誰も行きたくないカラオケ:新入社員とミドルの切ない物語

 今日、研究室にいらっしゃったG社のK社長、Sさんから「誰も行きたくないカラオケというのが、このところ、いろいろな会社で蔓延している」という話を伺った。

「誰も行きたくないカラオケ」は、現在35歳~40歳くらいの中堅社員が、「久しぶりに採用した新入社員の面倒を見てほしい」と上司から命じられたときに起こる。

 この世代の中堅社員は、上の世代が「仕事はオレの背中を見て育て」という世代であったので「教えられた経験」があまり少ない。また、氷河期があったので、「教えた経験」も少ない。

 上司には、「若いものには、飲みにつれていって、カラオケでも一緒に行けばいい」と軽く言われた。

 中堅社員としては、ここ数年カラオケなんて行ったことがなく、最近の歌は知っている歌も少ないので、あまり行きたくはない。でも、上司の手前、断るわけにもいかない。

 しょうがない。

 「今夜、カラオケでもいかないか」

 新入社員を誘う。

 一方、新入社員には、「会社の人とアフターファイブにまで飲みに行く」という慣習はない。「面倒なことになったな」と思いつつも、断るわけにもいかない。

 かくして、ただひたすら曲を入れて歌い続けるものの、今ひとつ盛り上がりにかける「誰も行きたくないカラオケ」状況が生まれることになる。

 両者ともに知っている歌がほとんどない状況なので、口ずさめるわけでもない。はたまた、相手の人が会社の人なので、あんまりハメをはずすわけにもいかない。
 そこに居合わせる誰一人として、「歌いたい」と思っているものはいない。全員が、ただ時間が過ぎるのを待っている。

 もちろん、2時間の時間が終われば、時間延長されることはない。「凍てつくような雰囲気」のまま、みんな家路につくだけだ。

 今日は金曜日。
 誰も行きたくないカラオケが、今日も、どこかで繰り返されている。