阿部真大 「搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! 」 を読んだ

 阿部真大著「搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! 」(集英社新書)を読んだ。

 筆者の阿部氏は東京大学大学院博士課程で社会学を学ぶ学生。一年間にわたり、自ら「バイク便ライダー」のアルバイトをしながら、エスノグラフィーを執筆した。本書はソシオロゴスに掲載された論文を加筆・修正して一般向けに修正したものだという。

 阿部氏がリサーチクエスチョンは下記である。

「なぜバイク便のライダーたちは、不安定な雇用状況のもと、率先して危険な走行をおこなうワーカホリックになっていくのか」

 氏は、そのプロセスをエスノグラフィーという研究手法で明らかにすることを試みた。

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 一般にバイク便ライダーとは「収入の不安定性+身体の危険性」という等式が成立する職業であるらしい(p24)。

 請負契約のかたちで、企業と個人が対等に労働契約をむすぶため、最低賃金が保証されておらず、もし、万が一、事故をおこしてしまった場合には、明日からの収入がゼロになってしまう可能性がある。

 現在の若者の就業問題といえば、ニート、ヒッキー、フリーターが問題になることが多いが、彼が描いた「バイク便」は、それとは対極の世界である。阿部氏はバイク便の世界を「自己実現系ワーカホリック」といい、彼らがなぜワーカホリックになっていくのか、そのプロセスに迫った(しかし、この2つは実は表裏一体の現象である)。

 阿部氏は言う(しかも冒頭で・・・)。

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 不安定な仕事で自己実現し、ワーカホリックとなることは非常に危険である。だからやりたい仕事があっても、それが未来のない仕事であるならば、没入してはいけません。おわり。

 ……と、ここで終わっては、僕がこの本を書く意味がない。そのくらいのことは若者もわかっている。では、なにが問題なのか。それが分かっていても、彼らは不安定な仕事のなかでワーカホリックになってしまう。(19p)

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 若者は、最初、お金ほしさで時給の高いバイク便の世界にはいってくる。その多くは、バイクを趣味にもつ若者。趣味を生かせる仕事として、バイク便は、彼らにとっては非常に魅力的である。

 しかし、「バイク便の職場には巧妙なまれている(巧妙な・・・しかし、非意図的な)。その職場で時間を過ごすうちに、「腰掛け程度の気合いしかなかった若者たち」が、知らず知らずのうちにワーカホリックになってしまい、危険走行をものともしない、バイク便ライダーになっていく。

 若者たちは最初からバイク便ライダーなのではない。バイク便ライダーになっていくのである。

 それではなぜ、彼らは「バイク便ライダー=ワーカホリック」になってしまうのか・・・。
 
 
 
 
 
 

 ・・・本当に申し訳ないですが、それは自分で読んでください。
 だって、ネタバレになっちゃうもん。
 阿部氏自身がこの本の後半は「謎解き」だとおっしゃっているので、そのプロセスは書きません。

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 ふー。

 本書、僕はヒースローからパリまでの飛行機の中で読みました・・・。てことは、かけた時間は1時間以内です。そのくらいすらすら読めてしまいます。

 でも、だからといって、薄い本ではなく、難しいことを平易に伝えようとしています。きっと一般の人、そしてバイク便ライダーの方にも読んで欲しかったのではないかな、と邪推しました。

 印象としては、

 エーレンライクの「ニッケル・アンド・ダイム」
           +
 ウィリスの「ハマータウンの野郎ども」
           +
 佐藤郁哉「暴走族のエスノグラフィー」

 といったテイストをもった本のように感じました。わたしは門外漢なので、よく知りませんが、こういう先行研究のエッセンスをうまく生かして、バイク便の世界にアプローチしているように思いましたけれども。

 阿部氏は1976年生まれ。自らも団塊ジュニア世代です。現在は、ケアワーカーの労働実態を調査なさっているようです。今後が、とても愉しみですね。