Learning bar(ラーニングバー)雑感:西尾久美子先生「京都花街から学ぶ人材育成」

 今年最後のLearning bar@Todai(ラーニングバー)が、本日、東京大学本郷キャンパスにて開催された。

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 今日のテーマは、神戸大学大学院 経営学研究科 COE研究員の西尾久美子先生による

「京都花街から学ぶ人材育成:
 芸舞妓さんはどうやって一人前になるのか」

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 企業人材育成担当者、官庁の方、大学研究者、大学院生などから約100名程度の方々の参加者を得ました(教室のキャパシティの都合上、多くの方々のご参加をお断りさせていただきました。お詫びいたします)。皆様、仕事を終えた6時から9時まで、みっちりと濃密な3時間、本当にお疲れ様でした。
 
西尾久美子先生のご講演スライド
http://www.nakahara-lab.net/blog/20071109learningbar_nishio.pdf

西尾久美子先生のご著書「京都花街の経営学」

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 下記は、中原の雑感。

 芸舞妓さんは、学校や集中的な観察学習の結果、京言葉や踊りなどの「基礎的スキル」を短期のうちに獲得する。

 しかし、「基礎的スキル」を獲得しただけでは、もちろん、お座敷はつとまらない。「お座敷での空気を読んだ振る舞い=状況に応じた顧客対応力」の獲得は、やはり、「現場での学習」によるものである。いわゆる、OJTといったところか。
 
 しかし、このOJTは場当たり的、属人的、局所的、一時的に行われているわけではない。そこには花街独特の「巧妙な仕組み」が存在する。

 「現場での学習」を促進する仕組みは2つである。
 ひとつは、芸舞妓さんの生活の中では、彼女の「能力を顕在化(見える化)する仕組むや人工物」が存在していることだ。これを「シグナル」とよぶ。

 たとえば、新人は、「髪の結い方」などがベテランとは異なる。また、能力を顕在化する「イベント」や「行事」も多い。これらの機会によって、「自分は新人であり、能力が足りていないこと、フィードバックを必要としている」というシグナルを常に周囲に向かって発っている。

 このシグナルは、周囲の濃密な人間関係によって受け止められる。お茶屋さんのお母さんや、男師、さらには顧客までを含めた周囲の人々によって、彼女のパフォーマンスへの「即時フィードバック」が実現される。

 ここで注意しなければならないのは、即時フィードバックは、舞妓さんだけを対象に行われるのではない。評価をする顧客自身も、また他人評価されるといった具合に、舞妓さんの近くにいる人々は、評価を相互に行うネットワーク(mutual evaluation network)を発達させている。

 350年続く京都花街の人材育成が成功を収めている理由は、上記の仕組みが、組織構造的、制度的、人々のつながりの中に組み込まれていることにあると思った。それは、「場当たり的」「属人的」「局所的」「一時的」といった、一般的な「OJTの悪しき姿」とは対局にある姿のように見える。

 そんなことを考えながら、僕は西尾先生の講演を聴いていた。
 ご出席いただいた皆様は、どんなことをお考えでしたか? 今日のLearning barでも、恒例のピアディスカッションが開催されましたが、どのような意見がでていましたでしょうか?

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 最後になりますが、お忙しい中、遠方よりお越し頂いた西尾久美子先生(着物を着てくださった!)、そして、Learning barの開催をいつも支援してくださっている大学院生諸氏(教育坂本君、ガッカン坂本君、山田君、牧村さん)、同僚の荒木さんに心より感謝いたします。本当にありがとうございました。

 次回のLearning barは、1月11日午後6時から、東京大学で開催されます。テーマは、日本ベーリンガーインゲルハイムの早川勝夫さんによる

「できるMRを育てる:
 OJTとOFF-JTを連動させる仕組み」

 です。

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、循環器や呼吸器用薬などを主力商品としたドイツの製薬メーカー。同社ではMRの営業生産性を向上させるため、ワークプレイスラーニングの視点を取り入れ、「OFF-JTとOJTを連動させた人材育成」を2003年から試みています。

 その結果、2005年-2006年における売上、営業生産性の伸び率は2年連続で業界第一位を記録するまでになりました。

 本件、近いうちに募集が開始されますので、ぜひ、お早めにお申し込みください。募集のお知らせはメーリングリストを先行させていただきます。これを機会に、どうぞお申し込みください。

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 それでは皆さん、よい週末を
 Enjoy!