18.5%の学習:ロイ・ピーさんの講演を聴いた!
ここ2日にかけて、東京大学ではAPRU DLI2006という国際会議がひらかれています。
APRU DLI 2006
http://apru2006.dir.u-tokyo.ac.jp/
今日のセッションでは、スタンフォード大学のロイ・ピー教授の「DIVERプロジェクト」に関する講演があった。

Stanford Center for Innovations in Learning
http://scil.stanford.edu/
DIVERプロジェクト
http://diver.stanford.edu/what.html
---
DIVERは、一言でいうと「全景360度の映像をパノラマカメラで撮影し、容易に編集することのできるシステム」のこと。


基本的にはジェネラルなツールなので、誰もが使えるが、主に学習研究者が利用するリサーチツールと考えればよい。教師教育や、学習者同士のインタラクションを分析するのに用いられる、という。
DIVERでは、これまでフォーカスをあてた狭い部分しか撮影できなかったデジタルビデオとは違って、より広く、より多くの人の行動を、同時に撮影することができる。
加えて、撮影したビデオの一部にズームし、そこを違った角度から見ることができるほか、映像のコピー、ペースト、リミックス(結合)などが可能になっている。
DIVERシステムの概要
http://diver.stanford.edu/overview.html
それらの基本機能に加えて、映像を見た複数の人々が、ビデオ映像にコメントを残すことができるほか、そうした映像をWeb等で共有することもできる。
ロイさんは言う。
Very first analysis is done when your camera is fixed at certain point...
確かに、既にカメラのフォーカスをある一点にあてた時点で、収集できるデータが「選択」されているわけで、よりリッチなデータを必要とするならば、こうしたツールがかかせない、ということになるだろうか。
---
それでは、DIVERは、具体的にどのような研究で用いられているのだろうか。ロイさんは、LIFEという研究プロジェクトを紹介していた。
LIFE
http://life-slc.org/
LIFEとは「The Learning in Informal and Formal Environments」のこと。スタンフォード大学を中心に、ワシントン大学、SRIなどが連携を組んですすめている学習研究である。
その目的を一言でいうと、「ゆりかごから墓場まで、学校の中だけでなく、すべての人間の学習」を対象として、「エスノグラフィーから脳科学」まで方法論を選ばず研究をすすめよう!、ということにつきるだろう。
人間の学習というのは、学校であれ、公園であれ、子どもであれ、大人であれ、いつでもどこでもおこっている。しかーし!、これまで学習研究が対象にしてきたのは、「学校の教室」がほとんどだ、とロイさんは言う。
で、この図を見せてくれた。この図は、もしかすると、今日最大の収穫だったかもしれない。
LIFE WIDE LEARNING
http://life-slc.org/wp-content/up/2006/04/life-long-and-life-wide.jpg
オレンジの部分は、学校などで実施される「Formalな学習」をあらわしている。対して、青は学校外での「Informalな学習」。
で、これまでアカデミズムは、この「オレンジの部分」を対象にしていた。で、これからは青の部分もアプローチしなきゃならないね、ということだそうです。最もオレンジが多いK-12の期間でさえ、18.5%しかFormal Learningの機会はないからね。
じゃあ、どうやって青の部分にアプローチするか?
そこででてきたのが、DIVERです。これがひとつの有力なツールになりえるだろう、と。
たとえば、「家庭における親と子どものインタラクション」というのは、今まで非常に分析が難しかった。
まさか他人の家に住み着くわけにもいかないし、結局は、固定カメラの前でインタラクションをしてもらい、その場面を観察するしかないからである。
ちなみに、僕は学部時代に、そういう研究をグループワークでやったことがあります。先輩MN先生のお子さんH君の食事場面の発達プロセスを、みんなで分析しました。
この場合、MN先生は毎日毎日、子どもが食事をするときに、カメラをセットしてたんですよね・・・おお、大変だ。そして、これは研究者じゃなきゃ、できないですね。
で、ロイさんが言いたいのは、こういう場面を観察・分析するときには既存のカメラで撮影するよりも、DIVERを用いた方が、よりリッチなデータになるよね、ということでしょうか。今日は、「親子で数学を学ぶ場面」が事例として出されていました。
---
今日の講演は、まぁ、そういうことです。個人的には、DIVERは使ったことがないので、まだそのアリガタミは未知数なんですけど。そういえば、ビデオ分析ツールいえば、NIMEの加藤先生が公開しているCIAOなんかもあります。
CIAO
http://open.nime.ac.jp/software/ciao/
http://ship.nime.ac.jp/ciao/
今日は、さっき紹介した図がよかった。これは、イメージがしやすいですね。
LIFE WIDE LEARNING
http://life-slc.org/wp-content/up/2006/04/life-long-and-life-wide.jpg
ちなみに、ロイさんは、この週末、BEATの公開研究会で「LIFE」について詳細なプレゼンテーションをしてくれるそうです。同時通訳も入るらしいです。とてもオモシロイ会になりそうですね。
BEATセミナー
http://www.beatiii.jp/seminar/index.html
---
国際会議・・・これがアップされる頃には、僕はバンケット会場でプラプラしていると思います。
そして人生は続く。
投稿者 jun : 2006年11月09日 17:00
このリストは、次のエントリーを参照しています: 18.5%の学習:ロイ・ピーさんの講演を聴いた!:
» 相互作用へのアプローチ from This is my learning
NAKAHARA-LAB.NET BLOG : 明日の教育、こうなる、こうする: 18.5%の学習:ロイ・ピーさんの講演を聴いた!
やっぱりこういう... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年11月10日 01:07
コメント
こんにちは、中原さん。
昨日のBEATセミナーでDIVERの発表を聞きました。3年ほど前にSCILでRAをしていたときからずっと見ていたのですが、今回Roy先生と話して、Webで誰でも利用できるようになっていたことを知り、なにかに使ってみようかと考えています。
思うのですが、DIVERって、すごく汎用性があるので、教育ツール・研究ツールとして使い道は色々とあるんでしょうけれども、製品の部分だけだと、洒落たビデオ編集ソフトという感じです。(というと怒られますね。いや、これはこれで、すごいと思います)。しかし、研究ツールとしてはちょっとまだわかりませんけれども、教育ツールとしては、やはり、Roy先生の提唱するGuided Noticingとか、novice-expertモデルというコンセプトとセットで使うことで、ものすごく強力な支援ツールになるんでしょうね。このあたりの足回りがしっかりしているのが、DIVERのすごいところだなぁ、と思うんです。活動とセットになったツール開発ですよね。
教育ツールとしては、例えば、同じ場面に対するnoviceの視点とexpertの視点とを、novice自身に比較させたりすると、実用的な、転移可能な概念習得ができるかもしれないな、と思います。
投稿者 中植正剛 : 2006年11月12日 14:27
そうですね、Royさんのスゴイところは、開発物と理論の結びつきをしっかりと考えていること、うまく開発物が学習研究の流れに一付いている、ことだと思います。
なかはらじゅん
投稿者 なかはらじゅん : 2006年11月21日 07:50



















