なぜ医療ミスが繰り返されるのか?:貞友義典「リピーター医師」を読んだ

 医療事件を数多く手がける弁護士・貞友義典氏が著下「リピーター医師 なぜミスを繰り返すのか?」(光文社新書)を読んだ。

 リピーター医師とは、「何度も何度も懲りずに医療ミスを繰り返す医師」のこと。

 リピータ医師は、産婦人科に多いのであるが、こうした医師のせいで、胎児が重篤な障害をかかえたり、ひどい場合には死亡事件に発展することも少なくない。

 貞友氏は、こうした医師が生まれる原因を、人格的な問題などに求めるのではなく、構造的な、制度的欠陥に求めている。

1) 医師の国家試験には、実技がないこと
2) 医師免許取得後の知識・技量を確認する制度がない
3) 医療ミスはその専門性の高さから刑事事件として立件されない傾向があること
4) 民事訴訟をおこされたとしても、保険のおかげで医師には金銭的に痛みがないこと
5) 医療ミスの履歴、診療歴はほぼ公開されてこないため、患者の医師選択が進まないこと

 などが主因だろうか。

 要するに、比較的合格率の高い国家試験を合格してしまえば、その後、「何一つ学びなおさなくても」医師として食べていける。

 そしてたとえ重篤な過ちを犯したとしても、それほどの負荷を感じることはないので、反省する機会がないのである。

 こうした構造のせいで、薬の知識がなく、間違った投与を続ける、手術では同じミスを繰り返す医師が、あとをたたない。

 ---

 先日、厚生労働省は医師の氏名や処分の履歴をインターネットで検索するサービスをはじめた。

 過去の無策を考えると、これだけでも、画期的なことと言わざるをえないが、ここで検索できる処分は「行政処分」に限られている。

 医療過誤の多くが刑事、行政処分には発展せず、民事で争われていることを考えると、患者の立場からすれば、これだけではとても十分とは言えないだろう(あくまで欲望が肥大化する患者の立場から考えれば・・・)。

 医師が望むと望まないと、今後、さらなる情報公開が求められることになるのではないか、と想像する。

医師の処分、ネットで検索
http://www.asahi.com/health/news/TKY200703290333.html

 蓋し、あらゆるプロフェッショナル、セミプロフェッショナルは、いまやネットワークの進化にその地位を脅かされようとしている。プロフェッショナルの王道、医師とて、その例外ではない。

 ---

追伸.
 ここ数日書評が多いのは、海外出張恒例の新書祭りです。万が一退屈しないように、大量に持ち込んでいるため。今回は14冊も買ってしまった!、すべて読めるかな?