シングルモルトが好きである

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 シングルモルトが好きである。
 そして、今日もシングルモルトである。

 1杯目。

 アイラ島で生まれた「アードベック1975年」を注文する。ピート香が強烈で、スモーキーな一杯。トワイスアップスタイルで、少しずつ胃に運ぶ。

 1975年は僕が生まれた年。

「このウィスキーも、自分と同じ時間を過ごしてきたのだ」

 と思うと、意味もなく親近感がわく。
 
 
 2杯目。

 マッカラン18年。ハチミツ、メープルシロップ、シェリーの香りのするトロトロとした感じ。こちらは、チェイサーを口に含みながら、ストレートで。
 
 このマッカランが樽詰めされた頃、僕は、まだ中学生。

 「自分が何になるのか」
 「自分は何をしたいのか」
 「自分には何ができるのか」

 重要なことは、何一つわからなかった。それなのに、はやく大人になりたくてなりたくて仕方がなかった。大人には、それらが「わかっている」と思っていた。
 
 
 3杯目。

 最後は「山崎12年」。どんなにミーハーと言われようと、僕は、このウィスキーが好きである。

 丸みのある甘さ、癖のなさ、ちょうどよいスモーキーフレーバー。これ以上バランスのとれたウィスキーはなかなかない。トワイスアップスタイルでゆっくりと。

 12年前といえば、僕は学部3年。ちょうど、この頃、僕は「将来、絶対に研究者になるのだ」と決心した。

「絶対になる」と言っても、もちろん「口」で言っているだけである。しかし、誰かに宣言することで、僕は、自分を奮い立てようとしていたのかもしれない。
 
 
 4杯目。
 もうそろそろ辞めておこう。「もう一杯」と思ったときが、「切り上げ時」である。「これ以上、年齢の若いウィスキー」は、そう多いわけではないし。

 僕が「研究」を志してから樽詰めされたウィスキーは、まだ「円熟の時」を迎えていない。それは、今の僕がそうであるように。
 シェリー樽の中で、まろやかになり、いつか、どこかの誰かに愉しんでもらえる日を、待っている。

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