「21世紀に進化し続ける組織を考える」シンポジウムに参加した!

 国連大学で開催された「組織学習」に関するシンポジウム「21世紀に進化し続ける組織を考える:学習する組織の実現とは」に参加した。

21世紀に進化し続ける組織を考える
http://change-agent.jp/news/000117.html

 今回の催しは、米国ボストンの「Society of Organizational Learning : SoL」の支部として「SoL Japan」が立ち上がったことを記念してのシンポジウム。

Society of Organizational Learning : SoL
http://www.solonline.org/

 シンポジウムの内容は下記のとおり。

■1 一橋大学の野中郁次郎先生の基調講演
■2 マサチューセッツ工科大学のピーターセンゲ先生の基調講演
■3 リクルート執行役員 草原繁氏と日産のプログラムディレクターカーラ=ベイロ氏をまじえ事例カンファレンス
■4 ワールドカフェ手法を用いたワークショップ

 下記、あくまで僕の理解に基づく講演メモ。
 僕は経営学の専門家ではないので、理解を超えている点、間違っている点もある(正直わからなかった部分も少なくない)。また内容は網羅的ではない。僕の興味関心のあるところだけを書いてあるので、ご注意ください。

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■1 一橋大学の野中郁次郎先生の基調講演

 野中先生は「知の流れをリードする:モノの知からコトの知へ」というご講演をなさった。

 一般に企業は「金を生むマシーン:Money Making Machine」として位置づけられ、いまや「モノ」と化している。しかし、企業、あるいはそのマネジメントは「モノ」ではなく、「コト」としてとらえる必要がある。

 それでは「コト」とは何か?

「コト」とは「プロセス」であり、「関係性」である。野中先生は、ホワイトヘッドの哲学を引用しながら、世界は「プロセス=コト」によって構成されている、と指摘していた。世界の中では、出来事が連続的に生成・消滅している。

「プロセス」の中では、「知」が生まれる。ビジョン、対話などを組み合わせながら、「知の総合力」を生み出すことが「リーダーシップ」である。

 それでは、そのためには何が必要か。下記の6点にまとめられるだろう。

1.「善さ」を判別する能力
 =リーダーは「善さ」に関する価値観や思想を持たねばならぬ。

2.場作りの能力
=社会関係資本をつくりだす能力
=Here and Now relationship(今-ここの関係)の中で経験を共有することが重要。たとえば、キャノンの役員は午前8時から9時まで朝会を毎日実施する。議題が特にあるわけではないが、お互いを理解する。

3.個別の本質に気づく能力

4.個別の気づきを言葉にする能力
=共通の善(common good)をみすえながら、人々を巻き込みつつ、大きな物語を構築する。

5.言葉を実現する能力
=政治力

6.フロネシスを伝承・育成する能力
=上記1から5のプロセスを、後輩に伝達する能力。このことによって、Distributed leadershipが確立する。

 こうしたリーダーシップにより「学習する組織」が生まれる。
 マネジメントとは、「A way of life」である。

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■2 ピーター=センゲ氏の講演

 Learning organization(学習する組織)と野中先生の提唱する知識創造理論は、非常に多くの部分を共通点としてもっている。様々な点は異なっているが、その差異はマイナーなものにとどまる。

 野中先生も指摘していたように、ある「ひとつの時代」が終わろうとしている。それは一言でいうと「モノの時代」である。「モノ」の時代は「技術主導の時代」でもあった。仕事は「分断」され、そこで働く人々の「専門性」や「時間」も分断された。

 「モノの時代」を支えていたのは、「公教育」である。産業革命以降、学校教育は「アセンブリライン」のメタファで組み立てられてきた。そこでは、生産性や効率性が重んじられ、学習が均質性(uniformity )が求められた。また、「早いことはよいこと」という価値も信じられるようになった。

 しかし、このような時代は終わりを告げようとしている。表土の喪失、水資源の枯渇、そして二酸化炭素。「モノの時代」をこれ以上継続させることが、できない。

 何とかして「モノの時代」にかわる、人と組織のあり方を考える必要がある。

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■3 リクルート執行役員 草原繁氏と日産のプログラムディレクターカーラ=ベイロ氏をまじえ事例カンファレンス

1.リクルートの事例

 リクルートでの学習は「人の可能性を信じる風土・文化」を通して実現される。具体的な学習機会は下記のとおり。

1)リーダーシップジャーニー
 マネージャ、事業部長、役員が「善さ」を判断できる能力、「善さ」を見極める能力を向上させるために、アクションラーニングを実施する。

2)ソーシャルシナリオプランニング
「2025年にどういう社会を築きたいのか」ということをテーマに、役員を含めた100名が合宿を行う。同じ釜の飯を食いながら「こういう社会っていいよね」というコンテクストを共有する。

3)エンゲージメントサーベイ&ビジョンプレ
 社員が10人ずつのグループになる。「自分の組織がどのように変わればいいのか」「自分の社会はどのように変わればいいのか」をダイアローグしながら見いだす。1年に1度実施する。

2.日産の事例
 日産は「日産ラーニングセンター マネジメントインスティテュート」という研修施設を箱根につくった。日産のDNAの維持、そして日産内部の学習する文化の維持を目的としている。オフィスをはなれ、集中してブレインストーミングを行う期間として利用されている。

「日産ラーニングセンター マネジメントインスティテュート」では、下記のようなプログラムが提供されている。

1)グローバルエグゼクティヴトレーニング(GET)
2)異文化研修
3)日産Wayのワークショップ
4)グローバルラーニングアライアンス

 このうち、グローバルエグゼクティヴトレーニングでは、アドバンスコースが全世界から15名から20名、中級コースが30名から40名を集めて研修を行う。研修は2002年から実施されており、すべて英語で行われる。

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■4 ワールドカフェ手法を用いたダイアローグ・ワークショップ

 いわゆる「シンポジウム」が終わったあとは、中土井僚さん、渋谷聡子さんのファシリテーションで、ワールドカフェという手法のワークショップを行った。

 ワールドカフェは下記のような「対話手法」。「学習する組織」を構築するためのテクニックとして、最近、組織開発系では注目されている。

 手順は下記。

1)4人1組のグループをつくる

2)4人のうち1名がホストになる

3)ホストのゆるいファシリテーションで、あるテーマについて対話を行う
・対話の際には、一人一人の意見を尊重し、話を遮ってはいけない
・話者はTalking objectをもって話す。話者がTalking objectをはなすまで、他の人はさえぎってはいけない

4)対話の際には、与えられた紙に自由にイメージを書くことができる

5)ホスト以外の3名が他のテーブルに移動

6)ホストは新たにきた3名を迎え入れ、これまでそのテーブルでどのような話がなされていたのかを共有し、対話を継続する
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 これを何度か繰り返していくと、あら不思議、対話の中から「おぼろげなイメージ」があらわれてくる。

 学習科学でいうと、いわゆる「ジグソーメソッド」に近いかもしれない。「ジグソーメソッドの対話版」みたいな感じ。ジグソーメソッドと違って、何かを学んで、それを共有ということはしない。

 今回のワールドカフェワークショップで与えられたテーマは、今日のシンポジウムを踏まえて、「あなたはどんな未来を見ましたか」というものでした。なかなかいろんな見方があって、楽しかった。

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 今回のシンポジウムを通して考えたことは、下記の3つ。

1.組織学習(Organizational Learning)という用語
    が理論に合致しなくなってきているのではないか?

 ピーターセンゲさんといえば、アージリス=ショーン系の「組織学習」のセオリーを一般に普及させたと人として有名。彼の提唱する「学習する組織(Learning organization)」という概念は、出版された当初、非常にセンセーショナルに迎えられた。

 一般に組織学習といいますと、「メンバーが、ある組織の中で知識を獲得したり、統合したり、共有したり、アンラーニングする中で、学習をすすめる。そうしたメンバーのいる組織は、変容しつづける・・・そんな組織を指示するコンセプト」として、これまで広く使われてきた。

 しかし、理論が提唱された当初、それはあくまで「組織の中の知識サイクル」や、そこでの「組織のあり方」を問うていた。

しかし、「出現する未来」や「シンクロニシティ」や「ダイアローグ」などの近年の先鋭的な組織学習実践家たちの著作に見ると、この「組織学習概念」は、もろくも崩れ去る。もはや、それらの著作では、「組織の中」を対象にしているのではない。

 むしろ「組織」という枠組みを超えて、「組織と組織の関係」や「組織と社会の関係」「世界のあり方」を問う事例を提示しようとしている。
 世界の終わりを告げる「レクイエムシナリオ」を何とか回避し、「感じること」「内省すること」「実現すること」 - U理論のプロセスであり、学びのプロセス - を通して、「社会変革」を導くことはできないだろうか。

 一言でいうと、もはや一部の先鋭的な実践家たちの関心は、比喩的に言えば「Learning Organization」にはない。「学習する地球(Learning Society)」「学習する生態系(Learning ecology)」を対象にしている言説として発展している。

 よって、現在進展している理論を「組織学習」という用語で適当なのかどうか、非常に疑問に思えた。たかが用語とあなどってはいけない。まさに「God is in detail」である。専門用語の再構築が必要なのではないかと感じた。

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2.ダイアローグな空間とハイアラーキカルな空間

 組織の中で局所的、かつ、一時的に「ダイアローグな空間」をつくったとしても、業務を遂行するためには「ハイアラーキカルな空間」が併存せざるをえない。それらを統合することができるのか、あるいは、バランスをとることができるのか、という問いをピーター=センゲ氏は発していた。これは非常に本質的な問いだと思う。

 要するに、ワールドカフェなどの手法を使い、組織の中にメンバー同士が話し合う空間や時間をつくりだしたとしても、いつもの仕事は依然としてハイアラーキカルな空間の中で行われる。人はその落差をどのように感じるか、ということだ。

 たとえば、今、仮にAさんが研修でダイアローグを試みたとする。研修では「自分の会社の未来」について、ポジティヴにお互いを尊重しあって話し合うことができた。しかし、研修を終えると、明日になれば、依然と変わらない「終わりなき日常」「変わらない日常」が待っている。階層型の重い組織の中で、相変わらずの日々が続く。

 そして、こうした落差が歴然として存在するとき、Aさんは悟る。

 ダイアローグの空間では、ダイアローグに「のっている」フリをすればいいのだ。だって、明日になれば、また「変わらない日常」がやってくる。ダイアローグで話したことと、明日わたしが働く組織とは「別のこと」なのだ。
 しらけながらも、のりつつ、その場でコレクトとされる態度を演示ながら、ダイアローグに従事する。
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 これは、ハッキリ言って不幸である。ダイアローグの空間とハイアラーキカルな空間が分断されているとき、このような不幸な出来事が起こる。
 これを防止するための施策はいくつかあるような気がする。そのひとつは、「ダイアローグな空間」でおこったことを、何らかのかたちで、「ハイアラーキカルな空間」につながりをつけることだろうと思う。これには、ワークプレイスラーニングの視座が役立つと思ったのだが、どうだろうか。

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3.企業で行われているワークショップは、いわゆる教育系、博物館系のワークショップの言説とは分断されている。

 ワールドカフェ、オープンスペーステクノロジなど、組織開発系の、企業ワークショップの多くは、独自の発展をしているように感じる。

 教育系のワークショップと同じような手法、同じようなモデルを採用しているところもあるのであるが、その両者を架橋する言説空間がない。あるいは、その両者に通行はない。これは残念なことだと思う。

 このあたり、企業系ワークショップや組織学習を、Learning barのトピックとしてとりあげることで、何とか架橋したいと思う。ちなみに5月のLearning barは、「学習する組織」がテーマです。詳細はまだ秘密! どうぞお楽しみに!

Learning bar@Todai
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html

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 今回のシンポジウム・・・もともと、来年の大学院授業「組織学習論」のシラバスを書くためにいったのですが、なかなか多くの収穫がありました。よかった、よかった!、無理して行ったかいがありました。

 そして人生は続く。

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追伸.
 ピーター=センゲさんが下記の言葉が印象的でした。

「人差し指で他人をさしてみてください。3つの指は自分の方を指してしまうのです」

 他人を指摘したことは、自分に跳ね返ってくる、という意味で使っておりました。そうだよね・・・。