大学院授業「組織学習システム論」のシラバスができた!

 東京大学大学院 学際情報学府の授業「組織学習システム論」の来年度のシラバスができましたので下記に公開します。下記のような学生に受講してもらえるようシラバスをつくりましたが、そんな人、本当にいるんでしょうか(笑)。ちょっとマニアックだったかな。

・組織における知識共有、学習に関心のある学生
・組織のおける人材育成、人間の成長に関心のある学生
・組織変革や文化の構築等に関心のある学生

授業の最後には、グループでひとつ分析対象となる組織を決めて、事例研究をしてもらうことにしました。分析対象は会社でもいいし、学校でもいい。個人的には、学生たちが所属する「大学院情報学環」を分析対象にするとオモシロイと思いましたけど(笑)。

 開講が、今から結構楽しみです。

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東京大学大学院 学際情報学府 2008年度
夏学期授業「組織学習システム論」シラバス

中原 淳
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授

■講義の概要
 人は、人生の一定期間、学校という場所「だけ」で学ぶわけではありません。学校を「卒業」した後でも、会社や組織の中で、新たな知識を獲得したり、他者と知識を共有したりしながら、仕事に日々取り組んでいます。人は年をとっただけでは、学びをやめません。人は、生けとし生きる限り、学び続ける存在なのです。
 本授業では、従来あまりスポットライトがあたることのなかった、学校の「外」の学習 - つまり、「企業・組織における学習」に関連する文献購読を行います。経営学、教育学、心理学、社会学等の分野をとわず、関連する文献を購読することを目的とします。
 近い将来、組織における学習、人材育成システムを実際に「分析」したり、あるいは「構築」したりする場合に必要になる基礎的概念を理解することをめざします。
 文献購読はグループで行ってもらいます。課題文献、図書をグループで役割分担をしながら購読し、ひとつのストーリーにまとめ、プレゼンテーションを行います。
 授業の後半からは、分析対象となる「組織」をグループでひとつ決めて、インタビュー、フィールドワークなどを行い、授業で学習した様々な概念をもとに分析していただきます。分析結果は最終日にプレゼンテーションしていただきます。
 なお、本授業は2年に1度、隔年の開講です。この授業が開講しない年には「デジタル教材設計論」を開講する予定です。
 
 
 
■想定される受講者像
 ・組織における知識共有、学習に関心のある方
 ・組織のおける人材育成、人間の成長に関心のある方
 ・組織変革や文化の構築等に関心のある方
 
 
 
■評価
 下記の3点から成績をつける。
1.コメントカードによる出席点30%
2.プレゼンテーション(全員からの相互評価30%)
3.資料のクオリティ(教員による評価10%)
4.最終プレゼンテーション(全員からの相互評価30%)
 
 なお、相互評価のポイントは下記の5点。
  1.スライド・配付資料のわかりやすさ( / 5)
  2.プレゼンテーション手法(声・身振り)( / 5)
  3.質疑応答の適切さ( / 5)
  4.理論の解説がわかりやすいか( / 5)
  5.考察がなされているか( / 5)
 
 
 
■場所・時間
 火曜日 3限(13:00)を予定(変更の可能性あり)
 場所未定
 
 
 
■連絡先
中原 淳(なかはらじゅん)
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
東京大学大学院 学際情報学府 准教授(兼任)
Blog : http://www.nakahara-lab.net/
 
重田勝介(しげた かつすけ)
東京大学 大学総合教育研究センター
TREEオフィス コンテンツ開発室 特任助教
Blog : http://jamsquare.org/shige/ 
 
 
 
■授業の基本的アーキテクチャ
 ・イントロダクション(中原:5分)
 ・プレゼンテーション(文献担当グループによる:35分)
 ・ディスカッション(グループで:15分)
 ・オープンディスカッション(クラス全体で:30分)
 ・ラップアップ(中原:5分)
 
 
 
■プレゼンテーションのやり方
・課題として設定された文献を購読し、内容を要約する。すべての要約をより集めて、「ひとつのストーリー」を構成する。

・プレゼンテーションはパワーポイントで行う。

・プレゼンテーションの構成には下記を必ず含めること
 ・各文献の要約をまとめた内容
 ・今回の文献で興味深かったところ/研究で使えそうなところ
 ・今回の文献の課題、問題点
 ・グループとして考察したこと

・配付資料は人数分用意し、各自で印刷すること。

・配付資料はワード等で文章として作成したものと、パワーポイントの配付資料を2つ用意する。

・プレゼンテーションの前か後に、利用したデジタルファイル(パワーポイント&ワードのPDFファイル)を、メーリングリストにながす。

・プレゼンテーション授業終了後、授業で利用するコンピュータに元ファイル(PPTファイル、ワードファイル)を残しておくこと(評価の際に用います)。

・プレゼンテーションの時間は35分。その後質疑応答があるので、どのような質問にも答えられるようにしておくこと。
 
 
 
■内容
●4月8日 オリエンテーション
 ・講義概要
 ・グルーピング&自己紹介
 ・スケジュールの確認
 ・授業の流れ
 ・プレゼンテーションの準備と方法
 
 
●4月15日 熟達化と経験:
     経験からの学習を促進するものは何か?

・松尾睦(2006)経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス. 同文舘出版, 東京
  

・楠見孝(2003) 暗黙知. 小口孝司・楠見孝・今井芳昭(2003)エミネント・ホワイト:ホワイトカラーへの産業・組織心理学からの提言. 北大路書房, 京都 pp6-24
  

・楠見孝(1998) 中間管理職における経験からの学習能力を支える態度の構造 日本労働研究機構 資料シリーズNo.110

・楠見孝(2000)中間管理職のスキル、知識とその学習. 日本労働研究雑誌 No.474

 松尾氏は経験学習理論と熟達化理論を接近させ、通常の職場において「経験からの学習」がどの程度起こっているかを、心理学的手法を用いて明らかにしている。非常にオリジナリティの高い研究である。
 本授業では、ワークプレイスにおける経験学習、および、それを支える要因について考察したい。
 
 
●4月22日 熟達化と経験:職種ごとに異なる熟達化プロセス

・笠井恵美(2007)対人サービス職の熟達につながる経験の検討. リクルートワークス研究所(http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・笠井恵美(2007)対人サービス職の熟達につながる経験:小学校教諭・看護師・客室乗務員・保険営業の経験比較 リクルートワークス研究所(http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・見舘好隆(2007)顧客接点アルバイト経験が基礎力向上に与える影響について:日本マクドナルドに注目して. (http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・伊東昌子・河崎宜史・平田謙次(2007) 高達成度プロジェクトマネジャーは組織の知とどう関わるか. 組織科学 第41巻 第2号.

 熟達した人とノービスでは何が違うのか。ノービス=エキスパートパラダイムとよばれる熟達化研究の典型的な研究方法を参照しながら、いくつか実践論文を読む。
 
 
●4月29日 経験による成長:
     人を飛躍的に「成長」させるのはどんなイベントか?

・金井壽宏(2002)仕事で「一皮むける」.光文社書店, 東京
  

・モーガン=マッコール(2002)ハイ・フライヤー:次世代リーダーの育成法. プレジデント社
  


・谷口智彦(2007)マネジャーのキャリアと学習―コンテクスト・アプローチによる仕事経験分析. 白桃書房
  

・Seibert, K.(1999) Reflection in action : Tools for cultivating on the job learning condition. Organizational Dynamics. Winter 1999 pp54-

 人を「成長」させたのはどのような仕事経験だったのか。経営学による「経験による学習」へのアプローチをさぐる。
  
  
●5月6日 GW振り替え休日
 
 
●5月13日 成人教育学という思想:
    70年前、ノールズは何を夢見ていたのか?

・マルカム=ノールズ(2005)学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド. 明石書店
  

・シャラン=メリアム(2005)成人期の学習ー理論と実践. 鳳書房, 東京
  

・パトリシア=クラントン(1999) おとなの学びを拓く―自己決定と意識変容をめざして. 鳳書房, 東京
  

・日本社会教育学会(編)(2004) 日本の社会教育 第48集「成人の教育」 東洋館出版, 東京
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jssace/idx_nenpou_48.html

・赤尾克己(2004) 生涯学習理論を学ぶ人のために―欧米の成人教育理論、生涯学習の理論と方法. 世界思想社, 東京
  

 1970年代隆盛を極めた成人教育学の源流を、その祖と言われるマルカム=ノールズからたどる。ノールズのアンドラゴジーは、その後、どのような発展をたどったのか。そして、その後、いかなる教育学的批判が寄せられたのか。今、成人教育学の知見に学びうるものはないのか?
 
 
●5月20日 組織と物語:物語行為は知識共有を促進する

・Brown, J.S.(2007) ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵. 同文館書店
  

・Boje, David M. 1991. The storytelling organization: A study of storytelling performance in an office supply firm. Administrative Science Quarterly, 36: 106-126.

・Orr, J.(1996) Talking about machines. Cornell University Press
  

 アイデンティティ形成、知識共有、組織理念の学習など、様々な分野で注目されているOrganizational storytellingの最新の動向をおう。ストーリー(物語)、そしてストーリーテリング(物語行為)は、組織で働く個人、そして組織にどのような影響を与えるのか?
 
 
●5月27日 組織と物語:物語行為は組織を変える?

・Gabriel, Yiannis 2000. Storytelling in Organizations: Facts, fictions, and fantasies. London: Oxford University Press.
  

・ステファン=デニング(2004)ストーリーテリングの力. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2004年10月発行(http://www.bookpark.ne.jp/cm/contentdetail.asp?content_id=DHBL-HB200410-007にて購入可能)

・カール=ワイク(1997) 組織化の社会心理学. 文眞堂, 東京
  

・Zilber,T.(2007) Stories and the discursive dynamics of institutional entrepreneurship. Organization studies. 28(7). 

・リクルートHCソリューショングループ(2007) 感じるマネジメント. 英治出版, 東京
 

 アイデンティティ形成、知識共有、組織理念の学習など、様々な分野で注目されているOrganizational storytellingの最新の動向をおう。ストーリー(物語)、そしてストーリーテリング(物語行為)は、組織の価値観や文化形成に、どのような影響を与えるのか?
 
 
●6月3日 コミュニティと学習:コミュニティを越境せよ!

・ジーン レイヴ・エティエンヌ ウェンガー(1991)状況に埋め込まれた学習. 産業図書,東京
  

・Wenger, E.(1999) Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity (Learning in Doing: Social, Cognitive, and Computational Perspectives). Cambridge University Press
  

・エティエンヌ=ウェンガー(2002)コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践. 翔泳社
  

・荒木淳子(2007) 企業で働く個人の「キャリアの確立」を促す学習環境に関する研究 : 実践共同体への参加に着目して. 日本教育工学会論文誌. Vol.31, No.1 (20070520) pp. 15-27
 
 人を育てる場として、あるいは、イノベーションを生み出す場として「実践共同体」が注目されている。実践共同体の概念の変容を愉しみつつ、問題点をさぐる。また、実践共同体とアイデンティティ形成に関する実践論文を読む。
 
 
●6月10日 組織学習と転移:
      企業における転移研究の問題点と可能性

・Holton, E.(2000) Development of a Generalized Learning Transfer System Inventory. Human Resource Development Quarterly, vol. 11, no. 4, Winter 2000

・Enos, M.D.(2003) Informal Learning and the Transfer of Learning: How Managers Develop Proficiency. HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT QUARTERLY, vol. 14, no. 4, Winter 2003

・Swap, W. et al(2001) Using mentoring and storytelling to transfer knowledge in the workplace. Journal of Management Information Systems /Summer 2001, Vol. 18, No. 1, pp. 95-114.

 学習したことを実際の仕事の文脈で活かすことができるか、どうか - 「転移」は、企業の人材育成にとって、非常に大きな問題である。この回は、HRDの分野で典型的な転移の測定手法を知り、その手法の問題点をさぐる。また転移の促進の手法を概観する。
 
 
●6月17日 組織学習論:学習する組織はどこにいくのか?

・安藤史江(2001)組織学習と組織内地図. 白桃書房, 東京
  

・ピーター=センゲ(1995)最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か. 角川書店,東京
  

・ディヴィッド=ボーム(2007) ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ. 英知出版, 東京
  

・ジョセフ・ジャウォースキー(2007)シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ. 英知出版, 東京
  

・ピーターセンゲ・オットーシャーマー(2007)出現する未来. 講談社, 東京
  
 
 組織学習論の潮流のひとつとして注目された「学習する組織論」。その源流と近年の展開の方向性をさぐる。もはや社会変革の理論として発展しつつある組織学習論。そこには、どのような可能性と問題点があるのか。
 
 
●6月24日 組織開発手法の実際:各手法の最大公約数は何か?

・ダイアナ=ホイットニー(2007)ポジティブ・チェンジ~主体性と組織力を高めるAI. ヒューマンバリュー, 神奈川
  

・キャシー=クラム(2003) メンタリング―会社の中の発達支援関係. 白桃書房, 東京
  

・アニータ=ブラウン(2007) ワールド・カフェ:カフェ的会話が未来を創る. ヒューマンバリュー
  

・David J. Day Leadership development : A review in context. Leadership Quarterly, 11(4), pp581-613.(リーダーシップに関するレビュー論文)

・マイケル・J・マーコード(2004)実践アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる. ダイヤモンド社, 東京
  

 学習する組織の構築のために利用される、様々な手法を検討することを目的とする。手法の最大公約数は何か? 
 
 
●7月1日 知識創造経営論:暗黙知と形式知を交流せよ!

・野中郁次郎・竹内弘高・梅本勝博(1996)知識創造企業. 東洋経済新報社, 東京
  

・山本藤光(2001)「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす―日本ロシュのSSTプロジェクト, プレジデント社, 東京
  

・妹尾大・野中郁次郎・阿久津聡(2001)知識経営実践論. 白桃書房, 東京
  

・リクルートナレッジマネジメントグループ(2000)リクルートのナレッジマネジメント. 日経BP社, 東京
  

 日本初の経営理論のひとつである「知識創造理論」、それから端を発したナレッジマネジメントの潮流をおう。野中らの著作をベースとして、他著書より事例をおう。知識創造理論が提示したオリジナリティとは何か。そして、研究手法の問題点は何かをさぐる。
 
 
●7月8日 組織文化の中での学習:文化の衣をまとった学習者たち

・佐藤郁哉(2004) 制度と文化―組織を動かす見えない力. 日本経済新聞社
  

・T・ディール(1997)シンボリックマネジャー. 岩波書店, 東京
  

・エドガー=シャイン(2004)企業文化―生き残りの指針. 白桃書房
  

・ギデオン=クンダ(2005)洗脳するマネジメント:企業文化を操作せよ. 日経BP社, 東京
  

・Martin, Joanne(1983)The Uniqueness Paradox in Organizational Stories. Administrative Science Quarterly, v28 n3 p438-53 Sep 1983

 学習にとってコンテキストは非常に重要である。組織は決して真空ではなく、そこには様々なコンテキストがある。文化もそのひとつ。組織構成員の学習が、いかに文化の影響を受けるかを考察する。
 
 
●7月15日 ネットワークと学習:人のつながりの中で学ぶ

・安田雪・鳥山正博(2007) 電子メールログからの企業内コミュニケーション構造の抽出. 組織科学 第40巻 第3号

・安田雪(1998) ネットワーク分析. 新曜社, 東京
  

・ウェイン=ベーカー(2003)ソーシャル・キャピタル―人と組織の間にある「見えざる資産」を活用する. ダイヤモンド社, 東京
  

・ドン=コーエン(2003)人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む. ダイヤモンド社, 東京
  

・Higgins, K.(2001) Reconceptualizing Mentoring at work: A developmental Network Perspectives. Academy of Management Review, Apr2001, Vol. 26, Issue 2

・Higgins. M.H. and Thomas. D. A.(2001) Constellations and careers : Toward understanding the effect of multiple developmental relationships. Journal of organizational behavior. 22 p223-247

 ネットワーク、社会関係資本(ソーシャルキヤピタル)、Developmetal Networkと組織における学習の関係について探求する。
 
 
●7月22日 アクターネットワーク、ワークプレイス研究
     状況的学習論のインパクト

・ジーン レイヴ・エティエンヌ ウェンガー(1991)状況に埋め込まれた学習. 産業図書,東京
  

・上野直樹(1999)仕事の中での学習―状況論的アプローチ. 東京大学出版会, 東京
  

・ブルーノ ラトゥール(1999)科学が作られているとき―人類学的考察. 産業図書, 東京
  

・Callon, M. (1986) Some Elements of a Sociology of Translation: Domestication of the Scallops and the Fishermen of St. Brieuc Bay, In Law, J. (Ed.), Power, Action, and Belief: a New Sociology of Knowledge, Routledge, London, pp196-233.

・上野直樹・土橋臣吾(2006)科学技術実践のフィールドワーク―ハイブリッドのデザイン. せりか書房, 東京
  

「正統的周辺参加」「ワークプレイス研究」「アクターネットワーク理論」など、状況的学習論の代表的な研究を概観する。行動主義、表象主義との違いも考察したい。

 
●7月29日 最終プレゼンテーション
 グループごとにプレゼンテーションを実施します。


■参考文献
・中原淳・荒木淳子・北村士朗・長岡健・橋本諭(2006)企業内人材育成入門.(ダイアモンド社)
  

・中原 淳・荒木 淳子(2006)ワークプレイスラーニング研究序説:企業人材育成を対象とした教育工学研究のための理論レビュー. 教育システム情報学会誌(http://www.nakahara-lab.net/blog/2006jset_workplace.pdfよりダウンロード)