これが解ければ、あなたも研究者:酒井邦嘉著「科学者という仕事」

 酒井邦嘉著「科学者という仕事」を読んだ。

 アインシュタイン、キュリー夫人など、偉業をなしとげた科学者の言葉を引用しながら、「科学者とは何か」「科学とは何か」を論じている。酒井邦嘉氏は、認知脳科学の先駆者。

 本書における酒井氏の指摘には、同意できる点が非常に多い。

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 ニュートンを含めて、どんな科学者もスタートが学生であることに代わりはない。学生時代に最も大切なのは、科学研究に必要な「基礎学力」を身につけることだ。スポーツにたとえていえば、特定の種目に必要な筋力トレーニングに先立つ「基礎体力」に相当する。

(中略)

 この時期に最も大切なのは、科学の知識だけでなく、その方法や考え方を含めて模倣するである

(p48-49より引用)

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 研究者をめざす多くの人は、「何を研究するか」(what)が一番大切だと思うかもしれないが、その前に「どのように研究するか」(how)という問題意識の方がより重要だと私は考える。

 科学的な発想や思考、問題を見つけるセンスからはじまって、理論的な手法や実験的な手技に見られる基本的な勘所は、すべての分野に共通している。その意味で、「どのように研究するか」という考え方や方法論をしっかり身につけておけば、どんな分野の研究でもできることになる。

(p45-46より引用)

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 実際に学生に考えさせるのは決してやさしいことではない。私はいつも「馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」ということわざを思い浮かべる。このことわざを教育に当てはめると、「学生を大学へ連れて行くことはできるが、考えさせることはできない」となるが、またこれも真実かもしれない。

(中略)

 研究は本来水を飲むように、自発的に、そして主体的に行うものなのである。

(p223より引用)

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 何を問題に見定め、どのようにアプローチするか、についてまずは十分なトレーニングを積む。そして、研究をする限りにおいて、研究者はこれを自分で決め、取り組まなければならない。誰も教えてくれない。誰も支えてくれない。

 本書帯に印刷された、下記のコピーは秀逸であった。

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問題(1)
 何かおもしろい問題を考えよ。

問題(2)
 問題(1)でつくった問題に答えよ。

 これが解ければ、あなたも研究者。