あなたはどこへ向かうのか?:コミュニティとトラジェクトリー

 人は、複数のコミュニティを渡り歩きながら、日々、学んでいます。職場の「部」や「課」というコミュニティ。異なった組織に所属する人々によって構成される専門分野のコミュニティ。同僚や気の合う先輩とのコミュニティ、アフターファイブの趣味のコミュニティ。インターネット仮想空間のコミュニティ・・・。

 通常、人の所属するコミュニティは「ひとつ」だけとは限りません。人間は、生まれながらにして多層的なコミュニティのメンバーなのです。

 あるコミュニティを横目に見ては、「うーん、オモシロそうなので参入してみよう」と思い、あるコミュニティでは、「うーん、ここはしっくりくるな」と納得する。反面、コミュニティの中には「ここは自分にフィットしないな」と思うものもある。
 かくして、参入、滞留、離脱を繰り返す。参入と離脱の繰り返し - 要するに、人は生きている限り、コミュニティ間の「移動」を繰り返します。
 そして、状況的学習の視点からみると、「コミュニティの移動」こそが学習として捉えることも可能です。

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 LPP論においては、参加の対象として、単層的に捉えられがちあった「コミュニティ」を、重層的なものとし、学習者の「コミュニティの移動」を「トラジェクトリー(軌跡)」という概念で把握したのは、他ならぬ、エティエンヌ=ウェンガーでした。

 ウェンガーによると、トラジェクトリーには5つの類型があります。

1.周辺的トラジェクトリー
 コミュニティの周辺において実践を行っているときの学び手の変化のこと。このトラジェクトリーは、必ずしも、十全参加に向かわない場合もある

2.上りのトラジェクトリー
 新参者が共同体の完全な参加者になりたいという希望をもって、移動すること。ある共同体において中心的な位置をしめたい、ということを意味するので、「上昇志向のトラジェクトリー」と考えることができる。

3.内部のトラジェクトリー
 ある学習者が、コミュニティの中心的活動に従事するようになったあとに形成するトラジェクトリー。中心参加後も、学習者は、そのコミュニティにおいて、アイデンティティを形成し続ける。

4.境界領域トラジェクトリー
 コミュニティ間の境界領域にあり、複数の共同体を結びつけることに価値をもつ学習者のありかた。複数の領域をプラプラしながら、自己のアイデンティティを保とうとする。

5.下りのトラジェクトリー
 いったん参加した共同体から出て行くときのトラジェクトリー。

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 ここでエクササイズ。もし近くに人がいたら、ペアになって、絵を描きながらトライしてみてください。片方の人が絵を描きながら説明しているときには、片方の人はいろいろと質問をしてあげてください。

Q1.あなたは、今、いくつのコミュニティに参入していますか?図であらわしてみてください。

Q2.あなたは、それぞれのコミュニティにおいて、どのようなトラジェクトリーを描こうとしていますか?

Q3.最後になりたい「自分」は、どのコミュニティにいる、どんな自分ですか?

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「コミュニティ」そして「トラジェクトリー」というコンセプトは、わたしたちにいろいろなことを気づかせてくれます。