日本科学教育学会に参加した!

 筑波学院大学で開催されている日本科学教育学会に参加している。

 日本科学教育学会には2度目の参加になる。去年「おやこdeサイエンス」をやったことからか、某大分大学の竹中先生に「課題研究の発表をせよ!」という指令を与えられ、はせ参じている。僕の発表は、金曜日の朝10時だ。

 下記、感想。

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 「科学教育のフロンティア」というセミナーにでる。さまざまな立場から、それぞれの領域の最先端を語る試みだ。科学教育学会の若手研究者たちが企画・実施しているらしい。司会は、長崎大学の森田先生だった。望月俊男さん@東大もスーツ姿で気合いをいれて、講演していた。

 特に印象深かったのは、中山先生@宮崎大学のご発表である。タイトルは、「理科って何だ、子どもって何だ、という問いに答えるための道のり」。

 中山先生は、かつて若手が集まってやった共同研究プロジェクト「知の表現プロジェクト」が、ご自身のその後の研究を支える豊かな経験を提供してくれたことを回顧的に語っておられた。

 この研究プロジェクトでは、「理科の学習をどのような方法で研究し、どのように記述しうるのか」について若手研究者が一切の妥協をせず、議論し、共同研究を推進したのだという。

 この共同研究プロジェクトによって、1)大人数での共同研究へ免疫、2)協調と折衝の基礎力、3)共同研究・協力可能な人脈も獲得なさったのだという。大変面白い内容で、思わず引き込まれた。

 中山先生のご講演では、2つの名言が飛び出した。
 1つめは、教員をしていくのに必要な3つのこと、である。
 中山先生によれば、それは「運・鈍・根(うんどんこん)」なのだそうだ。

 1.運:運がよい
    →グラントや科研があたる

 2.鈍感:他人の批判にある程度鈍感である
    →すぐに落ち込まない
    →批判されたから自分がダメだと思わない

 3.根性:最後はやっぱり根性をいれて取り組む

 僕としては、特に2についてはかなり共感する。研究に対する批判に対してセンシティブな人は、この世界では、生き残っていくことが難しいと常日頃から思っているからだ。

 このあたりは文化人類学者の船曳先生も述べていることではあるけれど、研究者の資質として必要なものに「攻撃性」がある。攻撃性があるということは、防御も重要な資質だと僕は思う。批判されたり、批判したりは日常茶判事だからだ。

 だから、1) 批判されたことを人格否定と過剰に受け取ったり、2) 批判されたことで右往左往してしまったり、していては命がいくらあっても足りない。批判されたら、「批判するオマエが悪い」くらいに開き直ることも、また重要なことなのだと思う。

 もちろん、あんまり「鈍」だと困る。素直じゃないのはもっと困る。だけれども、批判にセンシティヴすぎるのはさらによくないと思う。そのあたりの頃合が、非常に難しい。

 2つめの名言は

 「ペスタロッチの手紙には書いてない」

 これは、中山先生の師の言葉らしい。要するに、かつての形而上学的な教育学を批判し、実際の子どもや学習者が生きていく場を観察することの重要性を述べている。

 かつて教育学は、教育の本質の存在を仮定し、教育学者の文献の中にそれを求めた。それも重要なことではあるけれど、それだけではない。至極名言だと思う。

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 セミナー終了後、ポスターセッションにでた。科学教育学会のポスターセッションは、投票つきのもので、最もすばらしい発表には「ベストプレゼンテーション賞」が贈られる。

 僕は、九州大学大学院の瀬戸崎さんの「無線小型カメラを使った月の満ち欠けのデモ」と、神戸大学大学院の大黒さんによる「協同学習の理論と方法を習得する教師教育プログラム」がとても面白いと思った。

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 これを含む3つのポスター発表に一票を投じたが、最終審査結果は、この2つに「ベストプレゼンテーション賞」が贈られた。自分の勘はまだ「あさってな方向」を向いてないなぁと思い、ちょっとうれしかった。

 このポスターセッションでは、どの発表も個性的で大変勉強になったのだけれども、九州大学大学院の瀬戸崎さんや神戸大学大学院の大黒さんの発表は、「僕だったら、こういう風に研究をまとめるだろうな」と、頭の中で実験計画やカリキュラムを組み立てながら、話を聞くことができた。あそこをあーやれば、あーなるだろうな。ここをこうやって、こうすりゃいいのだね。そんな無責任な思考実験はとても楽しかった。

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 学会に来るたびに思うことだが、僕にとって「学会とは、研究発表を聞く場」ではない。

 僕にとっては、

1.他人の研究成果をネタを、自分の研究ネタのアイデアだしをする
2.他人の研究動向から自分の研究を方向性の正しさをつかむ
3.ある領域を一番知っている人と仲良くなり、最新の研究成果を10分で聞いて一人で納得する
4.協力可能な若い人を探す

 場である。

 僕は「学会に参加」しない。
 僕は「学会を貪欲に利用」する。

 そういう意味では、今回の学会は、非常に得るものが大きかった。帰り際には共同研究者のSさんにお会いして、脳科学に対する自分や他の研究者の立ち位置も確認できたし。

 最後に今回の学会参加は、神戸大学の稲垣先生の科研のご支援を受けた。この場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。研究会運営には、森田先生や山口先生などが、随分と尽力なさっていた。そんな彼らを見ていて、少し元気になった。

 明日は発表(もう今日だけど)。
 さぁ、どうする?