おちおち病気になれない:アメリカの医療費

 先日、あることから「アメリカの医療サービス」について調べていていました。完全に市場化されているアメリカの医療の事例をもとに、「市場化の果てには、どんな未来が待ち受けているのか」っていうことを考える、みたいな話なんですけど。

 で、こんな記事をみつけた。

毎日キャリアナビ
http://career.mycom.co.jp/job/backnumber/america/index.cfm?volume=40

>アメリカは医療費がばか高い。
>先日、歯医者さんで親しらずを
>抜く治療見積もりを見て、イス
>からずり落ちそうになった。
>その額なんと$1,200(約13万円)!

 親知らず抜いて13万円!・・・いやぁスゴイ。先日、うちのカミサンが親知らずを抜きましたが、2000円くらいだよ、2000円。65倍ですよ・・・。

 でもね、実は、アメリカの医療費が高いってことには、僕もちょっとした経験があるんです。
 2004年、僕がアメリカに滞在していた頃、ストレスだったんでしょうかね、今まで痛んだことすらなかった、「胃痛」をはじめて経験した。なにせ胃痛なんか経験したことないからさ、なんか怖くなって、現地の病院に行ったことがあるんです。

 病院といっても、なんていうのかな、大学の教官研究室みたいなところにいるドクターと面接するっていう感じで、おおよそ病院らしくないんです。

 看護婦さんはいないし、待合室もない。完全予約制で、個室でドクターと二人。カルテもあるんだか、ないんだかよくわからない感じ。

 ちなみに通院した病院は、ボストンの人なら誰でも知っている某有名私立○○大学医学部の付属病院。ドクターはそこの助教授ということで、あやしい感じではなかったと思う。

 まず予約された時間に、トントンと「教官研究室」をたずねます。で、そのあとはドクターにひたすら質問攻めにあいました。で、ひたすらそれに答えた。でも、いつまでたっても、基本的には対話だけなんですよね・・・やることが。
 診察らしいものといえば、聴診器をあてたことと、背中をポンポンと叩かれたことくらい。もちろん治療はなしよ。「寝てりゃ治る」みたいなノリです。えっ、それだけかい!と思わずつっこみたくなる。

 異国だったこともあり、さすがに不安になって「検査とかはしないんですか?」と聞いたら、その先生、急に機嫌が悪くなった。「なんか言いました?」ってな感じで、とにかく、不機嫌そう。

 だってさ、日本で「胃」が痛いということになれば、「だいたいはまず胃カメラをやる」というのが常道でしょ。同じ医療なんだから、そんなに変わらないだろよ。
 で、ちょっと聞いてみたかっただけだったんですよ。そしたら、なんて言ったと思う、そのドクター。驚愕の事実が告げられました。

「胃カメラね、胃カメラ希望ですか。じゃあ、やってもいいですけど、1500ドルくらいになります。よろしいですね? ちなみに保険はきかないです」

 オッサン、しゃーしゃーと抜かしたね、コラ!
 1500ドルといえば、アンタ、当時で16万円くらいですよ!ぶったまげました。
 だってさ、胃カメラを日本でやったら、保険がきいて5000円ちょっとくらいじゃないの?保険きかなくたって、2万円はいかないですよ。

 もちろん検査は断りました。
 だって、日本に帰ったって、オフシーズンだったら渡航費で10万しないよ。検査代が5000円だったらさ、日本に帰って検査受けた方が安いんだから・・・。

 でさぁ、そのとき、僕は思ったね。

「あー、この国では、命もカネで買うんだなぁ・・・おちおち病気になれんわ。」

 本当に心の底から、このことが実感出来たんです。僕はそのとき、本当に怖くなったよ。でも、今まで「アタリマエ」に思えてきた日本の医療制度ってのがスゴイことなんだってわかった。よくできているんだなぁと思いました。

 でさ、そのときの経験を大学のみんなに話したらさ、特別驚かないわけよ。あるアジアの女の子なんて、こう言ってた。

「お金持ちが長生きできるのは、わたしの国ではアタリマエだけど、日本じゃ違うの?」

 あっ、そうなの。皆さんのお国では、アタリマエなんだ、と。

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 こうしたことは、留学したことのある人だったら、だいたい、同じような経験をもっているのではないかと思います。Webでざっと検索したら、たとえば下記のような記事をみつけました。

アメリカの医療費
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/america.html

ヘリに乗ってはいけない
http://www.tanteifile.com/diary/2004/01/10_01/index.html

盲腸で1万3000ドル
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/n_ame/ny.html

 おー、恐ろしい!
 本当に病気にはなれんぞ、これじゃ。マンハッタンで1日入院したら一泊20万から30万って・・・。そんだけとるなら、なんか、スゴイモンでてくるんだろうな。ものすごいスペクタコーを見せてくれるんだろうな、そんだけボッタくるんだから。

 実際、アメリカの個人破産の半数の原因は、医療費だそうです。

アメリカ:個人破産の半数は高額な医療費が原因
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2005/02/post_3.html

 実際、アメリカ人も困っているんでしょうね。

 この経験のあと、知り合いのお医者さんに聞いたところによると、アメリカの医療費高騰の背景には、医療訴訟と保険料の高騰の問題があると教えてくれました。それが結局、ぜんぶ、患者の負担にはねかえってるんだねー。

 あと、過剰な検査をすぐにやっちゃう日本の医療にも問題はあるんだよ、と教えてくれましたけど。そりゃ、そうだろうなぁ。

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 その一方でさ、先日読んだ本には、こんなことが書いてありましたよ。

「お金さえあれば、素晴らしい医療が受けられる国、それがアメリカである。いまや、日本のお金持ちは、日本の医療を見限るようになる。アメリカの高度医療を進んで受けようと、渡米して治療する時代になるだろう」

 うーん、こう言われるとさ、よくわからなくなってくるよねぇ。

 僕は専門家ではないし、そもそも、日米で医療文化には差があるだろうし、広範な医療問題全般を、このエントリーで、データ抜きで論じることには無理があると思います。

 もちろん、サービスにはクオリティというものがあるので、「全員に等しく同じ医療を提供する」っていう理念がいかに現実的ではないということも、またそうするべきではない、ということもわかる。

 でも、とても月並みで、おおよそ研究者らしくない物言いなんだけどさ、行き過ぎるとコワイよねぇ。ホント、行き過ぎるとコワイ。それだけです。

 こういっちゃ、シロウト議論で恐縮なんですけど、「市場化と公共性のうまいバランスはないものか」と思ってしまいますね。今の日本の状況は、「国民皆保険の制度で平等を守りつつ、医者選びには市場主義をはたらかせる」という方向なのでしょうけど、そのあたりでぜひ、落としどころにして欲しいというのが、患者としての実感です。

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