「東京タワー」から学んだこと

 リリーフランキーの「東京タワー」にこんな一節があった。彼のお父さんが語っている場面です。

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麻雀もやなぁ、六十過ぎてからやのぉ。負けんようになったんは。どうやったら勝てるかがやったわかったごとあるのぉ。

(中略)

「もう役満テンパイしとっても、オリれるようになったねぇ。ふり込まんことよ・・・勝とうと思ったら」

オトンのこれまでの生き方は、あがれる千点よりも、あがれない役満の方に魅力を感じて駆け抜けてきたことだと思う。それが今では、振り込むかもしれないたった千点のために、役満を切り崩せるのだと言った。

リリーフランキー「東京タワー」 pp336-337より引用

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 なるほど・・・深いですね・・・この教えは。

 麻雀は高校時代以来(我が家は当時、雀荘化していました)、あまりやっていません。でも、上の「勝つコツ」は、なんかわかるような気がする。結局、「一人で振りこむ」ことが一番痛いんです、麻雀では。だから、それさえ避ければ、たとえ勝てなくても、負けないのですね。

 でも、どこかで今の僕は、上のような戦法に反感を覚えてしまいます。「たった1000点のクソ手のために、オレが役満崩してどうする!?」と思ってしまいます。まだ「オリレ」ないんだねぇ。

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 ところで、リリーフランキーの東京タワーには、もうひとつ興味深い一節もありました。彼のお父さんがリリーフランキーに諭している場面です。

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まぁ、これからオマエが誰とつきあうにしてもやなぁ、女には言うてやらんといけんぞ。言葉にしてちゃんと言う手やらんと、女はわからんのやから。好いとるにしても、つまらんにしても。

お父さんもずっと思いよったけど、おまえもそうやろう。1+1が2なんちゅうことを、なんで口にせんといかんのか、わかりきっとるやろうと思いよった。

そやけど、女はわからんのや。ちゃんと口で2になっとるぞっちゅうことを言う手やらんといけんのやな。お父さんは、お母さんに最後までそれができへんかった。取り返しがつかんことたい。やけど、まだオマエは若いんやから、これからは言うてやれよ。

リリーフランキー「東京タワー」 pp437より引用

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 なるほど。

 「女は○○である」というステレオタイプを真に受ける必要はありません。そんなとこで青筋たてないように。

 僕が、なるほどなと思うのは、「女」とか「男」とかはこの際、ペンディングして、「人間は言わないとわからない」ということです。「1+1=2」なんてアタリマエのことを、他者には言わなければ伝わらない、ということです。

 仲のよい間柄であればあるからこそ、言わなくてはならない、伝える努力をしなければならない。「わかっているだろう/感じてくれているはずだろう」と思っても、なかなかそうはいかないのですね。

 そりゃ、ビビビと伝わっちゃう関係もあるかもしれない。それなら取り越し苦労ですね。ただ、伝わっていると思っていて、伝わっていないリスクっていうのがある。で、そのリスクを人は忘れてしまうのです、すっかりと。

 なるほどね・・・リリーフランキーのお父さん、深いですね。勉強になりました。