「大学教育の変革」を支援する

 学会初日です。今日は、カーネギー財団知識メディアラボの飯吉透(いいよし・とおる)先生にお会いしました。

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カーネギー財団知識メディアラボ
http://www.carnegiefoundation.org/programs/index.asp?key=38

飯吉透先生
http://www.carnegiefoundation.org/about/sub.asp?key=10&subkey=269

 飯吉先生は、かつて「NHKマルチメディア人体」などの教材を開発なさった方として非常に著名な方です。

NHKマルチメディア人体とは
http://beatiii.jp/seminar/010.html

 現在は、カーネギー教育財団の方で、「大学の変革を実行する人材 / 大学教育改善を行える人材の育成」などに関連する各種プロジェクトを実施なさっています。

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 飯吉先生とは様々な事をお話ししましたが、非常に印象深かったことが2つあります。

 まず1つめは、「外部の機関が、大学の変革を支援するためには、どのような支援が適当なのか?」ということです。これに関して、カーネギー財団では、「サスティナビリティ」ということを重視したアプローチを採用して、様々な大学に対して支援を行っているのですね。

 ご存じのとおり、カーネギー財団は鉄鋼王カーネギーの莫大な資金を原資として、様々な教育機関、教育プロジェクトに支援を行っている非営利団体です。

 こう書いてしまうと、

「わーった、わーった、カーネギーは単に金を配っているってことだね?」

 と誤解されそうですが、それは違います。

 カーネギーは確かに1年間でかなりの額の経済的援助を行っているのですが、「単に金を配っている」わけではありません。

 彼らが非常に重視しているのは「サスティナビリティ(持続可能性)」ということなのです。要するに、「大学の変革が長く続くように、あるいは、教育改善の試みが持続していくための仕組み」をつくろうとしている。

 通常、教育機関を支援しようということになると「資金を配って終わりのファンド形式」をとりますね。要するに、「こんなことをやるよー」といってプロポーザルを大学などから募集して、審査をして、数千万単位のお金をつける。で、1千万円で○センチだぞ、なんていって、報告書を書かせる。報告書は、ファンドをだした団体のどこかのキャビネットに格納され、その後、目にしたものはいない・・・みたいな。要するに「丸投げドン支援モデル」です。

 ここに欠けているのは「サスティナビリティ」なのです。持続可能性がない。要するに「配ってしまって終わり」「短期間やって終わり」ということですね。

 じゃあ、カーネギーはどうするか?

 彼らは自前でCATSLという研修プログラムをもっています。ここでは、まぁ、いろいろなことをやっているのですが、特徴的なものに大学の経営者層を対象とした研修があります。日本でいうと、学部長以上、おそらく副学長、理事クラスを対象にした研修ということになるのでしょうか。

CATSL(Carnegie Academy for the Scholarship of Teaching and Learning)
http://www.carnegiefoundation.org/programs/index.asp?key=21

 全米の大学の経営者層の中から参加者を募集して、旅費・滞在費・研修費を丸抱えして大学変革に関する研修を実施しています。

 この研修では、

1)自分の教育活動を振り返って、まとめて、他者に公開するといった、いわゆる授業改善の方法を経験する

2)大学改革、大学教育改革のためのリーダーシップのあり方、俗にいえば「チェンジ・マネジメント」の方法を身につける

 などのことを実施します。
 
 通常、大学経営者層を対象にした研修というと(とはいっても日本ではなかなかないですが・・・)、真っ先に思いつくのは2)ですよね。でも、特徴的なのは1)にも取り組ませる。

 なぜ、この2セットに取り組ませるかというと、結局、自分の経営する大学にも「CATSL」のようなマインドのもったプログラムや研修の機会を作って欲しいからです。
 要するに「学内版CATSL」の制度をゆくゆくは参加者につくってほしい。言い換えるのであれば「CATSLを受講した大学経営者が、学内版CATSLをつくること」を期待してる。

 アメリカの大学経営者層というのは、任期中に何かプロジェクトをやることが求められます。大学経営者層には、大学経営者層の転職市場があって、「在任中にどのようなことを成し遂げたか?」によって、その後の転職先、給料もかわる。
 たとえば、ある地方の教育系大学の副学長をしていたとして、そこで業績をあげ注目されると、有名私立大学の副学長のポストが見えてくる。で、給料も「セーノーどん、ハラタイラさんは2倍」ってことになるわけです。

 要するに、カーネギーとしては、経営者層が在任中に「旗揚げ」する「自分のプロジェクト」に「学内版CATSLライクな試み」が取り入れられることを期待しているのですね。
 マクロに見ると、「旗揚げ」する「旗」のネタを提供しているということになるのでしょうか。大学経営者層に「個人のキャリアアップのための機会も提供」しているということです。

 あるところで、そうした試みに成功した場合、きっと転職先の大学でも同じ事に取り組みますよね。また元の大学では、いったん成功した試みは、そう簡単に辞めるということにはならない。
 そうやって、少しずつ「CATSLの試み=大学改革/大学教育改善の試み」が広まっていかせようとしているのです。
 最近の流行語でいうと、「エコシステム(ecosystem)」をつくりだそうとしているのです。
 
 ここが、僕は「さすがだなぁ」と思いまshた。

 「サスティナビリティのある教育変革」は、学習科学の最近のホットな研究潮流のひとつなのですが、その潮流をうまく、カーネギーの研修プログラムに取り入れている。
 また、何よりね、大学教員にインセンティヴがかかる仕組みにしていわゆる教育改善に取り組ませているところがさすがだと思います。

 「大学教員ならば教育改善に取り組むべきだ」とかいう精神論といいましょうか、根性論を廃して、テクニカリーにエコシステムをデザインしているところがいいなと思ってしまいました。こういうことは、誰でもできることではない。

 教育社会学が「当為を廃して事実を見る学問」であろうとするならば、教育工学は「当為を廃して現実をつくる学問」であると僕は思っています。先のCATSLの背後には、このような教育工学マインドが感じられました。

 もちろん、CATSLは米国の大学カルチャーの中ではじめて成功する、ひとつの支援モデルです。日本にそのまま当てはめるのは無理です。日本には日本の大学のカルチャーにあった支援モデルを考え出さなきゃならない。日本版のエコシステムをつくらなければならないのです。

 それが何か?
 皆さんはどう思われますか?

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 本日印象に残ったことの2つめは、飯吉先生がおっしゃっていた下記の言葉です。

「米国の大学では、大学教育の変革に教育学部が関与しているかというと、そうでもない。どちらかというと、教育学部は、教育に<誇り>をもっていたり、そもそも教育は、というもっともな話をするので、大学は生かし切れない。しかし、一方で、教育学部には、教育に専門性をもつ人たちが集まっているのだから、当然、大学内部からは期待される。そこに皮肉がある。」

 先日、東京学芸大学の佐久間亜紀先生の論文「アメリカにおける教育系専門職大学院の現状と日本への示唆」を読んでいただけに、- もちろん直接論文と飯吉先生の指摘は関係ないのだけれども - 重ね合わせて考えてしまいました。「米国でふきあれる教育学部批判」には、教育学部出身者として、何だか複雑な気持ちになりました(今の政権、共和党政権だということもかなり関係しているので、フィルタをかけて聞く必要があると思います)。

佐久間亜紀「アメリカにおける教育系専門職大学院の現状と日本への示唆」
http://homepage3.nifty.com/sakumalabo/html/IDE.htm

 これについては、今後も、教育学部をめぐる米国の状況等をウォッチしていきたいと思っています。

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 それにしても、国際学会というのは、単に講演や研究発表を聞くためだけに行くのではないんですね。これに関して学習科学で著名なある先生が以前、こんなことをおっしゃっていました。

「国際学会にいったら、人にあって、最新の研究成果や、自分が今オモシロイと思っている研究を聞くことだよね。論文を読むよりも、はやくおおざっぱな学問の動向を知ることができるから。詳細に知る必要があったら、そのあとで論文を読めばいいのです」

 今日の飯吉先生とのミーティングでは、かなり多くの収穫がありました。

 自分が今年度から2年かけて取り組もうとしている研究が、それほどメインストリームの課題と離れていないこともわかったし、さらに、ある点を付けくわえればもっとよくなることがわかった。

 飯吉先生、貴重な時間をありがとうございました。

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