「広場」と「すみっこ」のある会社

 午前、若手社員に対するインタビュー調査を行った。インタビューしたのは、去年まで研究室でアルバイトをしていたA君。

 某大手電機メーカーの関連企業で、エンジニアとして働いて、ちょうど半年。これまでの仕事を振り返ってもらい、「どのような機会に、どのようなことを学んだのか」を聞いた。

 インタビューの中で印象的だったのは、「自分を成長させるためには、一人になる時間を定期的にとることです」と言っていたこと。

 H君は、業務時間に、週に数回、エンジニアだけが入ることを許される「検証スペース」という部屋にこもり(製品の検証などを行う部屋)、業務とは全く関係のないことをしているらしい。

 修士時代の自分の研究にふたたび手をつけたり、自分の興味のある新しい技術を試したり、ここ最近で学んだ技術を振り返ってみたり・・・。

 おおよそ「製品の検証」とは全く関係のないことをやるのだという。それが、自分の専門性を高めることになるし、自分の成長につながる、と言っていた。

 H君の会社では、こうした密かな?活動を「机の下」という言葉で表現するらしい。「検証スペース」を「机の下活動」の目的で利用する人は数多く、みんな決して口にはださないものの、自分の好きなことをやっているのだとか。

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 検証スペースが、本来の「製品の検証」のために利用されないのは、いかがなものかと訝る方もいるかもしれないが、「机の下」で密かに?ひっそりと暖められたものが、ある時急に表舞台にあがり、莫大な利益をたたき出す商品になることは、少なくない。

 また、業務に忙殺され、業務をこなすことだけが優先されがちな日々において、こうした「ひとりの時間」は、よいリフレクションの機会になるのだろう。

 そういう意味では、検証スペースでの「ほんのひととき」は、無駄な時間では決してない。むしろ、必要な時間なのだ、と思った。

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 教育の世界で、よく言われることのひとつに、「快い学習環境は「広場」と「すみっこ」を両立した空間だ」というものがある。

「すみっこ」とは要するに、個人がひとりでリフレクションを行ったり、探求を行う場。広場とは「メンバーが全員で知恵をだしあい、交流する場」

「広場」と「すみっこ」の両立する会社というのは、いいなぁ、と思った。

 人は、一人では学べないこともある。
 しかし、一人でしか学べないことも、ある。

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追伸.
 年末に近づき研究プロジェクトも大詰め。さらに大学院生の論文指導も大詰め。今日だけで、3つの研究プロジェクトの、7種類の質問紙をチェックした。最後の方は、アタマが回らなかった。もうダメポ・・・。