日 01:06
>なかはらさんは、どっちが好きですか?
Knowledge integrationという思想も、Knowledge buildingという思想も、僕は理解できます。
また、効果的な学習の場では、どちらの認知的機制も
併存する必要があると思っています。
ただ、もし2つのうちから1つだけを、
どうしても選べと言われれば、
・・・僕が研究をするのなら、きっと、Knowledge
integrationを中心にすえたプロジェクトを
組むと思います。
理由は長くなるので、ゼミの飲み会の時にでも話しましょう。
なかはらじゅん
投稿者 なかはらじゅん : 2006年09月15日 01:16
>構成員が組織文化(型)を能動的に
>変化させてゆくことを良しとします。
なるほど。
勉強になりました・・・そういう見方もあるのですね。
>面識も無いのに長々と書いて申し訳ございません。
全然OKです、むしろ大歓迎です。
面識が無いことなんか、気にしないで下さい。
僕も面識がない人たちに向けて、言いたい放題
言っています。
なかはらじゅん
投稿者 なかはらじゅん : 2006年09月15日 01:18



















