ブルーナ

 少し前になるけれど、あるゼミの夏合宿参加させていただいた際、「自分の研究に強い影響を与えた学者を3名、全員に紹介せよ」という宿題をいただいた。

 これは簡単なようでいて、非常に難しい。自分の研究領域に近い優秀な研究者は、どちらかというと「影響を受ける」というよりも、「決して追いつくことはできないように感じられるけど、目標にする存在」のように感じて、どうも、趣旨の「影響を受けた」とは違ってくるような気がした。

 さんざん悩んで、僕は3名の名前をあげた。その中のひとりにジェロム=ブルーナがいた。

 僕のあげた3名は、いずれの人も、「狭間を生きた人」だったように思う。たとえばブルーナといえば、発見学習理論、ヴィゴツキーの再評価、文化心理学、ナラティブ理論などでよく知られている「理論に強い研究者」である。

 しかし、その一方で、彼は「モノヅクラー」でもあった。NPOと協力して、PSSCのカリキュラムを開発したり、テレビ番組の開発に関わったり。決して、彼は理論だけに固執する研究者ではなかったし、決して「ものをつくること」を至上命題にかかげる、いわゆる「テッキー」でもなかった(ちなみに、僕は工学もテクノロジーも好きだ)。

 それに加えて彼は、「政治家」でもあった。米国政府の教育政策に深く関与し、一時期、同国の教育を支える精神的支柱の役目を果たしていた。

 「理論」「工学」「政治」・・・凡人の目には全く別の事象に見える、それらの物事が、彼の前ではすべて「つながって」いたのではないかと思う。

 批判を受けることも多い研究者である。
 たとえば彼の自伝である「心を探して」などは、<ピュアな研究者>を自認する人たちからは、眉をひそめられている部分も多々あると思う。

 それでも、それにもかかわらず、僕は彼が好きだ。
 彼の仕事を心から尊敬している。